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【第二章連載中】全知の誓い ~第二の人生を謳歌する~  作者: 藤田 ゆきき
第二章 要塞都市ストーンヴェール編
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第8話 ボロの服を着た子供

 セリーヌと別れてから宿に戻る途中、期待と興奮に胸が躍った。

 リリアンからの贈り物――薬草採取の初任務クエスト

 そしてセリーヌとの明日の約束。

 宿に到着してから扉を開けると、暖炉の炎が、ほんのりと室内を照らしていた。受付の女性が微笑みながら声をかけてきた。


「おや、お早いお戻りで。やっぱり依頼は無かったのかい?」


「まあ無かったですね」


 リリアンのおかげで薬草採取の依頼を受けられたけど。

 それにしてもこの受付の女性の笑みがやけに目についた。彼女はどうやら冒険者事情に詳しく、昼前に出発した僕が依頼を受けられずにおめおめと帰ってきたのだと、面白おかしくからかっているようだ。


「うちで雇うことはできないよ」


「?」


「すっとぼけた顔したって無駄だ。あんたみたいなやつはよく見かけてきた。依頼で食い扶持を稼げない冒険者は日雇いで労働しているもんさ」


 ああ。

 そうだった。

 リリアンの話しを思い出す。

 冒険者も普通の仕事をしながら生計を立てることがある。

 どの世界も一緒だな。

 お金がないと生活できない。

 とても重要なものだ。

 まあ、それはともかく。


「そういうわけじゃないんです」


 僕は背嚢リュックから革袋を取り出して、カウンターの上に置いた。


「ちょっと換金できるものがありましてね。とりあえず一か月滞在させてください」


 受付の女性は驚いた表情を浮かべ、一瞬言葉を失ったようだった。その後、軽く眉を上げて笑みを浮かべた。僕がお金を持っていると思いもよらなかったのか、少し面食らった顔がおもしろい。

 ちょっと痛快。

 愉快だ。


「そうか。侮って悪かったね。わたしはミレイユだよ。とりあえず一か月の間よろしくな」


「ありがとうございます、ミレイユさん」


 早々に宿の手続きを終えて、鍵をうけとると僕は昨日と同じ部屋に背嚢リュックを置いて、また下の階に降りて行った。

 まもなく夕暮れ時。

 夕食には早かったが、ちょうど一階のホールの片隅で昨日、宿代をめぐんでくれた男性がテーブルについていた。僕はお礼がてら彼にお酒を注文した。ミレイユからグラスを受け取り、彼のもとに行く。


「昨日はありがとうございました。おかげで記念すべきストーンヴェール滞在の一日目に野宿をしないですみました」


「そうか、それは良かったな」


 彼はぶっきらぼうに答えた。まるで人と距離を置いているかのように。


「これはささやかながら昨日のお礼です。緑の酒(バーダントリキュール)です」


 グラスをテーブルに置く。

 緑色の酒だ。

 薬草や香草など、森の恵みをふんだんに使われている。森の民――エルフが好むと言われているお酒だ。珍しいもので、このお酒を取り扱う宿は少ない。

 なにせエルフはこの世界では人に比べてとても少数だ。そのエルフのためにお酒を置いていたところで商売にならないからだろう。この宿リーフ・レストはこのお酒を取り扱う数少ない宿だった。だから精霊魔法の使い手である()()はこの宿に滞在をしているのだろう。


「なぜこれを?」


「なんとなくです。気にいらなかったですか?」


「いや、悪くはない」


 照れくさそうに彼はグラスに口をつけた。

 この日、僕は彼と一緒に食事をともにした。

 今日の一日や明日のことを話すと、彼はとても興味深そうに話を聞いてくれたのだった。



 ストーンヴェール滞在三日目。

 月の初日。

 

 翌日、寝坊することなく僕は冒険者ギルドに向かった。

 まだ日が昇り始めた頃だというのに、ギルドの前では早くもたくさんの人だかりができていた。ギルドの開店を誰もが心待ちにしているようだった。

 人だかりの外れたところで、セリーヌの姿を見つけた。早速近づいて彼女に挨拶をした。


「おはようございます。セリーヌさん」


「ああ、おはよう。アンリ君……だったかな?」


「呼び捨てで構いませんよ。僕のほうが年…下ですし、今日は同じパーティじゃないですか」


 年下という言葉に少しの抵抗を覚えた。

 しかし彼女にとって僕はきっと庇護すべき子供に映っているに違いないので、頑張って年下を強調アピールした。これからも何かと便利な状況シチュエーションとして使えるかもしれない。


「これはギルドの依頼書をみんな取りにきているんですか?」


「ああ、そうだ。魔物を討伐しても依頼書がなければ報酬をもらえないし、門を通してはもらえないからな」


「へえ、そうなんですか」


 どうしてそんな面倒なことをするんだろう。

 パパっと外に出て、魔物を討伐してきました、と報告するのではダメなんだろうか。

 僕が眉間に皺を寄せていると、セリーヌが言った。


「君みたいな子供が無茶をしないようにするためだよ」


「え?」


「誰でも魔物を倒したら報酬をもらえるようなら、Gランクの初級冒険者が無茶をして戦いに行ってしまうだろう? 犠牲をおさえるために事前許可制なんだよ」


「そういうことなんですね。――ということは、皆が依頼を受けてからじゃないと中に入れそうにないですね」


「そういうことになるな」


「それはちょっと困りますね」


 人だかりを見る。

 ざっと四十人はいそうだ。

 これではかなり出遅れてしまう。

 依頼を受ける頃には魔物の数もかなり減っていそうだ。

 

「ところで他のパーティメンバーはどこにいるんですか?」


 きょろきょろとあたりを見回しても、セリーヌの周りには誰ひとりとしていない。どこかでパーティの仲間たちが待機しているのか、それとも今回は彼女一人で魔物討伐に挑むのか。僕は興味津々に尋ねた。


「……いない」

 

「え?」


「だ、だから言っただろう。私のパーティに入りたいと言ってくれたのは君が初めてだ、と」


 セリーヌの言葉に、僕は一瞬言いよどんだ。

 初めて?

 そういえばそんなことを昨日言っていた気がする。

 それはつまり、彼女も今回が初めてのパーティ結成なんだろうか?


「い、言っておくが私が独りなのは私が騎士団に所属しているからだからな! だ、誰も一緒になりたがらないんだ」


 セリーヌは分かり易いくらい動揺し、焦りが顔に現れる。言葉に詰まりながら手元を見つめ、照れくさい笑顔を浮かべた。彼女の手は細かに震えていたようだった。


「でも、君が初めてパーティを組んでくれるなら……。私にも仲間が一人増えたことになるのかな」


「セリーヌさん……」


 ともすれば感動的な場面。

 しかし、あいにく僕の目には、他に騎士らしき人が目に入っていた。周りの冒険者たちと和気あいあいとしている様子だった。

 騎士団でも実は『独り』なんじゃないかと思ってしまったが、込み入った話を聞いてしまうと彼女のことを不憫に思えてしまいそうだったので、僕は見て見ぬふりをした。


「ところでパーティ結成は自己申告制なんですか?」


 ふとした疑問をセリーヌに投げかけると彼女は首を横に振った。


「いや、冒険者カードにきちんと登録をしないといけないらしい」


 私も聞いたことがあるだけで実際にやるのは初めてだ、とぶつぶつ言いながらセリーヌが冒険者カードを取り出した。彼女に促されるまま、僕も冒険者カードを取り出して彼女のカードに重ねた。お互いの冒険者カードが淡く光る。

 しばらくして光が収まり、裏面を見ると無地で真っ白だったところにセリーヌの名前が刻まれていた。同様に、彼女の冒険者カードの裏面には僕の名前があった。

 おー。

 心の中で感嘆する。

 これでパーティ登録完了だ。

 セリーヌの顔を見やると、彼女は僕以上にうれしそうに頬を緩ませていた。


「これで同行という形で僕も魔物討伐に行けるようになるんですね。ありがとうございます。ところで、依頼は人数分受けられると聞きましたが、今回の魔物討伐はどうなるんです?」


 僕はセリーヌに訊いた。

 討伐数に応じて報酬が出るのなら、依頼は人数分の必要はない。


「魔物討伐に関してはパーティ単位だ」


 案の定だ。


「ということは代表者だけでいいんですね。じゃあ、僕が依頼書をとってきますね」


「え、おい!」


 セリーヌの制止の声を無視して、僕は冒険者ギルドの建物の脇の通路に入る。

 誰の視線も遮り、そして潜伏ハイドを発動させて隠密ステルス状態へと移行する。魔物の討伐が早いもの勝ちなら、依頼も早いもの勝ちでいいだろう。

 扉の前の人だかりの列をすいすいと縫っていき、列の最前列――扉の前に立つ。これで開店とともに一番に入ることができる。

 そこで僕はふと気づく。

 というか――中に先に入っていようか。

 ついに迷宮の扉では試す機会がなかったが、『閉められた扉』に隠蔽を施せば探知で誰かに見破られないかぎり、『開いた』状態を隠すことができる。

 僕の隠蔽技能はレベル21だ。

 この世界で僕の隠蔽を見破れる人はまずいないだろう。

 

 ――それにしても不思議なこともあるもんだよな。

  

 全知の技能レベルが20なのに、なぜかそのレベルを僕の隠蔽技能が上回ってしまった。

 あのときは必死になってとにかく技能を上げていたので、気にも留めていなかったが、よくよく考えてみると不自然だ。

 あの『はじまりの村』で本来の歴史に隠蔽が成功したときに歴史が変わった。

 全知が神の権能とするなら、それは、この世界の神の目を欺いたことにほかならない。

 なぜ僕にそんなことができたのか。

 それは今もって謎のままである。

 まあ、それを考えたところでどうにもならないか。

 答えがあるとすればきっとこの先分かるだろう。

 考えても答えがでない疑問に蓋をして、僕はギルドの扉に手をかけた。触れた瞬間に隠蔽を発動し、扉を開ける。開店直前のため扉は開錠されていた。中に入ってから扉を閉めて、依頼書が貼られている掲示板に向かう。

 ギルドのホール内では、開店準備が整ったようで、受付の女性たちが朝礼を行っていた。

 僕はマンスリーの魔物討伐の依頼書を手に入れ、おなじみのリリアンの前で待機した。

 そして開店と同時に、隠密を解除し、リリアンに冒険者カードと依頼書を提示した。

 ホール内に彼女の悲鳴が響き渡った。


「えっ!? なに! どういうこと!」


「ごめんなさい。早く依頼を取りにきたくてちょっとズルしちゃいました」


 リリアンが驚きとともに叫ぶと、周りの冒険者たちも注目してきた。彼女はしばらく呆然と立ち尽くしていたが、やがて笑いながら頭を振り、周りの冒険者たちに向けて手を振った。


「すいません! なんでもないです!」


 そういえばスカウトだったわね、とリリアンは頭を抱える素振りをみせた。


「いくら冒険者の競争が熾烈だったとしても、今度、同じことをやったら問答無用で最後尾に回すからね。今回だけは許してあげる。それで、ここに来たということはパーティに入れてもらえたのね。おめでとう!」


 僕は冒険者カードの裏側を見せる。そこに印字されている名前を見てリリアンは驚いたような顔をした。


「え? セリーヌさん? セリーヌさんと一緒に行くの?」


「はい。これから行ってきます」


「――そう。くれぐれも気をつけてね」


 手短に手続きをすませてもらうと、僕は急いでホールを出た。

 一番に僕が出てきたのを見てセリーヌは目を見開いた。


「早いな。いつ入ったのかも分からなかった。……ところで、どうして急に悲鳴が上がったんだ?」


「それは――秘密です。そんなことより早く行きましょう!」


「そうだな。この調子なら一番のりだ」


 これも初めてだ、とセリーヌは微笑みながら頷いていた。



 早朝の街をセリーヌとともに駆ける。まだ薄暗い中で、街の明かりが少しずつ輝いていた。

 早々に門を出て、『魔の森』に足を踏み入れると、朝露が静かに木々に積もっていた。鳥たちのさえずりが聞こえ、空気は新鮮で清涼感に包まれているようだった。

 しばらく進むと、先には岩場や茂みが広がり、地形が複雑になってくる。セリーヌは慎重に歩みながら周囲を警戒していたが、僕は構わずに茂みを勢いよく飛び越えた。この先にゴブリンがいるのは分かっている。

 今日は『魔の森』での討伐ということで夜闇の剣は宿に置いてきている。愛用の『ゴブリンの短刀』を手に、遭遇したゴブリンを一撃で倒していく。


「おい! 無防備だぞ!」


 辺りをまるで警戒せずに走り回る僕に、セリーヌが警戒心を強めた。複数の魔物に襲われたらひとたまりもない。彼女は経験的にそのことを知っているのだろう。しかし、それは僕には当てはまらない。

 ずいぶんと魔物狩りは久しぶりな気がする。

 気持ちの高ぶりを抑えられない。


「大丈夫ですよ、セリーヌさん。まだここは森の序の口ですよ。弱い魔物しか出ないですって」


「そうは言っても、数でこられると厄介だぞ」


「大丈夫です。僕を信じてください。これでもスカウト認定されているんですよ」


「え……?」


 セリーヌは呆然としたようだった。


「もう君は職業技能を持っているのか?」


「一応……」


 厳密にいうと、隠蔽でステータスを改ざんしてのなんちゃって職業技能だが。

 本来の技能を適正診断されるわけにはいかないからね。


「私はまだだというのに……」


 職業技能を得るためには一定の条件がある。

 それをセリーヌはまだ満たしていない。

 職業技能を習得して、ようやく冒険者として一人前扱いになるし、強さの指標にもなるので、まずは職業技能の習得を目指す冒険者が多いらしい。

 

「それよりセリーヌさん、後ろにいますよ」


「なんだと!」


 セリーヌが慌てて後ろに振り返り、剣を構える。彼女は騎士団に所属しているだけあって、メインの武器は剣らしい。軽装の鎧と片手剣。典型的な騎士の装備だった。


「いないじゃないか」


 セリーヌの目の前にあるのは大きな木だった。深い森の中でさえも存在感を主張するほど大きな幹。太い枝葉が空に向かって広がり、朝日に照らされて緑色に輝いていた。少なくとも彼女にはそう見えているのだろう。

 セリーヌが再び僕のほうに向きなおり、その大木に背中を向けたときだった。地中に張り巡らされた根が、まるで足のように動き、彼女に忍び寄る。太い枝葉が彼女の頭上に振り上げられる。


「だから危ないですって!」


 振り下ろされた枝葉を短刀で受け止めて、大木の後ろに回り込んで瞬時に潜伏ハイドを発動し、背後攻撃を行う。致命的な一撃(クリティカルヒット)。一瞬でHPを削り切り、大木は轟音ごうおんとともに地に倒れ伏した。


「……――トレントか」


「ええ、そうです」


 森には自然の木々に擬態したトレントがうようよと存在していた。僕の探知技能にひっきりなしにひっかかる。セリーヌの能力ではトレントの潜伏と隠密を見破ることはできない。とても驚異だろう。


「ところで魔物の討伐ってどうやって証明するんですか?」


 森に入ったところで倒したゴブリン同様に僕はトレントの亡骸に神聖魔法レベル1『浄化』をかけた。すると聖なる霧に包まれてトレントの亡骸が消えていく。魔物を倒したら、『浄化』か聖水をかけなければより強力な魔物を誕生させる温床になってしまう。


「お、おい! なにをやってるんだ!」


「え?」


 当たり前のように魔物を浄化し終えると、セリーヌが声を上げた。


「まさかさっきのゴブリンにもそうやったんじゃないだろうな?」


「浄化しましたけど?」


 首を傾げると、セリーヌが驚いた。


「――そうか。そういえば君は冒険者ギルドもない村の出身だったな。すまなかったな。教えてやればよかった。それでは討伐報酬を得られないぞ」


 やっぱりそうか。

 不思議に思っていたけど、どうやらその通りらしい。

 浄化してしまえばそのまま魔物は消える。

 これではどれほど倒したのかは自己申告制になってしまう。

 ひょっとしたら冒険者カードには魔法的な機能があって、討伐したらそのまま情報として記録されるのかと思っていたけど、そんな機能はないらしい。


「じゃあ、どうすればいいんですかね」


 近くにいたトレントをまた一撃で倒しながら、セリーヌに訊いた。すると彼女はトレントの枝葉を切断してから、『浄化』の魔法をトレントにかけた。

 さっきと同様に霧に包まれてトレントは消え去ったが、彼女が手にした枝葉だけはその原型をとどめたまま消えることはなかった。その枝葉を彼女は腰から下げている袋に収納した。


「こうするんだ」


 どうやら魔物の体躯の一部を切断して所持した状態で『浄化』の魔法をかけると、所持していた部位だけは消えずにすむらしい。

 なるほど。

 そう納得するものの、すぐに僕は思い当たる。

 不正を簡単にできそうだな。

 と。

 魔物の一部を切断したものの、倒しきれなかった場合はどうなるんだ。

 そう思ってよくよくセリーヌが手にしたトレントの枝を観察してみると、切断面が白色に変色していた。

 ひょっとして本体が『浄化』の魔法で消滅すると変色するのか?

 よし。

 とりあえず試してみよう。

 すかさず探知を発動させて、近くのゴブリンを発見する。そして、僕は足早に駆け寄るや否やゴブリンの耳を切り取った。耳から血が滴っているが、今さらこの程度のことで忌避感もない。相変わらず匂うなあ、くらいにしか、もはや思わない。

 切断面からは血が滴っている。

 当たり前か。

 ゴブリンにとどめをさして、『浄化』の魔法を本体にかけると手にしていたゴブリンの耳の切断面が白色に変色し、止血もされ、ゴブリン特有の嫌な臭いも消失した。

 討伐報酬はこうやって手に入れるわけか。


「これが討伐報酬になるんですね」


「そうだ。どの部位でもいいので、持ち帰って提示する必要があるんだ」


「ありがとうございます。それにしても、何か持って帰ると思っていなかったので、袋とか背嚢リュックを持ってくると忘れちゃいました。ごめんなさい」


「……いや、こっちこそすまない。私の説明不足だった。今日は預からせてもらうよ」


 セリーヌにゴブリンの耳を手渡すと、彼女は腰から下げている袋にそれをしまった。ゴブリンの耳を渡す際、彼女と目が合った。その目には警戒の色が映り、まるで得体のしれないものを見るような目をしているように思えた。

 まあ、そうだよな。

 一二歳といえばまだ子供だ。

 そんな子供が、魔物を造作もなく倒すとか、化け物のように思えるよな。

 ちょっと彼女の視線に寂しさを感じながらも、僕は魔物狩りを続行した。折角の技能を上げる機会だ。無駄にはできない。

 周囲には少しずつ他の冒険者も増えてきた。

 競争率が一層上がる。

 僕は探知技能を発動させて、魔物の所在を正確に把握すると、森の中を駆け回って魔物を次々と倒していった。よくゲームなんかである、横殴りはさすがにこの世界でもマナー違反だろうから、他の冒険者たちの動向に気をつけて倒していく。

 魔物を倒して倒して倒しまくる。

 

「だれだ、あの子供は!」


「おい! そっちに小人がいったぞ! そのエリアはもう移動しろ! 魔物はすぐに全滅するぞ!」


「ふざけるな! 今月、宿代払えねえじゃねえか!」


「ボロの服を着た子供に遭遇エンカウントしたら、魔物は狩り尽くされていると思え!」


「こっちにボロの服を着た子どもがでたぞ!」


 森の中に魔物ではなく、冒険者たちの阿鼻叫喚あびきょうかんの声が響き渡る。一通り倒し終えて、大量の魔物の部位をセリーヌの袋に入れていくと、帰るころには袋の口からも溢れていて、抱えるようにして二人で街に帰った。

 冒険者ギルドのカウンターに討伐部位を置くと、リリアンが驚きのあまり口を開けたまま、あんぐりとしていた。

 グラニットギルド創設以来の、日間デイリー討伐数の新記録。

 たくさんの報酬を得られた。

 それにしても、ボロの服、ボロの服、と今日はかなり言われてしまった。

 さすがに今日一日ずっと言われ続けたら気になってしまう。

 明日はこの報酬で防具でも購入しようかな。

 しかしどのお店がいいんだろう。


「セリーヌさん、良いところ知っていますか?」


「あ、ああ」


 僕が尋ねると、セリーヌは生返事をした。相槌とも肯定ともとれる返事だ。彼女にとっても今日の僕の討伐は衝撃的だったのだろうか。どうせ防具を買うなら誰かの意見を聞きたいと思ったので、僕はもう一声かけた。


「明日良かったら案内してくれませんか?」


 セリーヌは相変わらずの生返事だったが、僕はこれを肯定ととらえ、強引に彼女に約束をとりつけた。


「ありがとうございます! それじゃあ、明日もよろしくお願いします!」


「――あ、ああ。……え?」


 セリーヌの呆けた声を無視して、僕は冒険者ギルドを後にした。

 明日は異世界での初の買い物だ。

 楽しみに胸を躍らせながら、僕は宿に帰った。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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