ないしょです
「今日のフウちゃんのラッキーアイテムは、寝不足らしいよ」
朝食をおえて、スマートフォンをいじっていたかと思うと目の前に座っているオシドリがそんな事を言いだした。
昨日も同じようにスマートフォンを触っていたのは今日みたいに占いをしていたのかもしれないな。
「アイテムと言うよりは、ラッキーフェイスって感じじゃないのか? 寝不足なら」
「細かい事は気にしないの……そもそも占いなんて当たらないか外れちゃうかの、どっちかでしかないんだから」
「選択肢がなくなっているような」
「今日のフウちゃんはつっこみのキレが悪いね。本当に寝不足なんだ」
なんでかな? とでも聞きたそうな顔つきで、オシドリがルナさんみたいに両目を輝かせている。
「ところで、今日のオシドリのラッキーアイテムはなんだったんだ?」
「えっとね、寝泊まりさせてくれている異性の秘密を暴く事。みたいだね」
「かなり限定的だな」
もう、ラッキーアイテムでもフェイスでもないしな。オシドリのぼけかとも思ったが、確かにスマートフォンの液晶画面にそう書かれていた。
「その占いサイトの人とオシドリは知り合いだったりするのか?」
「ううん、そんな事ないよ。わたしと当たらない館って占いサイトの人は全く関係が」
「その占いサイト、見ないほうが良いんじゃないのか。名前がもう、あれだしさ」
「えー。この当たらない館って名前が面白いのに。それにサイト名とは反対にね、かなり当たってたりするんだよ」
まあ、占い自体が当たるかどうか以前に、迷っている時の指針を決めるアドバイスってイメージのほうが強いからな。多分だけど。
「体験談って言うのかな。この当たらない館に書かれていた……ラッキーアイテムを身につけていたらね。宝くじが当たったって報告している人もいるんだよ」
「一千万円とかってやつだろう、それは」
「ううん。千円だって」
「それは、本当かもしれないな」
別に宝くじの当選金額が大きければ大きいほど信じられなくなる訳でもないけど。それくらいのほうが、色々とリアルだったりするよな。
「人間ってのは……自分の感覚よりも大きくはなれちゃった事に関しては信じないところがあるからね」
「今日は語りますな、オシドリさん」
「もう、からかわないでよ。あ、でも、そう言う考えかただとさ。学校の事件って本当に吸血鬼が犯人だったりするのかな?」
オシドリの言っている事が……ぴんとこなかったので首を傾げてしまった。
「えっとね、吸血鬼って存在がいる事はそれなりに聞いたりはするけどさ。この目で見るのは普通の人間だとあんまりないよね」
「まあ、そうだな。年配やバイトとかで血を提供している人は見分けがつきやすいらしいが」
オシドリの言っているように……吸血鬼を見ない、と言うよりは。逆にそれらを見慣れすぎていて判別しづらいのほうが正しい。
チート吸血鬼みたいな純粋なやつに会う事はほとんどないからな、強ちオシドリの話も全くの間違いでもないのか。
人間から血をもらいやすくするための進化やらで判別をしづらくしているとかなんとか言っていたっけな……誰かが。
「だから、犯人が吸血鬼なんだ! って言われても。ぴんとこないんだよね」
「実感がないって事だな」
「わたしの頭が、お花畑なのかな」
「いや。それが普通なんだと思う」
ほとんどの人間が、そんな危機感をもってないからこそ今回みたいなうわさをながしてヒマつぶしを。
「じゃあ、フウちゃんはエクソシストだから色々とアダルトチックだったりするんだね」
「そうかもしれないな」
オシドリが目の前においてあるマグカップにコーヒーを注いでくれている。この一杯を飲んでから学校に。
ん? 今、オシドリはなんて言ったんだ。
寝不足のせいか……言ってはいけない事を言ってしまったような。
「いや、それにしてもびっくりしたよ。フウちゃんがエクソシストだったなんて」
口に含んでいるコーヒーをはきだしそうになったが、なんとか飲みこむ。
「って事はさ、わたしの正体も分かっているんだよね。むしろ、だからこそ仲良くなってくれていたのかな」
なんて言いつつオシドリが自分の口の中に人差し指をつっこんで、そのはしっこを引っぱっている。
めきめきめき……と言う音を響かせながら普通の歯を鋭い牙に変化させていく。
「わたしが美人すぎてばればれだったと思うけど。実は半分ぐらい吸血鬼だったり」
「いや、吸血鬼だとは全く気づいてなかったな。美人だとは前から思って」
もしかして、今回の事件の犯人は。
「それは違うよ。夜になると血がさわいじゃったりするけど、トマトジュースも飲めないぐらいだし」
「別問題じゃないか、それは」
自宅をでて、学校へと向かっている途中。それとなくオシドリが今回の事件の犯人なんじゃないか? と聞いてみるが否定された。
「吸血鬼、って言ってもピンキリだし。それに最近はそんなに血を求めたりしないらしいよ。食文化が変わったとかで」
オシドリの話によると血しか受けつけない吸血鬼もいるが……ほとんどは栄養価の高い現在の食事に適応できているようだ。
「確か、吸血鬼がそんな事をしていたのは。血を吸うのが一番、栄養を摂取しやすかったからだとか」
「ふーん、血の味は知らないが。現在の料理は美味しいものが多いからな、進化ってやつかね」
昨夜、ステレオタイプであろうチート吸血鬼も似たような事を言っていたっけ。けど、それが最新だとするなら。
「オシドリが言っていたように、学校の事件の犯人が吸血鬼。って可能性は低くなりそうだな」
だからって、おれがヨミカさんの手伝いをできる事になる訳でもないか。根本的な問題として犯人が純粋な吸血鬼だった場合。
良くて、半殺し。最悪だと、おれは。
「どちらにしても力不足だよな」
そもそも今回の事件は……おれが首をつっこんだだけで。絶対に自分で解決をするべき事でもないんだよな。
色々と本気になれない、おれだ。ある意味では、らしいとも言えるのか。
「本気で事件を解決しようって気がないんだから」
多分、本音としてはヨミカさんの。
「なんの話か、よく分からないけど。本気で事件を解決しようって考えなくても……フウちゃんが力不足だったとしても。良いんじゃないのかな?」
小さな独り言のつもりだったのだが、オシドリには聞こえてしまっていたようだな。
「良くない。本気で事件を解決しようとしている、とんでもない力をもっている存在達の足手まといに」
「それでも、フウちゃんは正しい事をしようと思っているんだよね。だったら……それは良いと思う」
本気じゃなくても、事件を解決するための力が足りなかったとしても正しい事をしようとしているんだから絶対に良いよ! とオシドリはくり返している。
「本当。シンプルで楽観的だよな」
「ほめすぎだよ」
「そうだな。ほめすぎたかもしれない」
「ほれちゃって……って。ええ! ふ、フウちゃん」
二日ほど、全く眠ってなかったからか頭がふらつき身体が重くて。隣を歩いていたオシドリに身体を。
視界がぼやけていて見えづらいが顔の辺りにやわらかいものが当たっている気がする。
「枕に、ちょうど良さそう」
「ど、どう言う意味かな。フウちゃん」
オシドリの声が小さくなって、いき。
「あ。フウちゃん、起きたみたいだね」
少しずつ目を開けていくと……白い天井と傍らでパイプ椅子に座っているオシドリの姿が見えた。それと、なぜかは分からないけど頭と左頬の辺りが痛い。
頭のほうは寝不足のせいだとして、左頬はなんだろう? おれを起こそうとして、オシドリがなん回かビンタでもしたのかね。
「もう寝不足だったらはじめからそう言ってよね。危うく半分ぐらい人の道を外れちゃうところだったんだよ」
「ハーフなんだから、すでにその道は外れているんじゃないのか」
「それはさておき。もうすぐ昼休みだから、お弁当とかもってきてあげた事を感謝してよねん」
「ああ、悪い悪い。それよりも左頬が痛いんだけど。眠っている間に」
「今日のフウちゃんは頭がふらついて、身体も動かしづらいと思うから食べさせてあげるよん」
と、顔をこれまでで見た事がないぐらいに真っ赤にしているオシドリが言っている。
もしかしたら眠ってしまう前に、オシドリになにかを。知らぬが仏だろうし、これ以上はお互いにとって不利益にしかならなそう。
「ありがたいけど。自分で食べられる」
上半身を起こして……保健室のベッドの上でオシドリがつくってくれたお弁当を食べていく。
本当はいけないんだろうけど保健室の先生に許可をもらったようで。オシドリも傍らで玉子焼きを口に運んでいた。
「フウちゃんって、枕が変わっちゃうと眠れなくなっちゃうタイプ?」
普段から、食事をしている時にオシドリはなにかしらの話題を振ってくるが今回はまた変なものを選んできたな。
寝不足で、おれが倒れたからかね。
「そんな繊細なタイプじゃないな」
「そうなんだ。でも、フウちゃんは低反発の枕のほうが良いと思うよ」
「なんで?」
「なんでも」
おれの身体に、半分ぐらいはながれているだろうオオカミの血が訴えているのか。身体がぴりぴりとしている。
「オシドリがそう言うなら、明日でも低反発の枕を買ってこようかな」
「買ってくる必要はないよ」
なんで? と……また言いそうになったがやめておく。オシドリが返してくるであろう言葉も分かっているし。
それに普段よりもオシドリの雰囲気が鋭くなっている気がしていた。どことなく、あのチート吸血鬼と似ていて。




