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【第二章連載中】全知の誓い ~第二の人生を謳歌する~  作者: 藤田 ゆきき
第二章 要塞都市ストーンヴェール編
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第1話 夜明けの魔の森 新たなる地

 闇の中で『魔の森』は静まり返っていた。

 月明かりが僅かな光を差し込み、木々の影が長く伸びていた。夜風が静かに吹き抜け、遠くで魔物たちの息遣いを感じられる。星々が空を照らし、夜空は深い青色に輝いていた。

 足元の獣道は月明りでかすかに照らされているだけだが、僕はできるだけ速く走った。

 探知技能のおかげで、道は見えなくても何の支障もない。危険があれば事前に探知技能が直感のように教えてくれる。

 待ちに待った旅立ちだ。

 その足取りはとても軽く、時速にしておよそ20キロメートルはあったかもしれない。100メートルを18秒ペース。この状態でフルマラソンを走り切れば日本記録に限りなく近いタイムを刻めるだろう。

 魔石をつめこんだ背嚢リュックと丸めた天幕テントを背負った状態でさえ、これだ。この制限がなくなりさえすれば、もっと速く走れるだろう。

 茂みをかきわけて小一時間も走っていると、さすがに疲労が蓄積してきたので、天幕テントを張って休憩する。天幕テントで休憩している間は野営技能が発動する。隠蔽をかけて、魔物から探知されないようにした。

 アナスタシアを強くする過程で今では僕もすっかり強くなったので、『魔の森』で魔物と戦いながら進んでも良かったが、当初の計画通り隠密ステルスで森を抜ける。

 魔物と出会う度に足を止めて戦って、その都度、浄化をしながら進むのは時間的損失が大きい。

 もう十二歳だ。

 二歳の頃に『魔の森』を横断する計画を立ててから、十年も経った。

 ずっと我慢してきたのだ。

 これ以上待てない。

 一刻も早く冒険者になって、世界を旅してまわりたい。

 そう考えるだけで、わくわくした。

 隠密ステルスの消費MPは潜伏ハイドに依存し、10秒ごとにMPを1消費する。現在、350のMPを消費しているので、およそ一時間走ったことが分かる。

 MPを回復するために背嚢リュックから魔石を取り出す。

 魔石はかすかな光を放ち、身体の一部にあてがうと、その光が身体に浸透していく。魔石の中に秘められた魔力マナが身体の中に静かに流れ込み、全身を包み込んでいく。まるで自然そのものから生まれたような力を取り込むかのような感覚がした。

 夜闇やあんの剣と隠蔽技能上げで一時期は全ての魔石を使い切ってしまったが、あれから今日を迎えるまでも、ときおり迷宮に潜って魔石を回収した。

 その結果、背嚢リュックには選りすぐった200個の魔石を詰め込めた。

 魔石は小さな石ころみたいな形をしており、石ころが1個100グラムとして合計で20キログラム以上のものを僕は背負って走っていた。その状態で、森の茂みをかきわけながら走っても、テレビで見るようなマラソン選手が走る速度とほぼ変わらないのだ。ステータスの恩恵はでかい。


『アンリ』

(種族:半神)

 Lv  95

 HP  356

 MP  455

 VIT  17

 STR  27

 DEX  59

 AGI  59

 INT 100

 MND  30


 ステータスを確認してみる。

 VITスタミナが少し低いので、こうして休憩が必要だが、それでも当初数日はかかるとされていた道中は、大幅に短縮されるだろうと思う。MPを回復する手段があるのはとても大きい。

 一時間ほど休憩し、ある程度足が回復したところで再び僕は隠密を発動して、走った。次の休憩のときはさすがに夜も更けていたので、天幕テントと隠蔽を使って眠りについた。

 森の中で一夜を過ごして朝を迎える。

 暗い夜が徐々に明け、深い森は朝の穏やかな光景へと変わっていく。近くの木々に実った木の実をもぎとり、頬張った。わずかに苦味があったが、風味豊かな味わいが口の中に広がった。

 

「――さあ、今日中に森を抜けるか」


 頬を叩いて気合を入れて、僕は再び走り始めた。

 一時間走っては、一時間の休憩。

 この繰り返しでひたすら『魔の森』を進んでいく。

 探知技能を活用して、都市までの最短距離で。

 道中、遭遇した全ての魔物を無視してその傍を通り抜ける。

 所持している魔石は1個あたりMPを16回復する。一度に400以上回復しないといけないので、およそ8時間走ると全て使い切る計算になる。どんどん魔石を使って回復していき、回復したらまた隠密で走る。

 魔石が残りわずかになってくると、背嚢リュックに残されたのは、ゴブリンの短刀10振りだけとなった。

 そのころになるとかなり身軽になり、僕の走る速度も自然と上がっていった。およそ時速60キロメートル。ちょっとした車だ。

 この速度で息切れすることなく、長距離を走れている。

 思うに、ステータスの値が30前後で地球でトップアスリートとして活躍する人達の能力値に達するようだ。

 それ以上の値で分かっていることは、今の僕のステータス値で、この速度で走れて、STR100で攻撃すると暴風を生み出せるくらいとてつもない、ということだ。

 腰に帯びた二振りの夜闇やあんの剣が、走っている振動で激しく揺れ動いている。隠密の技能レベルの恩恵で音は一切発生していない。そのおかげで魔物に気づかれる心配もなかった。

 売却して路銀にしようと思って、ゴブリンの短刀と夜闇やあんの剣を持ってきたのだが、果たしていくらになるのか。少し不安ながらも興奮する。

 昨夜とそして今朝からずっと走り続け、いよいよ森の出口が見えてきた。

 出口の光が希望のように感じられる。

 枝葉が間引かれ、そこから差し込む光が、その先に続く小道を照らし出していた。隠密を解除すると、足元の葉がサクサクと音を立てた。

 胸の鼓動が高まる。

 やっとだ。

 やっとたどり着いた。

 

 ――十年だ。


 十年もの間、試行錯誤してステータスを上げてきた。

 当時は、ステータスも低くて、『魔の森』を横断するには何日もかけて、苦戦を強いられるかと思った。

 アナスタシアと出会ったことで、彼女を強くする過程で、僕も十分に準備をできた。

『魔の森』を今の僕はたった一日で横断できた。

 しかしそれは十年もの歳月を経たがゆえの成果だ。

 その成果が今、僕の目に映った。

 目の前に広がるのは、夕暮れに照らされ、堅固な石壁に囲まれた要塞都市ストーンヴェールの姿だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

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