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001 アンデッド?いいえ、死んだふりです

「すまないが、村から出て行ってくれ。アンデッドになったロキを村に置いてはおけない。これは村の長であるわしの決断じゃ」


 え?アンデッド?僕はアンデッドじゃない。間違いなく人間だ。


「僕はアンデッドじゃありません!スキルのせいなんです!調べて頂いても構いませんから村に居させて下さい!」


 村長は一瞬苦しそうな顔をした。すると、村長の後ろに居る豪華な鎧を着た青年が話しだした。


「お前はアンデッドだよ。俺がそう決めたんだから間違いない!」


「あなたは誰ですか?」


「平民ごときに名乗る名は無い!もしお前がアンデッドではない事を証明したいのならば、ここでスキルを使ってみせろ」


 豪華な鎧を着た青年は試すかのようにニヤニヤと笑っている。


「駄目だロキ!お前はそのスキルを使ったせいで酷い目にあった事を忘れたのか!?次は本当に死んでしまうかもしれないんだぞ!」


 隣に居る父ケパロスがロキを止めた。


「ふん、つまらんな。やはりお前はアンデッドで決定だ。即刻この村から出て行け!さもなくば、ここで斬り捨てる」


 青年は剣を抜いた。


「分かりました。すぐに出ていきます」


 ケパロスがそう答えた。


「すまないな。ケパロス、クリス」


 村長は両親に謝った。


「……残念です」


 母クリスが答えた。


「今すぐに村を出ろ。それ以外は認めん」


 僕達は追われるようにその場を後にした。帰り際に村長と青年の話す声が聞こえた。


「ウィリアム様、これでよろしいでしょうか?」


「俺がたまたま視察に来ていて良かったな!俺はこの村を救ってやったんだ」


「ありがとうございます……」


 声は遠ざかり聞こえなくなった。


 僕達はその日の内に荷物をまとめて、翌日には出て行くことになった。


 我が家は貧乏だから大した荷物もないが、荷馬車は村長が手配していた。早く出て行って欲しいのだろう。


 どうしてこうなったんだろう?


 馬車に揺られながらキッカケとなったあの日を思い出す。



 ――――――――――


「早く起きなさい!今日は祝福の儀でしょう?」


 母親の声で起こされる。


「母さん、あと5分だけ……」


「寝坊したらスキルが貰えなくなるわよ!」


 そうだ!今日は人生で一度だけスキルが貰える祝福の儀の日だ。


「母さん!なんでもっと早く起こしてくれないの!?」


「何度起こしても起きないからよ。早くご飯を食べて行きなさい」


「そんな暇ないよ!誰よりも早く並ぶ予定だったのに!」


 朝ご飯も食べずに家を飛び出した。


 祝福の儀は村にある教会で行われる。ロキは急いで教会に向かった。


「おはよう、ロキはいつ見ても走っているね」


「司祭様、おはようございます!もう始まっちゃいましたか!?」


「まだですよ。皆もう並んでいます」


 それを聞いて教会に飛び込んだ。


「ロキ、遅かったな!」


「今日は僕が一番に並びたかったのに!」


 村の人口はそんなに多くない上に15歳になった者しか祝福の儀は行われないので、人数はそれほど多くない。並んでいる者はほとんど知り合いだ。


 友達と会話をしていると、司祭様が前に立ち話し始める。


「静かに!今から祝福の儀を始める。どんなスキルを貰おうと神様からの贈り物である。感謝を捧げ、騒がずに教会を出ること!では、最前列の君、こちらの部屋に入りたまえ」


 いつもは優しい司祭様も今日はやや厳しい口調になっているように感じる。


 次々と奥の部屋に入っていく。出てくる者はガッツポーズをしていたり、落ち込んでいたりする。


 次は自分の番だ。


「ロキ、部屋に入りなさい」


「はい」


 部屋に入ると魔法陣のような物が床に描かれている。


「魔法陣の中央に立ちなさい」


 魔法陣の中央に立つ。


「目を閉じて神に祈りなさい」


 目を閉じて神に祈る。どうかウルトラスーパーカッコイイ無敵のスキルをください。


 司祭様は何かをブツブツと唱えている。


「…………を授け給え」


『あなたに【死んだふり】を授けます』


 司祭様の最後の言葉を聞いた瞬間、別の声が聞こえた気がした。


 死んだふり?と思った瞬間、意識を失った。




 次に気がついたのは、真っ暗な空間だった。そして、ザーザーと雨が当たるような音だ。


 手探りで調べると狭い箱のようなものに閉じ込められているようだ。


 全力で押してみたがビクともしない。


 どうしようか思案していると、ドドドドという地鳴りと共に衝撃を受けてロキは吹き飛ばされた。


「イテテテ……何がどうなったんだろう?」


 冷たい、雨と泥水が全身にかかったようだ。


 少し薄暗い夕暮れ時、雨のせいで更に暗い。


「ここは……墓地?」


 さっきまで僕は棺桶の中に居たようだ。崩れた土砂と壊れた棺桶が見えた。雨で土砂が流れむき出しになったのだろう。


「とにかく家に帰ろう」


 帰宅の途中で出会った知り合いは全員悲鳴をあげて逃げて行った。


 自宅に帰る頃には真っ暗になっていた。



「ロキ!本当にロキなのか!?クリス!こっちに来てくれ!ロキが帰って来た!」


「ただいまー僕は僕だよ。泥だらけなのは大雨の中で転んじゃって…」


 泥だらけで怒られると思い、とっさに言い訳をした。だが、予想外に全く怒られなかった。


「ロキよく戻ってきてくれた!」


「ロキ!」


 声を聞いて駆けつけて来た母さんが抱き締めてくる。父さんも一緒になって抱き合う。


「?」


 ロキは何が何やら分からなかった。



「僕は祝福の儀から記憶がないんだけど、何がどうなったの?」


 両親が落ち着いたので、説明してもらう事にした。


「実はな、ロキは祝福の儀の最中に死んだんだよ。それはもう大騒ぎだった。前代未聞だってな」


「え!?生きてるよ!」


「だが、治癒師の診断で心臓が止まっていたのは間違いない。それで葬式をして2日前に土葬したんだ。ロキよ、本当にアンデッドじゃないよな?」


「アンデッドじゃないよ!心臓も動いてるし!……もしかしたら、スキルのせいかもしれない」


「スキル?」


「ロキ、あなたのスキルは何だったの?」


「僕のスキルは【死んだふり】だったよ」


「聞いたことがないスキルだが、状況から考えてそのスキルの可能性が高いな」


 どうやら両親には信じてもらえたようだ。


 だが、村にはロキがアンデッドとして墓から出てきたとの噂が瞬く間に広がった。


 ――――――――――


 その結果、現在のように馬車に揺られる事になってしまったのであった。


「【死んだふり】なんてスキルを授けてどうしろって言うんだよ神様!」


 この時、ロキは【死んだふり】の重要性について全く気づいていないのであった。

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