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第29話 全知の導き

 ――半神覚醒。


 その瞬間、まるで全身の細胞が一つ一つ再構築されるような感覚が身体を駆け巡る。身体の中で熱い溶岩が渦巻いているかのような痛みを感じつつも、その熱からは同時に言い知れぬ気持ちよさを感じる。

 新たなる存在として生まれ変わろうとしている。その確信に包み込まれているようだった。

 ステータスを確認すると、半神としての技能が僕の内に芽生えていた。

 まるでゴブリンが持っていた種族特有の技能と同様に、本来あるべき技能を手に入れたかのような感覚だった。

 地球上でも半神は数多く存在し、それぞれ特殊ユニーク技能と言えるものを所持している。

 僕の場合は『全知』である。

 しかしそれを発動するにはあまりにも人間の肉体は脆弱で、そのため、自身の能力に耐えられなかった僕の肉体は一度死に、世界の摂理によって直されたのだと思う。

 新たに刻まれた半神の技能は、半神固有の能力のデメリットの緩和と最適化だった。

 そしてそれと同時に、神を討つ武器で攻撃されない限りHPが0にならないという能力も得た。つまり、普通に生きている限り僕のHPが1以下になることはなく、死の危険がなくなったことを意味する。

 この世界の掟によって、僕の肉体は新たな段階へと進化した。

 この肉体の変容に伴ってHPが全快し、わずかなステータスの向上もあった。

 試しに探知技能Lv20を発動すると、先ほどまで感じていた痛みはなく、HPの減少も起こらない。自然の法則を超越した全能感が身体を満たしているような不思議な感覚に包まれた。


 ――九死に一生を得て、種族覚醒を果たす。


 新たな展開に胸が躍ったが、この新たな力で具体的に何かを実現できるようになるわけではなく、現状が一変するわけでもない。僕はすぐに冷静になった。

 とりあえず今は一命をとりとめた。

 このことだけに安堵し、引き続き、思考を現状に戻す。

 

「なんだ、あれは?」


 教会の屋根の上に立ち上がって『魔の森』を凝視する。森から不穏な雰囲気が漂っていた。邪気が一か所に集中しているようで、その気配は強烈かつ異常だった。

『魔の森』に漂う全ての邪気が集まって、その魔物を創造した。探知技能がその異様な魔物の全貌を捉える。

 その魔物の体躯は人間の数倍にも及び、筋骨隆々とした肉体と厚い皮膚に覆われた顔は凶悪そのものだった。ときおり丸い目が不気味な光を放つ様は、まるで深淵からこの世界を覗き込んでいるかのようで背筋が震えあがる。

 頭部から生える巨大なツノは悪魔の冠のようであり、獰猛な獣の耳が風に揺れる度に、周囲の音を敏感に感知しているかのようだった。

 その両の手には巨大な斧が握られており、一振りするだけで村を吹き飛ばせるほどの威圧感と恐怖が心に刻まれた。

 その魔物を――鑑定する。


『オーガキング』

(種族:王族)

 Lv 56

 HP  324

 MP  64

 VIT 88

 STR 100

 DEX 56

 AGI 48

 INT 16

 MND 0


【技能】

 オーガ族Lv8

 王   Lv8

 斧術  Lv8

 戦術  Lv8

 武士道 Lv8

 解剖学 Lv8


 ――勝てるわけがない。

 

 そのステータスを見て驚愕する。

 ステータス60以上は、吟遊詩人がうたにするほどの魔物であり、当然、その強さは人の理解を超えている。

 折角の異世界だ。

 いずれはこんな強敵と戦いたいと思っていたが、それは今じゃない。

 世界の修正力とでもいうのか、すでに勇者が誕生したことによって、本来は滅んでいるはずの村を強引に滅ぼそうとしているかのようだ。


(世界の意思はここまでするのか……)


 このままでは絶対に勝てない。

 アナスタシアのみならず、僕でさえ太刀打ちできない。

 自分の今のステータスと比較する。


『アンリ』

(種族:半神)

Lv 84

HP  345

MP  422

VIT 17

STR 27

DEX 59

AGI 59

INT 100

MND 19


【技能】

全知 Lv20

(探知Lv20 魔力探知Lv20 動物学Lv20 獣医学Lv20 解剖学Lv20 開錠Lv20 毒知識Lv20 罠解除Lv20 武器学Lv20 鑑定Lv20)


半神 Lv1

共通語(人族)Lv3

野営  Lv5

短剣術 Lv4

剣術  Lv2

弓術  Lv1

斧術  Lv1

槍術  Lv1

投てき Lv1

体術  Lv2

戦術  Lv3

騎士道 Lv3

受け流しLv3

神聖魔法Lv2

潜伏  Lv10

隠密  Lv10

隠蔽  Lv10

伐採  Lv2


(……攻撃力が足りない)


 冷静に分析する。

 正攻法では、僕の武器とSTRの値だとオーガキングのVITと防御力の前では微塵もダメージを与えられない。

 しかし、探知技能を有していないオーガキングにならば、隠密ステルスからの背後攻撃が通じるかもしれない。確実なクリティカルの発生と防御を貫通する攻撃方法だ。一度攻撃した後は、初めて森のゴブリンを倒したときと同じ戦法を使えるかもしれない。

 もう――アナスタシアを勇者に、とか考えている場合じゃない。

 腰に帯びている愛用のゴブリンの短刀に手をかける。

 教会の屋根から飛び降りる。遠くの『魔の森』を見すえて駆けだそうとした。

 そのときである。

『魔の森』は未だ遠く、視認できない距離であるにも関わらず、しかも隠密ステルス状態であるはずなのに、オーガキングと目が合った気がした。

 背筋に悪寒が走る。嫌な予感がして再びオーガキングを鑑定する。絶句した。オーガキングの技能に探知技能Lv10が追加されていた。

 これでは隠密を看破され、背後から一撃を入れることができない。


 ――この村を確実に滅ぼす。


 という、あきらかな世界の意思を感じる。

『魔の森』の異様な気配を察知したのか、アナスタシアが森から一瞬抜け出て森を観察した。オーガキングの巨大な体躯は木々を突き抜けている。ここまでくると、もはや巨人だ。

 その魔物を前にしてさすがのアナスタシアも突撃するようなことはなく、逃げるようにして村に戻ってきた。即座にバハバルに現状を報告するが、皆の顔色は一様にして青ざめていた。

 オーガキングが『魔の森』の中で両の手に握った巨大な斧をふるう。

 その瞬間、森の木々がまるで枯れ葉のように空に飛び散り、村中に切断された木々が降り注いだ。一瞬で村が壊滅した。

 教会に避難していた村人が外に出てくる。皆が一様に身を寄せ合い、森からの恐怖に絶望した。

 森の中でオーガキングの歩みを止めるものがなくなり、地を鳴らしながら、オーガキングがゆっくりと村に迫ってくる。終焉と絶望が近づいてくる。その歩みの遅さは、まるで村の全員が最期の別れを交わす猶予を与えてくれているかのような世界の意思を感じる。


(……もう、どうしようもないのか?)


 絶望にうちしひがれ、このまま『魔の森』に逃げ込んで、当初の計画通りに西方の都市に向かおうかと弱気が頭を過った。このオーガキングはこの村を滅ぼすために創造されたのなら、村の皆が死に、本来の歴史に戻れば消滅する可能性が高い。

 僕は歴史に登場していないのできっと見逃されるだろう。

 だから、ここで逃げてしまえば、この世界に生まれてから練っていた計画通りきっと森を抜けられて、西方の都市に辿り着ける。

 ここで逃げるのは仕方のないことだ。

 誰もこんな事態を予想していない。

 こんなにも世界の意思が無慈悲で、頑固で、強靭だったとは。

 村の中は恐怖と絶望が渦巻き、誰もが嘆いていた。

 逃げの一手が頭を支配していく。

 けれど、ここで逃げられるほど今の僕の覚悟は弱くはない。

 アナスタシアが勇者になれなかったなら、村を救おうと決意をしたはずだ。

 現状を打破する力が欲しい。

 それさえあればきっとなんとかなるはずだ。

 何か方法はないのか。

《全知の書》を開く。

 その答えはきっとこの中にあるはずだ。

《全知の書》は、僕の技能《全知》が具現化したものだ。膨大な知識が記されているが、それを有効に利用するために自力で調べる必要があり、それゆえに見落としも発生する。

 オーガキングが迫り、焦る中で答えを見つけられるのか。残された時間はあまりにも短い。

 しかし、書を開いた瞬間、僕の不安は杞憂に終わり、望みはそこに記されていた。

 半神として覚醒した今、その状況が変わっていた。

 半神への覚醒に伴って特殊ユニーク技能の最適化が行われ、《全知の書》から、望むべき答えが自動的に導き出された。自らの思考や意思に反応して、必要な情報が示される。

 同時に、《全知》に付随する能力――武器学Lv20が発動した。これにより、武器や装備に関する知識がより深まり、戦闘においても的確な判断と行動が可能となる。

 これが僕の《全知》が導き出した答えだ。


 ――まだだ。まだ終わりじゃない。


 急いで家の裏手に向かう。そこにはこれまで毎週欠かさずに迷宮に通い詰めた結果が埋まっている。夜闇やあんの剣が三振りとたくさんの魔石が地中にある。

 魔石の使い道は主に換金であるが、この村では金銭に変えることができない。手に入れた夜闇の剣たちも、捨てるのがもったいなく、その使いどころに頭を悩ませていた。

 しかし、今は鑑定と武器学の技能が一体となり、武器の性質が明らかになった。武器の最大耐久値が分かるようになった。一振りずつ夜闇の剣を取り出し、その性能を鑑定する。

 武器学によって武器に対する知識が深まっている中、鑑定を行うことで武器の最大耐久値がどの程度残っているかも一目瞭然。

 武器学と鑑定の技能の相乗効果により、どの剣がどれだけの限界まで強化できるか、そしてその結果、どこまで攻撃力が上昇するかが見える。

 地面に埋めた魔石を掘り起こし、その魔石を最大耐久値が最も高い夜闇の剣にあてがう。

 その瞬間、魔石が剣に吸収される。魔石は魔力を内包している。迷宮産の武器や防具は魔力を吸収することで強化が可能だ。魔力を吸収させる度に武器の最大耐久値が下がり、攻撃力が上がっていく。

 最大耐久値が0になると武器が壊れる。

 通常はどこまで強化ができるのか、その引き際は分からず失敗する。しかし、僕にはその最大耐久値が見えている。失敗はありえない。

 武器学技能Lv20の恩恵で強化成功率にも補正がかかり、さらに強化ごとに生じる最大耐久値の減少度合いも大幅に緩和される。

 魔石の魔力を吸収させ続けると、やがて夜闇の剣は強化値Lv20に達した。武器のレベルにおいても技能の等級と同様に、Lv10で人類の英知の結晶、Lv10より上からは叙事詩エピック級、伝説レジェンダリー級、神話ミシック級へと続いていく。

 Lv20からは神の領域。

 神話級に達する強さになった夜闇の剣。

 剣身は深みのある漆黒に覆われ、鋭い刃先は星のように煌いていた。魔法の紋様が剣の表面を彩り、剣全体が魔力を帯びているようだった。柄を握ると、まるで身体の一部であるかのような錯覚をするほど手に馴染んだ。

 剣の全体に渡って、幻想的な光が舞い踊り、神秘的な存在感を漂わせていた。

 仕上がった夜闇の剣を鑑定した。


夜闇やあんの剣Lv1 ⇒ Lv20】

 物理攻撃力 20 ⇒ 400


『武器固有能力』

 命中率30%上昇 ⇒ 命中率50%上昇

 防具を装備していない部位に命中時に防御貫通(※ただし王技能所持者には無効) ⇒ 能力消失(強化失敗により)


 大半の魔石を吸わせ続けた結果、ひとつの武器固有能力が強化失敗時に消失してしまったが、それでも、なんとか必要な攻撃力を確保できた。

 武器の攻撃力+STRが物理攻撃力となり、その値は427だ。オーガキングは防具を装備しておらず、VITの値がそのまま防御力となるので、その値は88。ダメージは単純に攻撃力から防御力を差し引いた値になるので、僕が与えるダメージは339となる。

 オーガキングのHPは、新たに生えた探知技能のHP増加分を加えると334だ。

 剣を強化し続けた結果、武器の最大耐久値は残り1になってしまい、一度の攻撃で壊れてしまうが、それで十分だ。

 オーガキングが村の防護柵を踏みつぶす。

 すでに隠密は見破られている。

 僕は隠密を解いて、オーガキングと真っ向から対峙した。

 騎士道の技能が発動する。これはアナスタシアと日々正面から剣の稽古で打ち合うことで習得し、上昇していった技能だ。

 正面から敵と対峙する時に技能経験値を得られ、真正面から敵と相対するときに限り騎士の高貴さ(ノブレスオブリージュ)を得られる。

 勇敢に敵に立ち向かう心の強さ。

 今まで感じていた恐怖と絶望感が薄らいでいき、意識が戦いへと研ぎ澄まされていく。

 夜闇の剣を構えて、僕は地を蹴った。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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