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第8話 最初の一歩

「ねえ、パパ。少し前にゴブリンが現れたらしいけど大丈夫なの?」


 朝になって僕はモンドに素朴な疑問を投げかけた。今日も村の畑を拡大するために、モンドは斧を担いで開墾に向かおうとしている。『魔の森』での作業だ。ゴブリンに襲われたらどうするつもりなのだろう。


「大丈夫さ。心配してくれるのか?」


「うん」


「ありがとな、アンリ」


 頷くと、モンドに頭を撫でまわされた。とても硬い手のひらだ。毎日斧を振ることで、何度も手のひらの皮が破れてごつくなったような武骨な手だった。


「村長さんや村の大人衆が護衛についてくれるから安全さ」


 どうやら開墾中は護衛をしてくれる人が周りにいるらしい。


「村も安全?」


「おうよ、襲われないとも。『魔の森』から魔物が出てこないか物見台で常に見張っているし、万が一、出現したところで村の門番は強いからな」


「いつも村の出口に立っている人?」


「そう、その人だよ」


「パパの方が強そうだけどその人の方が強いの?」


 モンドは見るからに屈強な体格をしていた。毎日重たい斧で木々を伐採しているから腕の筋肉は丸太のように太く、背筋や腹筋も現代の格闘家を思わせるほど鍛え上げられている。


「力なら父さんも負けていないつもりだ」


 モンドは力こぶをつくりながら快活に笑う。


「だけど、いざ戦いになると足元にも及ばない」


 その声色には悔しさのかけらも感じられず、心の底からその門番を信頼しているようだった。


「そんなに強いんだね」


「ああ、そうさ。――それじゃあ、父さんはそろそろ行ってくるぞ。村の人口も増えてきたし、今年中には畑を絶対に拡大してやるからな。アンリやこれからの子のためにもな」


「ありがとう。いってらっしゃい。がんばってね」


 背中越しに手を振りながら、モンドは家を出て行った。

 家の中に一人残される。

 セレナは、今は洗濯物をしに、村の女の人たちと近くの河原に出かけている。男は仕事。女は家事というのがこの村にはひとつの習慣として根づいていた。

 セレナがいない間が僕の自由時間だ。


(――さて、そろそろ行くか。初めての魔物狩りに)


 薪割り用の短刀を手に持ち、僕は潜伏ハイド技能を発動させた。

 すると、同時に隠密ステルス技能も発現する。

 この隠密技能は、本来、動けば解除されてしまう潜伏状態を移動中にも適用する技能である。習得方法は潜伏技能Lv3に達すること。

 木々の葉が風に揺られて、そっと村の中で鳴り響いていた。粗末な家屋の間をすり抜け、路地を進んでいく。無事に村の出口の近くまでたどり着いたが、ここまですれ違った人は誰も僕のことを認識できないでいた。

 隠密技能のおかげで今の僕を見つけられる者は村の中には誰もいない。


(……この人がモンドよりも強いっていう門番ねえ)


 僕は門番の眼前に立って観察した。鉄製の槍を手に持ち、鎧と言うにはあまりに粗末な胸当てをしている。肉付きはよいが、筋骨隆々というわけではなくどちらかといえば、優男の印象を受ける。

 どれどれ、と僕は鑑定をする。

 門番はLv15であり、たしかにモンドが言うようにSTR(力)は門番の方が弱いが、それ以外はモンドよりも上だった。

 技能は割愛するとして、ステータスはHP32 MP22 VIT4 STR9 DEX13 AGI4 INT7 MND0だった。

 これが毎日朝から晩まで木こりをしている屈強な一般人が強いと思う水準のステータスということだ。


(まあ、弱い魔物しかでてこない辺境の村の兵士としてはこんなものなのかな)


《全知の書》によると、ステータスの限界値はそれぞれ100までのようだった。

 ステータスの指標も存在し、10がそれなりに鍛えた一般男性。20~30が初級冒険者。30~50が中級冒険者。50~60が上級冒険者。60~は、吟遊詩人の歌にされるほどの英雄がようやく到達できるほどのステータスらしい。

 隠密状態を維持したまま、門番にさらに近づいた。発見されないと分かっていても、こちらからは見えたままなので少し緊張する。深呼吸をひとつしてから、僕は門番の横を素通りした。


(無事に通過っと――)


 初めて村の外に出た。

 広大な麦畑が眼前に広がっていた。畑の奥の方には『魔の森』へと続く入り口があり、複数の大人たちの姿が見えた。モンドの姿は見えないが、あそこで開墾作業でもしているのだろう。

 村の中にいると、防衛のための村を取り囲む柵がいやでも視界に入ってきて閉塞感を覚えたが、今の僕の目の前には隔たりはない。何とも言えない解放感を覚えた。

 村の北と東に流れる大きな川は、その清らかな水が僕たちの生活に欠かせない。この川の一部が村の中に引き込まれ、村の女たちは川辺で洗濯をし、村に住む人たちは水浴びをして身体を清めたりしている。川のそばはいつも生気に満ち、笑い声と水の音が交じり合っていた。

 反対に、西と南に広がるのは黄金色に輝く麦畑だ。風になびく麦の穂。そして、その向こうに続くのは『魔の森』だった。

《全知の書》に表示される周辺の地図で、村の外がどんな感じかなんとなく分かっていたし、大木に登って外の景色を見ていたからその様子も普段から視界に入っていた。

 にもかかわらず、村の外に一歩出た瞬間にとても感動した。


 これが――僕の冒険の最初の一歩だ。


(いいね。とってもいい。これが自由ってやつか)


 心が躍る。

 歩を進める。

 その足取りは一歩一歩浮かれていた。

 逸る気持ちを抑えきれないまま――隠密しているとはいえ何かの拍子でモンドたちに見つかるわけにはいかないので開墾地とはちょうど反対側の方面の――『魔の森』の入り口に僕は向かった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます



門番のステータスはこんな感じです。

Lv15

HP 32

MP 22

VIT 4

STR 9

DEX 13

AGI 4

INT 7

MND 0


【技能】

槍術Lv2

弓術Lv2

投てきLv1

騎士道Lv1

戦術Lv1

探知Lv2

潜伏Lv2

解剖学Lv1

共通語(人族)Lv3

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