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魔法って肥料になるの?

 起きてみると外から明かりが差し込む時間だった。


 それはともかくメッチャ頭痛い!

 ん? というか俺、魔法を止められなくて気絶したんじゃなかったっけ?


 寝ぼけて起きた時以上に重たい頭を振って起き上がる。っていっても腹筋はまだあんまりないからうつ伏せからの起き上がりになるんだけどね~。


 よっこいしょと起き上がる。


「あなた! ウチの子が起きたわ!」

「おお。()()()()()()。よかった」

 俺が起きたことに気づいた両親が駆け寄ってくる。って、ここベッドか。


 ん? なんぞ不穏な言葉を言わなかったか? どういう意味だ『無事だったか』って?


「やはり坊は魔法を使っておるな。それも()()()()()で」

 我が家に珍しく両親以外の人物が居た。

 テーブルに座っている人物はオババ様だ。


 というか、本人の意志以外で魔法って使えるの?


 俺はこちらをジッと見つめるオババ様を見つめ返していた。

「どういうことなのだオババ様? 自分の意志で魔法を使うとは?」

 お、父が俺の心を読んだように代理で聞いてくれた。


「ふむ。坊が倒れたのは俗にいう『魔力枯渇』ってヤツさ。あれは()()()()自分で魔力を絞り出そうとして限界まで魔法を使わなければ起こらんモノだ」

 いえ。どっちかっていうと限界まで吸われたんですけど?


「そうである以上、坊は意識的に魔法を使っていたことになる」

「まさか。まだ赤子の我が子が何か考えていると?」

 おう父よ。赤ちゃんだって考えてるぞ? 例えばハイハイの行き先とかな。


「確かに無自覚に使っているのかもしれん。しかし本人は遊び感覚で使っているのかもしれんが、事は最悪命の危険がある」

 そう言ったオババ様の言葉に両親は揃って絶句した。


 ん~。まあ、目を離すととんでもない事をしているからな子供って。俺はまだ赤ちゃんだから普通はそこまで心配することはないのだろう。()()()()

 やはり赤ちゃん時代に魔法を使うのはかなりハイセンスなのだろうな。


 って、『命の危険』とな!?


「人は無意識のうちに『これ以上は危ない』と本能的に理解して魔力を止めるのさ。それをやりすぎてしまえば命を落とすと分かっていても無理をする。大人なら自己責任だが、子供に責任が取れるかい? ましてや坊のような子供に『意識しろ』といって聞くかどうか」


 あ~、まあ、普通の子供なら無理だろうね。

 というか自覚症状が出始める年齢の子供の方がヤバイんじゃなかろうか?


「しかし、坊はいったい()()魔法を使ったんじゃ?」

 オババ様も両親も、俺も首をかしげる。いや、俺自身は大地に向けて使ったことは知ってるよ?

 と外から何やら声が聞こえてきた。

 とりあえず考えても出ない結論よりも目の前の問題を解決すべきと判断した両親とオババ様は揃って家を出て行く。


 ……俺は?


 *


 あの後、なぜか興奮した母に抱っこされて家を出た俺。


 ……ファ!?


 赤ん坊の口ではファの発音が出来なかったので口を開けただけになってしまったが、それだけ俺が驚いたんだと理解してほしい。

 何せ目の前には元気がなかったはずの麦が『オッシャラー!』とばかりに元気いっぱいになった姿があったからだ。


「ここまで元気な麦が育てば、食料に余裕が出来るわ!」

 嬉しそうな母の言葉に俺としても嬉しいかぎりだが、それはともかく、これはどういうことだろう?

 俺は昨日、植物に向けてパワーアップ魔法を使った訳じゃない。向けたのは大地だ。

 仮に大地へのパワーアップ魔法が作用していたとして、たった1日で植物に影響が出るものか? 俺の知識にある植物向けの栄養剤だって効果を表すのは数日必要だったはず。

 考えられる原因は俺から大地の間にあった植物がパワーアップ魔法の影響下にあった。という考えだが、俺の目には畑の広範囲に元気いっぱいの麦が見える事だ。つまり局所的ではないという事。


 俺を下ろして麦の様子を調べ始めた母を横目に、俺は下ろされた地面に手をついてみた。

 わずかな湿り気を帯びた様な黒土っぽい地面。

 前に触った時は砂っぽい地面だった気がするが、それが保水性を持ったような土に変わっているみたいだ。

 隣でこれまた生き生きと伸びている雑草を抜き抜きしている母を見つつ、更にと奥の地面の状態を見ようと眉間に力を込める。


 そういえば、どうやらコレもパワーアップ魔法の一つの使い方のようだ。力む事で俺の目に魔力が回って視力自体が強化されているらしい。


 そうして見渡すと、軽く畑の部分は黒土化しているようだ。

 後は地下がどうなってるかだな。

 実は地面の深い場所には届いておらず、地面表層しかパワーアップ魔法が伝わっていない可能性がある。そうなれば一時的にしか食物に向いた土壌として活用することが出来ず、毎日毎日俺が地面に向かってパワーアップ魔法を掛ける羽目になりかねない。


 頭の中で俺が地面に突き刺さって栄養剤代わりになっている姿が浮かんできた。

 さすがに『人間栄養剤』にはなりたくない!

 俺は余計な思考を一回消すと、地面に向けて魔法を使うことにした。

 考えるのは茶髪ちゃんの魔力。


『1メートルの円、深さも1メートルの円柱に土をくり貫く!』


 俺の手から光が伸びて、俺のすぐ脇の麦を含んだ地面に俺の魔力が干渉する。

 数秒で魔力が止まった。


 ……アレ?


 あ、地面に薄っすらと線が出来てるから作業は終わったんだな?

 ん~、どうやって『持ち上げようか?』

 そう考えていると麦が付いたままの地面が持ち上がり始めた。

 俺の体から出た魔力は緑色。その魔力が線の入った地面に吸い付くと、地面が引き上げられ始めたのだ。


 ちなみに一瞬頭を過ぎったのは『ほかの吸引力とは一線を画す!』、とか言うセリフと共に鉄の分銅を持ち上げるコマーシャル映像だ。

 おそらく真空状態にして吸い付かせているのだろうが、気圧だけでこの重量って浮くものだったっけ?


 何やら周りが騒がしくなってきたが、俺は魔法と地面の様子を見るので忙しい。

 赤ちゃんなんで細かいことは見逃してね。と誰にする断りなのか分からん言い訳をしつつ、抜き出された地面を見る。

 上から下まで黒土っぽいな。

 完全に抜き出した地面を横にずらして、再度その下の地面を掘る。持ち上げて検分。横に積む……。

 30個くらい抜いても黒土のままだった。


 結構地下深くまで浸透してんなぁ俺の魔力。

 というか俺が倒れた原因が何となくわかった。アレだ。大質量の大岩が引力に引っ張られそうになっている状態で、それよりも小さなバーニアでは引力圏の離脱は出来ないっていう……。

 すまん、実は自分で気づいてさっきからガクブルが止まらんから例えを間違えた。


 ようは、だ。

『俺、セルフ人柱やるところやったんかい!』ってことだ。


 俺の魔力が多いってオババとかは言っていたが、さすがに人が一人で星相手に干渉できる訳はないわな。俺のパワーアップ魔法は間違いなく大地を『手伝った』のだろうが、その相手が()()()()()のだ。

 もしかしたら俺の居る場所がファンタジーな浮島ってパターンもあるかもしれないが、仮に島だとしてもその質量は人間と比べたらデカすぎるだろう。

 今後、地面に向かってのパワーアップ魔法は使わないように――ん?

 なにやら地面に振動を感じるが何だろう?

 どうやら俺が作ってしまった穴から音がするようだが?

 落っこちないように穴を覗こうとした俺は、次の瞬間、吹きあがった水を顔面にモロに食らって、また走馬燈のようなものを見る羽目になった。

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