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たまにはデレてみる①

 サンドイッチの具材になっちゃったみたいだな。あの吸血鬼のストーカー風に、変質的に言えば百合って感じだろうか?

「うー、ぬー」

 変な寝言を口にしながら、わたしのお腹のほうからザンカが抱きついている。見た目は大人っぽいが、かなり甘えん坊なようで……今みたいに誰かにくっついてないと眠れないようだ。

 けど、大人しく眠っているところを見ると上書きのほうは完了してそうだな。

「ヨミカちゃん、あったかい」

 ザンカの頭をなでていると、背中から抱きついているルナがくっついてきた。まだ……寝起きなのか声が少し聞こえづらい。

「ルナ。おはよう」

「うーん、ん。おはよう、ヨミカちゃん」

 悪戯っぽく笑いつつ、ルナがお腹を触ってきた。なんと言うか手慣れている感じだ。

「ルナ。くすぐったいんだけど」

「ヨミカちゃんが太ってないか。確認をしているんだから、がまんしなさい」

 なぜか、ルナに怒られてしまった。と言うか、そんな確認をする必要があるのかな?

「むー、トコヨくんは毎日このお腹を触っているのか、羨ましい」

「変な事を言わないで……あのストーカーとそんな事してないから」

「そんな事って、どんな事かな?」

 寝起きでテンションが高いせいだろうけどルナが耳もとでささやいている。あのストーカーもだけど、どうして……わたしにこんな事をしてくるんだろう。

「どんなって、恋人同士がするような事よ」

「トコヨくんと彼氏彼女の関係なのに?」

 気のせいかな? ルナの両手が、お腹からゆっくりと上のほうへ移動してきている。

「だから、ストーカーだってば」

「一緒に暮らしているのに?」

「うう、それは」

 そう言えば……かなり前にルナにあいつと暮らしているって言ったんだっけな。一緒にご飯を食べる事が多いから、全くのうそではないけど。

「なるほど。トコヨくんががまんしてくれているんだね」

 わたしが言いあぐねていると、ルナが勝手に勘違いをしたようで……話をまとめられてしまった。

「いやいや。あのストーカーはがまんなんかするタイプじゃないような」

「そうかな? がまんしてるかどうかはおいといても。ヨミカちゃんが大好きなんだからさ、いやがる事はあんまりしないようにしていると思うよ」

 それを、がまんって言うんじゃないだろうか? そもそも、あのストーカーはそんな事を考えてなさそうだけどな、多分。

「たまには、ヨミカちゃんから好き好き……言ってみても良いんじゃない?」

「却下。そんな事したらストーカーがスーパーストーカーになっちゃうでしょう」

「そっか。でも、ヨミカちゃんもトコヨくんの事が好きだよ、って伝えないといなくなっちゃうかもしれないよ」

「別に良いわ。ストーカーなんだから」

 あのストーカーは、人を襲わない事だけは信用しているんだから、わたしからはなれたとしても問題なし。

「トコヨくんの……あのフレンチトーストも食べられなくなっちゃうよ」

「う」

 うー、それだけはね。そんなわたしの心を見透かしたかのように、お腹が勝手に鳴っていた。

「へへっ、トコヨくんを食べたいの?」

「フレンチトーストのほうだか、ちょっ……ルナ。変なところを触らないで」




 なんとかルナに身体をまさぐるのをやめてもらいベッドから起き上がった。

 昨夜、ストーカーとザンカにかなりの量の血をあげたからか身体が少し重い。

「ヨミカちゃん。今日は休みなんだからさ、ごろごろしようよ」

 と言うか、普段よりも身体が重いのはルナが後ろから抱きついているからか。

「ルナ、重い」

「それはヨミカちゃんの罪の重さだね。軽くしたかったら今すぐわたしに朝食を用意するんだ」

「分かった……か、ら?」

 あれ? 立ち上がろうとしたが、力が入らない。前のめりに倒れていて……ちょうど、土下座をしているような形になってしまっている。

「わ。ヨミカちゃん、腰の肉が透け透け」

 ルナの言っている事は分からないけど……パジャマがめくれてしまって、腰のところが丸見えなんだと。

「わたしが抱きついてあげるね」

「いや、毛布をかけてほしいな」

 ルナのぼけ……じゃないな。多分、本当に思っているであろう言葉につっこみながら、ベッドの上に寝転んだ。

 目の前には、ザンカの膝裏があった。蹴られないかな、と不安だったり。

「ルナ。ごめん、疲れているみたい」

「良いよ良いよ。それに……ヨミカちゃんが弱っている姿を見るのは、かなり好きなんだよね」

 へへっ……と笑うと。ルナは四つんばいの状態でわたしのほうに近づき、引っぱって、身体を動かしてくれている。ザンカの寝顔が見えた。わたしの匂いがしたからなのか彼女に抱きつかれてしまった。

「弱っているヨミカちゃん、わたしになにかしてほしい事はないかな?」

 わたしが、ザンカに抱きつかれている姿が面白いのかルナが楽しそうに笑っていた。

「とりあえず、弱っているヨミカちゃんって言わないでほしいな」

 なにかを思いついたようで、ルナの両目にお星さまが浮かび上がっている。いやな予感しかしない。

「トコヨくんを呼んでこようか?」

「絶対にやめて」

「ザンカちゃんに抱きつかれているところを見られるのが恥ずかしいの? 姉妹だし別に良いんじゃない?」

「問題はそこじゃないから」

 むしろ、眠っているとは言えザンカが一緒にいてくれているほうが、それなりに都合が良い。耳になん回もキスをされているけど。

「それじゃあ、問題はどこに?」

「だから」

 うーん、だまされてくれるかな? ルナは意外と鋭いところがあるし。

「うん。だから?」

 なにかを言いにくそうに顔を逸らしていると……にやついているルナがこちらに左耳を近づけてきた。

「今日はルナに甘えたい、です」

 目を見開き、ルナは口を開けている。少しすると、笑みを浮かべだした。

 しばらく笑うとルナも寝転んで、わたしの背中のほうから抱きついてきている。

「えへへへ、なんだかトコヨくんに悪いな。ヨミカちゃんを甘えさせるなんて」

 どちらかと言うと、ルナのほうがわたしに甘えているような気がするけど? まあ……別に。

「って、ルナ……あんまり変なところを触らないで、ほしい」

「トコヨくんに気づかれて良いの? ヨミカちゃん、パジャマ姿を見られたくないんじゃない?」

 ルナの言葉に思わず、反応してしまった。やっぱり気づかれていたのか。

「恋人同士なんだから見せてあげれば良いのにさ。トコヨくんもこんな風に触ってくれるかもしれないよ」

 ストーカーだから……と否定をしたかったけど、くすぐったくて。上手く唇を動かす事ができない。

「うう、ん。ルナ。本当にやめて」

 両足をばたつかせながらわたしがそう言うと。ルナがさらに強く抱きついてきた。

 ルナの両手も……せわしく動いていたかと思えば、ゆっくりと舌でなめるように。へ、変な事を考えたら駄目だ。

「残念。わたしが男の子で、ヨミカちゃんの恋人ならもっと色々と教えてあげるのに」

「る……ルナ」

「はいはい。分かったよ、ヨミカちゃん」

 わたしの頬にキスをすると、ルナは身体を触るのをやめてくれた。今朝は女の子にキスをされまくる運でも高いんだろうか。

 それと、女の子に悪戯されまくる運も。

「さて、とりあえず朝ご飯をつくってこようかな。トコヨくんにばれないように」

「そんなに心配しなくても、お昼ぐらいまでは起きてこないと思うよ」

「ふーん、なんで?」

「昨夜、色々とあったから」

 思わず顔を逸らしてしまう。後ろめたさと言うか、なんと言うか。

 ベッドから起き上がっているルナの両目が輝いているが。朝食の時に聞くつもりなのかスキップをしながら部屋をでていった。

 なんとなくザンカの頬を引っぱってみる。けど……起きる気配が全くない。部屋の扉や色んなところを見てから。

「あのばかストーカー、吸血鬼のくせに顔を三日月にされたぐらいで倒れるなんて」

 そう、わたしは口を動かしていた。悪口のつもりだったが、なんだか違う意味にも聞こえてしまう。

「ちゃんと謝ったけど」

 けど、って事はそうなんだろうな。

「あのばかストーカーみたいに、もっとシンプルな考えかただったら楽だったのにな」

 欠伸をすると知らない間に……ゆっくりと目をつぶっていた。ザンカの寝息だけが。

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