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水って大事だよね?

 顔面水流直撃による走馬燈からの回復。

 それをわずか数時間で行った俺は、まさにベテラン赤ちゃんと言えるだろう。


 ……いやだわ、そんな赤ちゃんライフ!

 俺は平穏無事に、何事もなく過ごしたいんだよぉ!!


 そんな俺の葛藤など知らぬ父が俺を抱き上げて先程の穴の近くまで連れてきてくれた。

 どうやら軽い気絶だと見抜かれていたようで(軽い気絶ってなんぞや?)、割と近くの地面に寝かされていた様だ。

 そして俺は父が抱えたまま大人の視点で自分が開けた穴を上から覗き見ることとなった。

 どうやら先程俺が食らった水は、溜まっていた圧力が一気に抜けたために起こったものの様であり、今現在は滾々と湧き出る様に水が出てきているようであった。


「豊富な水が湧き出る井戸を作ってくれたことはありがたい。だが、出来れば一声かけてからやってくれないか、我が子よ?」

 若干困った様な口調の父に、俺が何かを言い返すことはなかった。


 てか、赤ちゃんに言葉はまだ話せんわ!


 でも父の困った様な口調の原因は分かった。

 それは湧き出る泉のような穴から、男達が複数人で地面に溝を掘って進んでいるのが見えたからだ。

 その穴から伸びる溝に沿って水が流れて行こうとしているのが見える。だが、その溝だけで湧き上がる水全てが飲み込めるわけではなく、それ以外の場所にも徐々に水が広がっていこうとしているのが見えた。

 そして俺が開けたのは麦畑の比較的端っこの方。とはいえ畑に隣接しているわけで、過剰に水が広がるとせっかく俺の魔力肥料を吸った麦が根腐れを起こすかもしれない状況だった。


 ん~……

 やばいじゃん! のんびりしている場合じゃない!


 ようは排水が出来てないから男達が溝を掘っているのだろう。となれば俺がやれることは一つしかない。

「だぁ」と掛け声と共にまだちっちゃい手を地面へと向けると、俺から地面へと魔力ラインを伸ばして地面に干渉をする。


『イメージは半円筒。地面に樋を作る!』


 俺の魔力が伸びた先の地面。男達が掘った溝をさらに掘り下げる様にくり貫く。そしてそのまま『持ち上げて脇にどかす!』

「お、おお!? 土が勝手に浮いてるぞ?」

「あ! 違う、王様の子が魔力で干渉してるんだ!」

 作業していた大人たちも地面から浮いた土の行方を追っていた様だが、さらに大本を辿っていくと俺と父を発見したようだ。


 てか王様?……そういえば以前、熊の化け物の時にも――?


「おお、そうか! これより作業の手を分ける! 行き先の線を掘る者と、我が子が掘った地面を脇にどかす者に分けるのだ! 我が子よ、あの地面に掘った線を追いかけて行くのだ!」

 父が俺の魔力の仕業だと気づいたのか、男達の作業班の役割を分ける。確かに地面をくり貫いた後の脇にどかす作業は俺じゃなくても可能だし、俺も魔力のイメージを変化させる必要は無くなるから効率的になる。

 さすが父。さすちち。

 ならばフルパワーでやったろうじゃないか!


『半円筒。地面のラインに沿って伸ばしていく!』

「お、おお!? 早い! 早すぎるぞ我が子よ!?」

 ダッシュで地面に棒を使って線を引く者を追いかけて、地面を半円にくり貫くイメージの魔力を進ませる俺。そんな俺を抱えながら父もダッシュで追いかける。

 そんな俺達の後ろで複数人がくり貫かれた地面を脇へと避ける。

 こうして俺の村での初工事は、1時間くらいで村の外へと水を排水させることに成功したのだった。


 *


「それで? 言い訳はあるのかしらダイン?」

「い、いや、我が子も麦が傷む事に気づいたようだし……」

「あら? ナ・ニ・カ、言ったかしら?」

「いえ。なんでもありません」

 こえぇ! 我が母ながら、毎度こえぇ!


 絶対零度の様な母の視線を受けた父はしょぼくれた顔で絶賛正座中だ。

 原因は赤ん坊の俺が工事の主力として頑張ったことが村人から教えられた事。

 俺的には苦ではなかったんだけど、魔力を使ってよくぶっ倒れる俺の身を案じてくれたからこその母の怒りようだった。


 まあそれでも父の言うことも間違ってはいないんだけどもね。

 俺もあのまま水浸しになって、麦畑が根腐れで全滅なんて事になったら落ち込むよ。原因は俺だし。

 ま、とりあえず急ぎの案件は解決したし、まだまだ改良点もあるから、それはゆっくりとやればいいかな?


「しっかりと反省しなさい!」

「すまなかったアリシア~」

 オイオイと泣きながらも母を抱きしめる父。そんな父の行動に母も顔を赤らめて、口では文句を言いつつも嬉しそうな表情をしている。

 俺は仲睦まじい両親を『爆発してしまえ』と思いながらもベットの上でジッと見つめていた。

 と、俺の視線に気づいた母が、

「あらイヤン♪」と恥ずかしそうに手をヒラヒラと振るうと、なんだか部屋の中の温度が寒くなってきた気がした。

 段々と低下していく室温に、俺の意識はゆっくりと鈍くなっていき――


 俺は人生(前世、今世含めて)発、『冬眠の気持ち』を味わうこととなった。

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