「プロローグ(前)」
私は将来作家になるんだと思っていた。
小さい頃から本を読むことが好きだった。
よく読書の大切さやこんな利点がありますよ、といった説明によく出てくるあれだ。
その物語の主人公となって冒険したり、時には悪事にも手を染めたり、とにかく現実ではなかなか体験することができないことを本は私に提供してくれる。
だから絵本を始め、周囲からすれば「その年齢では少し難しい内容なんじゃないか?」と言われそうな本も進んで読んだ。
小学生高学年の頃だったと思う。
国語の授業の一環で原稿用紙五~十枚程度の物語を書いてみようといった課題に取り組んだ。
その課題が出た時、ついに来たかと私は思った。
というのもそれまで私は自分で簡単なお話などを書いてみようと考えたことがなかった。
だからついに!という興奮もあり、ちゃんとしたものを書き上げることができるのだろうか、という不安も同時に感じた。
今思えば小学校の授業の一環なのだからそこまで意気込む必要性は無かったのだけども。
結果的に言うと課題の期限までに私は一つの作品を書き上げることができた。
でもそれは自分の中で胸を張って「書き上げたぞ!」と言えるような作品ではなかった。
授業の課題だから構成を考える時間が足りなかった、というのはきっと言い訳になるのだろう。
作品へのアイデアが少しも思い浮かばなかったのだ。
結局私は当時大好きだった動物が主人公の物語を真似た作品を書いた。
クラスの皆が書いた作品が教室の後ろに展示されている間、私は自分の作品が何番目に面白いと思われているんだろうなと気にしていた。
そんななかだ。
文集の中にクラスの中から一つ作品が載ることが担任の先生から告げられた。
いわゆるあれだ。
各学年、各クラスから一~二名ほどの作文や詩を載せて全校生徒に配布するやつだ。
その話を担任の先生から聞いた私は複雑な気持ちだった。
今でさえ思えば自惚れ以外の何物でもないのだが、クラスの中で一番本を読んでいる自信が私にはあった。
そんな私が他の物語を真似したとはいえ書いた作品だ。
選ばれてもおかしくはない。
ただ、自分自身あまり納得していない作品が文集という結構多くの人の目に触れる物に載るのもな…という感情もあった。
文集に載せる作品は先生が決めるからクラス全員の投票で、みたいなそのクラスで人気のある子が選ばれることはないだろうと思っていた。