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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第8章 流浪の冒険者
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第78話 フィアナとリヴィアの関係

今回はフィアナとリヴィアの初会合です。フィアナ強し!

帝都にある龍騎兵達の寄宿する建物内にて、赤と緑の髪と瞳の色をした男と女が会話をしている。


「リヴィアが魔の森から帰ってこないと?魔の森で魔物にでも倒されたというのか?」


「状況はわかりません。宮廷魔法師のアロイスのところから、ヤタノカガミを受け取ったまでは消息が判明しておりますが、それ以降の足取りがつかめないようです」


赤い髪、赤い瞳をした男はその報告を聞いて瞑目する。


「それで、ティア、お前の見解は?」


「そうですね。あの子は暗黒に対して反発的ではありました。ただ強きものに従うという竜のしきたりには従順な子です。そう言った意味で、暗黒を裏切る事は無いと思います。あるいは、リヴィアを倒すものでも現れれば、その者に恭順している可能性もなくは無いですが」


ティアと呼ばれた緑の髪、緑の瞳の女性は、そう思案しながら答える。単純な裏切りは考えられない。竜の強き者に従う習性は言わば竜の魂に刻まれたしきたりであり、そこは他の龍騎兵にも同様に言える事だ。それ以上にもしリヴィアを倒すものが現れたのとなれば、それこそ考えられない。龍騎兵は実力の上では差は無い。そのリヴィアが負けるような魔物など、正直思いつかなかった。


「ふむ、取りあえずは皇帝に報告だけは入れねばならんか」


「まあ、可能性だけで言えば、どこかで道草を食っている可能性も0ではありませんので」


ティアは自分で言って、正直その線もないだろうとも思っていた。既にリヴィアが魔の森に向ってから1ヶ月がたとうとしている。彼らの足で言えば、かの森の最奥から戻ってくるのに、2週間もあれば、往復できるのだ。


「それなら僕が探しに行ってこようか?僕の能力なら見つける事も可能だけど」


すると音もなく、スッとまだ少年と言っても差支えない紫の瞳、紫の髪の男が現れる。


「リムド、どこから話を聞いていた?」


赤い瞳の男は鋭い目つきで、突然現れた少年を睨む。少年はそれを気にする事なく、肩を竦めて飄々と答える。


「僕は最初からこの場にいたよ。二人とも不用心だよね。ここにいた僕に全く気付かないんだから」


するとティアは少しだけ頬を緩めて、リムドに言う。


「あら、私は気付いていましたよ。あなたの匂いは独特ですから。サラマはそういうのに疎そうですけどね」


「フン、いざとなれば焼き払うまで。それよりリムドが動くのは、皇帝がそう判断した時にしておけ。勝手に動くと無駄な不況を買いかねん。あれは、まだ安定しておらんからな」


すると赤い瞳、赤い髪のサラマと言われた男は、リムドに釘をさす。するとリムドは茶化すように二人に言う。


「アハハッ、あれが安定するわけないじゃないか。正気を持っているだけ奇跡なんだから。いつ精神崩壊するか分からないよ」


「はあ、残念だけどそれには賛同いたします。暴走くらいならかわいいもの。精神崩壊したら、それこそこの世界は終りますから」


ティアはリムドの軽口に対して、深刻な表情でそう答える。サラマもまた厳しい口調でリムドに言う。


「なればこそ、今は無駄な刺激は与えん方がいい。自重しろ」


するとリムドは肩を竦めて、出口の方へ歩いていく。


「はいはい、今は大人しくしておくよ。全く、厄介な世の中だね」


そう一言残していくとその場を去っていく。サラマはその姿を見送った後、一人ごちる。


「世界は滅亡に向っている。我らの行く末も暗黒次第か、あるいは……」


サラマはそう言うと、再び腕を組み、瞑目するのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「シン、寒い~。寒すぎる~。なんなの此処、なんなのよ」


リヴィアが一面銀世界となった世界を見て、唇を紫にさせながら、震えている。シンは呆れた顔をしながら、リヴィアに言う。


「だから冬の北方諸国を舐めるなと言ったんだ。動きが鈍るから厚手のコートなんかいらないって、薄手のものを買うから、そんな目に合うんだ」


「だって~、こんなに急に真っ白になるなんて思わなかったんだもん。魔力を防御に回してなかったら、私、凍死してる~」


シンは仕方なく、リヴィアをおもむろに抱っこする。


「あれ、暖かい」


リヴィアは今は、シンに抱っこされる嬉しさよりも、シンの魔力のお蔭もあって、暖かくなった体にほっとする。


「目的地のガリアまではもうすぐだ。今はまだ雪だから歩けるけど、すぐに凍結して歩けなくなる。そうなったら、氷の中に生き埋めだから、仕方なくだ。一気にガリアまで駆け抜けるから、落ちないように気を付けてくれよ」


そう言ってシンは一気に駆け出す。雪の上という足場の悪いところの疾走である。時折、足を取られバランスを崩すが、それを身体強化で、強引に態勢を戻しつつ、走っていく。リヴィアはというと、むしろその揺れを楽しんでいて、ワーキャー言いながら、シンにしがみ付く。シンはそんなリヴィアを一睨みするが、リヴィアは気にしたところを見せず、シンはガックリする。


そうこうしているうちに、気が付けばガリアの町の領館前まで辿りつく。シンはそこでリヴィアを降ろすと、領館の入り口を開けて中に入る。案の定、正面にはフィアナが待っていた。


「ただ今、フィー。思ったより早い帰りになったけど、早く帰れて良かったよ」


シンは抱きついてきたフィアナを受け止めて、優しく言う。


「おかえり、シン。帰ってきたのは直ぐ気が付いたけど、何かすごい人を連れてる?」


フィアナも嬉しそうにそう言って、シンに笑顔を見せた後、シンの背後にいる人物を感じてそう言ってくる。シンは思わず苦笑して、フィアナに答える。


「ああ、魔の森でちょっと知り合いになってね。話すと長くなりそうだから、取りあえず自己紹介だけで。リヴィア、こっちへ」


最初リヴィアはシンに抱きつくフィアナを見て、不満気な表情を見せるが、実際にフィアナと目を合わせると、何故だか、畏れ多い気がして、思わず、その場で片膝を追って礼をとってしまう。シンは、まさかリヴィアがそんな礼儀正しい事をするとは思っておらず、思わず目を見張る。しかし、当の本人であるリヴィアもなぜ、そんな事をしてしまったのか、理解が出来ずに、奇妙な表情をしていた。


「フィー、一応紹介すると、彼女は帝国の龍騎兵でリヴィア、リヴィア、彼女はカストレイア王国第二王女で、フィアナなんだけど、知ってたわけじゃないよね」


「わからん。なんでか知らないが、何となくかしずいてしまった。なぜ、私は礼をとっているのだ?」


どうやらカストレイア王国第二王女だから礼をしたわけではないらしい。シンも本人が分からない事を考えて無駄と何となくフィアナに助けを求める表情をする。フィアナはそんな二人の困った気配を感じて、面白そうに笑う。


「リヴィア…と呼ばせてもらいますね。私の事はフィアナで構いません。取りあえず、その態勢は止めて下さい。どうやらシンが仲間にしてしまった様だから、私もあなたの仲間です。なので、他人行儀は止めましょう」


するとリヴィアの心の縛りが解けたかのように、フッと体が軽くなる。リヴィアはスクッと立ち上がると、改めてフィアナを凝視する。銀色の髪、銀色の瞳。女性らしい美しい少女。今はリヴィアに向けて優しく微笑んでいる。何やらシンと親しげな感じだが、今はそれ以上に目の前のその少女に何故が、敬意を抱いている。


「改めて自己紹介をする。私はリヴィア、青竜たるリヴィアサンの盟約者だ。なぜだかあなたには敬意を抱いている。理由は分からない。ただ、竜としての魂がそう感じているのだから、仕方がない。だから、あなたの事は尊重させていただく」


重ね重ねシンはびっくりするが、なぜかフィアナは驚いたところを感じさせない。そんなシンの疑問にフィアナが気付いたのか、シンに答える。


「彼女が私に敬意を抱く理由はわかりませんが、彼女が竜の盟約者?というのには、何となくそんなものなのだろうとは気付いていました。彼女の気配には、人以上の何かを感じさせるものがありますから。それが竜というのであれば、それならばと思ったので、むしろ得心したところです」


「ああ、それで驚かなかったのか。でもなんで、フィアナに敬意を感じるんだろうな?」


「まあそれは本人も理解していないようなので、私にも何とも。その内、本人が何か気付くのではないでしょうか?」


シンも、相変わらずはてなマークを浮かべたリヴィアの顔を見て、本人に分からないものを考えても無駄だと思い、諦める。


「まあ、リヴィアの事は後回しにしよう。取りあえず、師匠に報告があるから、師匠のところに行こう。細かい話はそこで言うから」


どうせならまとめて説明した方が、いいと思いフィアナにそう言う。


「フフフッ、それよりもまずはお風呂がいいかと。この雪の中の強行軍なら、まずは風邪をひかないように体を温めてきてください。特にリヴィアは寒そうですよ」


シンがそう言えば、とリヴィアを見ると、リヴィアはそこで大きなくしゃみをする。シンは少し呆れた表情をすると、リヴィアに言う。


「リヴィアは温泉に入ったことあるか?」


「温泉?それは何だ?聞いている限り、暖かいもののようだが」


リヴィアは知らないのか、イメージがついていないようだ。そこでフィアナが簡単に説明する。


「温泉とはお湯の張ったお風呂の事です。お湯の中に体を沈めて温める施設ですよ。ここはお湯が地面より湧き出てきますので、一年中、その温泉に入る事が出来るのです。暖かいお湯ですから、体が温まりますよ」


「暖かいお湯?この寒い中、水浴びをしなくていいのか?」


フィアナの説明にリヴィアは驚く。確かにこの冬の最中、体を洗うのは一苦労である。しかしここガリアでは、その苦労が一切ない。領館には備え付けの温泉があり、町にはいくつか温泉施設が存在する。町の民衆はそこを利用するが、ここ領館では、外にわざわざ出る必要が無いので、更に便利なのである。


「うん、それはいい。シン、すぐに入ろう。一緒に入ろう」


リヴィアはそれを気に入ったのか、シンの手を引っ張り、温泉場に向おうとする。ちなみに場所は知らない。


「リヴィア、まて、男と女は別々だ。お前はフィーに連れて行って貰え」


「なんだ、私はお前のものだぞ。なら温泉とやらも一緒に入るのが道理だろ」


リヴィアはそう言って、譲らない。シンは流石に困って、フィアナに助けを求める。


「フィー、フィーからも言ってくれ。流石に男湯にリヴィアが入るのは不味いだろう」


「なら、シンが女湯に入れば、みんな喜ぶのに」


フィアナが助け舟どころか、とんでもない事を言い出す。


「フィー!?」


「冗談です。流石にハルやミリアは恥ずかしがるでしょうから。まあ嫌がりはしないでしょうけど。リヴィア、今日のところは女湯に入りなさい。シンも疲れているでしょうから、一人でのんびりお風呂に入った方が、疲れも癒えるでしょう」


するとなぜか、フィアナには逆らえないのか、リヴィアは渋々同意する。


「フィアナが言うのであれば、仕方がありません。なぜだか逆らう気が起きないのです。内心不本意ですが、従います」


「フフフッ、本当に不思議。私も何故だか、リヴィアが言う事を聞いてくれる気がするのです。では、今日は私と一緒にお風呂に入りましょう。この館にいるシンの家族にも紹介しますから」


そう言って、楽しそうにフィアナはリヴィアの腕を取ると、屋敷の奥にある女湯の方へと連れて行く。シンはそんな二人を見ながら、どっと疲れを感じるのだった。

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