エピローグ: 出会いは凄く最悪でした。
こうなった経緯は後で話すことにして、何故だか今、俺の前には物凄く暗いオーラを出している茶髪ボブの可愛い女子生徒が、右には物凄く距離を置いて、話しにくい―― 否、話しかけるなオーラを放っている黒髪ロングで美人な女子生徒がそれぞれ座っていた。
この状況を普通の男子生徒が体験していたら萌えるシチュだと感じると思うが、あいにく恋路に興味が無い俺は取り敢えず自分の仕事を早々に取り掛かることにした。
「まずは自己紹介でもしよっか? えーっと…… 荻さんと藤宮さんだよね。 荻さんとは今年から同じクラスだもんね。 中条 宏です。 改めましてよろしくね」
話し合いが円滑に進められるようフレンドリーに、なおかつ軽い男だと思われない程度に済ます。
すると、一拍置いた後に前方から聞こえてくるか定かではないような声量で荻さんが右手をその豊満な胸の前で握りしめ、そして圧迫させながら続いてくれた。
「……荻です。荻 佑花です。あの……え、えっと……よ、よろしくお願いします……です」
端的ではあるが故意にそうなった訳ではなく話すことに慣れていなかった結果こうなってしまったという感じが伝わってくるので嫌な感じはしなかった。 というよりかは、逆に良いものを見せてもらってありがたやーという気持ちだった。
意識が先程目に焼き付いた光景の方に行ってしまっていたが、すぐさま我に返った俺は、話に意識を戻す。
あとは、藤宮さんだけだな。
そう思い、右に視線を移したが、そこにはただただ俺を推し量るような目で見ている藤宮さんがいた。
……いや、ガン飛ばしてねぇで自己紹介しろよ。
このままでは時間を無駄に消費するだけだと確信した俺は切り出す。
「あの、藤宮さん?一応自己紹介する流れだと思うんだけど……」
すると藤宮さんはため息を一つ零して、そしてようやく重く閉ざされていた口を開いた。
やっとこれで次の段階に進め――
「何故、名前を知っている相手に自己紹介しなければならないのかしら? 無駄な時間だと思うのだけれど? そんなことより話し合いでしょ? 私も要所要所で意見を出すから他は勝手に進めておいて頂戴。それと、また今みたいに私の手を煩わせないでくれないかしら?」
と早口で言い、そして視線を膝上の本に落とした。
……は?
ちょ、ちょっと待ってくれ理解が追いつかん。これで終わりですか?
つまりは自分の事を知っているのだから自己紹介をする必要がないし、読書に夢中だから話しかけないで欲しいということかな?
オーケー、オーケー………………。こいつまじ使えねぇ。というか呼び出したのお前だろ。
本当にどうして俺がこんな面倒事に巻き込まれなきゃならんのかな。
この出会いがあったのは、淡い青色をした空に、ところどころ綿飴のように真っ白な雲が浮かぶ、二年生になったばかりの最高に気持ち良く、また、最高に憂鬱な四月の下旬のことだった。