第12話 教会でお祈り
アナスタシアの聖水全投げの出来事から一夜経ち、日が昇る。
結局、あの一件は子供の過度なごっこ遊びとして一応の決着をみせた。
リリアが父である教会の神父様にひたすら謝り、アナスタシアの父――村長もめちゃくちゃ頭を下げていた。アナスタシアはばつの悪そうな顔をしていた。正義を執行したのになぜ怒られないといけないのか少し憤っていた様子だった。
僕の両親はアナスタシアに抗議しようとしたが、全力で僕はそれを制した。僕にとっては心情的に浄罪にも等しいことをしてくれた恩人だ。彼女には感謝しかない。
話し合いを終えた後、友達思いのリリアは神聖魔法を覚えることができたら、今回アナスタシアが使用した聖水と同じ数だけ聖水をつくる、と神父様に誓いをたてていた。
今回の一件で、リリアの聖女っぷりも垣間見えた気がした。
(……すごいよなあ)
と、しみじみと昨日のことを振り返りながら、朝日が村を包み込む中、僕は足早に教会に向かった。教会で祈りを捧げて神聖魔法を覚えるためだ。
さっきまで少しだけ雨が降っていた影響で、教会へと続く土の道はわずかにぬかるんでいた。
教会の扉はすでに開いていた。穏やかな光がステンドグラスを通じて差し込み、教会内を照らしていた。
教会の中に足を踏み入れて、祭壇に向かった。祭壇上の彫刻は神秘的な雰囲気を醸し出していた。女神像を思わせるその彫刻は、まるで生命が宿っているかのようにやさしい目をして微笑んでいるように見えた。
祭壇の前に立って、僕は跪く。石畳の冷たさが足に感じられた。祭壇上の彫刻の深い影が僕を包み込む。手を合わせて、僕は率直な気持ちを祭壇に祈った。
(……神聖魔法の技能経験値をください)
と。
――これにて本日の祈りは終了。
まるで冗談みたいだが、たったこれだけのことでこの世界では祈ったことになるらしい。
《全知の書》によると、祈りとは神との対話。
心から出てくる言葉を伝えたり、誰かの健康を願ったり、悩みを打ちあけて解決策を願ったりと、どんなことでも神に伝えることを差すらしい。
半信半疑だったが、《全知の書》を確認するときちんと神聖魔法の経験値を得られている。
祈りを終えて立ち上がると、ちょうどリリアが僕の傍らで跪いた。
(……リリアもこれからお祈りをするのかな?)
昨日の誓いを有言実行するために神聖魔法を覚えるつもりなのだろう。
――それにしても、さすがは神父様だ。
きっと神聖魔法の習得の方法を知っていて、彼女に伝えたのだろう。
昨日のように不定期では意味がなくて連続でお祈りをする必要がある、と。
リリアは手を合わせて熱心にお祈りをしていた。
どれだけ長時間祈ったところで一日に得られる神聖魔法の経験値が増えることはない。しかし、長く祈れば祈るほど彼女の神への信仰心は強固なものになっていくだろうし、精神の拠り所となるだろう。結果として強靭な精神を得られるのだから、決して無駄にはならない……と、思う。
(がんばってね、せいじょさま)
心の中でリリアを応援する。
手のひらを振って、心の中でお別れの挨拶を投げかけて、僕は教会を出た。
リリアは最後まで僕に気づかなかった。
少し寂しい気がして自然とため息が出た。
(……まあ、気づかれないのは仕方ないよね)
僕は基本的にどこか出歩くときは隠密している。
この隠密という技能は、潜伏技能Lv3で自動習得できる技能で、習得後は潜伏技能を発動すると隠密も自動発動する。
通常、潜伏技能は歩いたり走ったりすると、潜伏状態が解除されるが、この隠密技能があれば潜伏状態を維持したまま移動ができるようになる。
その状態で移動した距離がそのままスキル経験値となるので、できるだけ発動させて移動するのが僕の習慣となっていた。
ちなみに消費MPは潜伏の10秒ごとに1消費のみ適用されている。僕の現在の最大MPが350なので、一日に3500秒使用できる。時間にして約一時間となる。
(――さて、そろそろ迷宮に行きますか)
僕は走って村の外に出た。
今日も日課をこなす。
ひとまずの目標は迷宮の攻略と短剣術の技能上げだ。
急がないといけない。
昼時までに家に帰っていないとセレナにどこに行っていたのか追及されてしまう。言い訳がとても面倒なので彼女が洗濯から帰ってくるまでが午前中の僕の自由時間だ。
子供はいろいろと制限があって面倒だ。
本当に――。
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