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第1話 異世界で生誕

 目を明けると、見知らぬ女性がそこにいた。

 暖かな陽光が部屋に差し込み、その中で女性の白くて長い髪がキラキラと輝いていた。わずかに褐色がかった肌は、家の中だというのに、わずかに土埃が付着しているように汚れていた。

 思わず目が合い、女性はにっこりと微笑む。その笑顔には優しさと安心感が宿っており、つい見惚れてしまう。


「――――」


 彼女が口を開く。優しい声音が響くが、その言葉は理解できない。


(僕に声をかけているのか?)


 不安になりながら辺りを見回すが、誰もいない。女性は何かを話しているが、まるで言葉が分からない。


(……僕、一体どうなってるんだ?)


 そんな中、扉が勢いよく開かれ、大きな声をあげながら男が駆け寄ってきた。


(……誰!? こいつ。ちょっと怖いんだけど!)


 男は武骨な顔をしていた。

 無精ひげ。

 ざっくりと切られた青髪。

 繊細さを欠片も感じられない。

 厳つい雰囲気が漂っている。

 どこからともなく「おぎゃあ! おぎゃあ!」という赤子の泣き声が聞こえる。

 男に抱き上げられて頬ずりされた。

 

(痛い! やめろ!)


 男の無精ひげとざらざらとした肌が不快だった。まるで紙やすりで削られているような痛さだ。


(だからやめろって!)


 必死に叫んでも、耳に入るのは、さっきから部屋の中で響いている赤子の泣き声だけだった。赤ちゃんうるさい。イラッとする。男の顔を思わず叩いた。ぺちっぺちっ、と。


「――えっ?」


 僕は驚いた。

 視界に入ったのは、見慣れた皺まみれの老いぼれの手じゃなかった。地を這う木の根のように、肌に浮き出る血管がどこにも見当たらない。まるで赤ちゃんの肌のようにみずみずしく、小さな手だった。


(これは一体……)


 混乱した。記憶が走馬灯のように廻る。

 そういえば僕は死んだはずだった。

 今起こっていることが理解できなかった。

 けれど同時に、混乱の中、胸の奥から次第に湧き上がる熱いものを感じた。ありえないと思いつつも、同時に歓喜が全身を巡った。


「まじかー! やったぞ!」


 叫びながら、涙のようなものが目からこぼれ、大きな声が口から自然にあふれた。しかし現実では、僕の歓喜の叫びは赤子の泣き声にしか聞こえず、目の前の女性が柔和に微笑みかけてきた。


「パパの顔は痛いって言ってるわよ」


 と、女性は言いながら男から僕を取り上げ、再び抱き上げてくれた。

 実際、叫んでいた理由は違うのだが、痛かったから助かった。

 さすがはママである。

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