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2話 俺もこんな提案されてみてえ

「なるほどねぇ…」


話を書き終えた中村なかむら店長はうんうんと何度も頷いた。


「確かに、すり減ったタイヤでアタックするのはまずいかもねぇ」

「でしょう? さっきからこいつにもそう言ってるんですよ?」


店長の言葉に八郎はちろうも同意する。


「今、新品タイヤ買うと次の給料日までひもじい思いをすることになります…」

「でも、肝心のこいつがこんな様子なんですよ」


俺の言葉に八郎も同意……ではなくため息をついていた。


「そうだねぇ道星みちぼし君、君はお金がないと言うけど、今のすり減ったタイヤでアタックして、もしクラッシュなんてしたら多分新品タイヤの6倍くらいはお金がかかることになると思うんだよ」

「ろ、6倍…」


一体、板金何万円コースになるのだろうか…

少なくとも7万円では済まないはずだ。

考えたくもない。


「それが嫌ならお金が貯まるまで走るのをやめるか…」

「いや、それだけは絶対嫌です!」


走り屋から走りを取ったら何が残るというのだろうか。屋しか残らねぇ。屋だけで何ができる?新しく豆腐屋になるのか?そこからAE86に乗って下り最速伝説を打ち立てるのか?最高だな。

いや、本当に走らなかったらサーキットの感覚忘れるからそれが嫌なんだよ…


「んー、困ったねぇ…」


店長が難しそうな顔をする。

すると隣にいた八郎が口を開いた。


「これはアレだな。店長の忠告を無視して走りに行って、今日見た夢の通りにクラッシュして、泣きながら店長に48万支払って、お前の走り屋人生が終わるというオチが---」

「あああああああ!!!やめてやめてやめてやめて!!!」


2話続けて情けない叫びを上げながら俺は再び耳を塞いだ。

八郎はそんな俺の様子を見て(ry

こ、こいつさっきまで黙ってたと思ったら…

せっかく考えないようにしてたのに、48万とか具体的な数字出してきやがって…こいつは悪魔なんじゃないだろうか。

八郎君、お前の愛車は86だが悪魔ならフェアレディZにでも乗ってろと思っていたところ、さっきから難しそうな顔をしていた店長がおもむろに立ち上がった。


「道星君。君に一つ提案があるんだ。ちょっと待っててくれ」


そう言い残して店長は店の外に出て行った。



数分後、店長は1本のタイヤを持って再び店内に戻ってきた。


「道星君、1回だけ君にこのタイヤを1セット貸してあげよう」

「そ、そのタイヤって…まさか…」


店長が持ってきたタイヤには見覚えがあった。

それもそのはず、走り屋なら誰もが喉から手が出るほど欲しい代物だから。


「うん、このA052を使いなさい」


ヨコハマタイヤが製造したADVAN A052

国産ハイグリップラジアルタイヤの中じゃ最高レベルのグリップ性能を誇る超高性能タイヤだ。新品で買うと12、3万はする。

それを使っていいだと?俺が?


「店長…ありがとうございます!!」


あ、やばいなんか泣けてきた…

1回だけとはいえ、A052を使わせてもらえるなんて…

隣で八郎が「よかったな」と背中を叩いてくる。

が、しかし。店長の提案はこれだけでは終わらなかったのである。


「道星君、なんならそのタイヤ君にあげようか?」

「え? 良いんでーーー」


とまで言いかけて俺は口をつぐんだ。

待て、あわてるな、これは店長の罠だ…

よく見ると含みのある笑みを浮かべてやがる…


「とある条件をクリアできたらの話だけどね」


道星に対し、A052の主、(有)ナイトーオブファイヤー店長中村が言い渡した譲渡じょうとの条件とは…。


「そのタイヤで、タカタサーキットを60秒台で周ってこれたらそのA052は君にあげよう」

「!!」


言われた瞬間、体に電気のようなものが走った。

タカタサーキット。

広島ひろしま県の安芸高田あきたかた市に位置している。

俺や八郎がいつも走りに行っているサーキットだ。

そこを60秒台でだと…?


今、タカタサーキットでの俺のベストタイムは63秒台だ。

店長はそこからもう3秒縮めてこいと言っているのだ。

サーキット走行をよく知らない人間が見たらたったの3秒?と思うかもしれないが、秒単位でタイムが削れることなど滅多にないのだ。

何故かは説明すると長いから割愛するけど。


俺の愛車-ロードスターNCECーはお世辞にもパワーのある車とは言い難い。

俺の周りでもロードスターに乗っている人間は速くても62秒台だ。

60秒台で走れるロードスターはそれほど多くはない。

そんな非力なマシンで60秒台に入れるというのはなかなかに高難易度なミッションだった。

だが…


「わかりました。やってみます!」

「マジか」


俺ははっきりとそう宣言した。

なんか隣からボソッと「できんのか」みたいなニュアンスを含んだ声が聞こえたがそれは気にしないことにする。

店長は俺の返答を聞いて、どこか嬉しげであった。


「60秒台ですね。よし八郎! 早速練習しに行こうぜ!」

「はいはい」


八郎は仕方ないなといった様子で笑った。

これは、走り屋のプライド(とタイヤ代)をかけた戦いだ。

この戦い、絶対に負けるわけにはいかない!

俺は気合を入れて八郎と共に店を後にするのだった---


「あ、道星君。今日のオイル交換代5000円ね」

「あっ」


そっか…そういえば今日オイル交換しに来てたんだっけ……

危うく踏み倒すところだった…

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