第77話 竜人
ようやく竜設定解禁です。
レヴィアはゆらゆらと心地良い揺れと暖かなものに包まれて、気持ちのいい気分で眠っていた。無意識により暖かい方に顔を寄せると、何やらトクンットクンッと音がする。その定期的な音も何やら安心でき、思わずニヤケてしまう。
「おい、起きたのか?」
意識の外から何やら呼びかける声が聞こえる。
『見ればわかるだろう。寝ているところだ』
レヴィアは心の内でそう返事をする。
「いや、それって、起きているだろう」
レヴィアは心の内で今度は驚愕する。
『なっ、何、私の心が読めるのかッ』
「いや、お前普通に声が出てるから」
「ああ、何だ。びっくりさせるな」
レヴィアは安堵すると、そこで漸く目を開ける。そこには黒い髪、黒い瞳で優しげな表情をしている男がいた。どうやら今、この男に抱きかかえられて運ばれているらしい。なんでこの男に運ばれているんだろう?レヴィアは頭の中で浮かび上がる疑問を素直に声に出す。
「お前は誰だ?なんでお前に運ばれている?」
すると男は少し呆れたような顔を見せる。ムッ、この私に生意気な態度を。ん?生意気な態度??
「お前、本当に俺の顔に見覚えないのか?さっきも説明しているはずだが」
ええい、黙れ。今何かを思い出しそうなのだ。大体お前の顔など見覚えが……。
「あーっ、お前さっきのっ」
「漸く目が覚めたか。体は大丈夫か?結構まともに攻撃が入ったからな。痛むようなら、薬も用意するが」
レヴィアはそこで漸く先ほど戦いで敗れた相手であることに思いたる。そして今なぜがその男に抱かれて移動している。
『んんっ?抱き上げられてる?』
そして今のこの状態にも漸く思い至り、顔を真っ赤にさせる。見知らぬ男に抱かれるなどとレヴィアの自尊心を大いに傷つけるが、それ以上に、この居心地のいい状況に、動くに動けない。そんなレヴィアの気も知らないで、その男は言う。
「どうやら、問題ないみたいだな。ならそろそろ降ろそうか。何だか恥ずかしそうだし」
レヴィアの理性と本能のせめぎ合いは、あっけなく本能が勝り、思わず声を上げる。
「駄目だ、まだ腹が痛い。これでは歩けない。このままの状態を所望する」
「ん?そうなのか、ならこのまま運んでいくが。そうだ、お前の名前はなんだ?いつまでもお前呼ばわりは何か悪いし」
レヴィアはヘンな事を気にする男だと思ったが、素直に答える。そして今一番気になっている事も聞いてしまう。
「私の名前はレヴィアだ。お前は確かシンだったな。お前はその……この後私をどうするつもりだ」
レヴィアの今の最大の関心事である。私はシンに敗れたのだ。弱者が強者に従うのがレヴィアの中の理である。しかも女だ。レヴィアとて強い男なら嫌ではない。しかも何だか抱かれるだけで、幸せな気分になる。むしろいい男なんじゃないか?今、こうして優しく運んでくれているところを見るとそう手荒な真似をする奴とも思えない。こいつの女になる、なんだかそう言う気持ちを既に受け入れてしまったレヴィアは赤い顔をしながら、まじまじとシンを見る。
「んー、取りあえず、魔の森に女性一人を置いてきたら目覚めが悪そうだから、連れてきたけど、体が回復したら好きにしていいぞ」
「なっ、まて、このまま連れて行って、私を好き勝手にするんじゃないのか?」
もう好き勝手される気になっていたレヴィアは、思わずそう言ってしまう。シンは少し呆れた顔で、レヴィアに言う。
「なんだ、その好き勝手って。おま、あっ、レヴィアか。レヴィアには聞きたい事があるから、それは聞くが、その後は何もしないから好きにしてくれ」
レヴィアは一瞬、名前を呼ばれ嬉しそうな表情を見せた後、その後のシンの言葉にシュンッとする。
「私はお前に負けたのだ。弱者は強者に従うのが理。何を言われても従う覚悟をしていたというのに……」
「なんで、それで残念そうにしているんだか…。レヴィア、なら俺の聞きたい事を聞いてもいいか」
やはり、シュンッとするレヴィアは、力ない声で返事をする。
「構わん。弱者は強者に従うものだ。何を聞かれても答える……ちなみに何をされても構わないんだが……」
シンは後半部分はあえて無視をして、質問をする。
「なら、レヴィア、さっきのあの鱗が出てきたのは何なんだ?」
「あれは竜人化だ。竜の盟約者はより竜に近い形になれる。あれはその姿だ」
シンは思わず目を見張る。何だか思ったよりもすごい話になりそうだ。これは走りながら聞く話じゃなさそうだ。シンはそう思うと手頃な平地を見つけて、その場にレヴィアを降ろす。
「ああっ」
レヴィアは思わず残念そうに声を上げる。ちなみにお腹を気にする素振りは無い。シンは適当な倒木の上に腰を下ろすと、レヴィアを手まねきして隣に座らせる。レヴィアはぴったりと隣に座ると、何やら嬉しそうにする。
「なんだか知らない事ばかりだ。その竜の盟約者ってなんだ」
「竜の盟約者は竜の盟約者だ。古の竜にはその魂を人間と共有するものがいる。その共有されるものと交わされるのが盟約だ。盟約を交わした人間はその竜の力を使う事が出来る」
「古の竜?そんなものがこの世界にいるのか?」
「いると言えば、いる。いないと言えばいない。竜は竜の世界にいる。ただその魂は人間を介すことで顕現する事が出来る」
シンは余りに途方もない話に思わず眉間に手をあてる。
「大体その古の竜達はなぜ、この世界にその魂を顕現させるんだ?」
「わからない。竜の盟約は血脈により紡がれる。だから盟約を持つ血脈のものは、ある日突然、竜に選ばれる」
「レヴィアもその一人だと?」
「そう。私以外にも、赤・黄・緑・紫・白がいる。そして最近暗黒が目覚めた」
「まだそんなにいるのか?」
シンはもはや驚くのを諦め、事実として淡々と受け止めようとする。先ほどのレヴィアとの戦闘でその実力は嫌というほどわかっている。あんなのが後6人。目が回る思いである。
「いる。今全員、アーガス帝国で龍騎兵となっている。私もその一人」
シンはそこで大きく溜息をつく。どう考えてもその龍騎兵とやらに対抗できるのは、シン位しかいない。ああ、偽シン・アルナスならあるいは。近衛隊長のライアスでも届かないだろう。むしろナタリアやアカネを鍛えた方が、伸びしろを考えたら届きうるかもしれないが、時間が足りない。シンが頑張るしかないようだ。
「ちなみにレヴィアはその中で強い方なのか?」
「相性もあるから、何とも言えないが、そう実力は変わらない。ただ暗黒は別格。あれはこの世界に実体も顕現しているから、より魂の位置が近い。シンでも敵うか分からない」
「暗黒なんて余りいい響きがしないんだが。当然、悪いやつなんだろうな」
シンは先入観でそう軽口をたたく。無理にでも明るくしないと気が滅入ってしまう。
「アーガス帝国の皇帝だ」
「なっ、それは本当か?」
シンはやはり驚いてしまう。どうやら今日は驚き疲れる日らしい。
「本当です。帝国皇帝の血脈は代々暗黒との盟約者を出しています。ただ大抵はその呪いに耐え切れず、発狂して死んでいきます。あのものはそれを抑え込み、今の地位にいる」
まさかこれから事を構えようとする帝国の皇帝が、竜の盟約者の中でも最強であるなど、悪い夢である。いよいよダンになんと説明したらいいかと頭を抱え込んでしまう。取りあえず少しでも早く、ダンに情報を持ち帰る必要がある。
「リヴィア、ありがとう。君のお蔭で色々重要な情報を得る事が出来たよ。最後にこの事なんだけど」
シンはそう言って一つの鏡を取り出す。先ほどリヴィアが落とした「ヤタノカガミ」である。リヴィアはそう言えば懐に無いなとさしたる興味を示さない。
「なんだ、シンが持っていたのか。それでその鏡がどうかしたのか?」
「俺はこの鏡を探していたんだ。これを俺に譲ってくれないか」
シンは真面目な顔で、リヴィアを見ながら、真摯にお願いをする。リヴィアは思わず顔を赤らめて、慌てて言う。
「やる、それぐらい問題ない。っていうか、私はお前に負けたのだから、もうお前のものだ。私の持っているものも好きに扱って構わない」
そう言って、大いにテレる。そしてたった今自分が言った言葉に反応する。
『私はもうシンのもの……』
そんな変化にシンは全く気付かず、嬉しそうに返事をする。
「リヴィア、ありがとう。すごく助かるよ。今から戻れば、ギリギリ冬前に戻れるかもしれない」
リヴィアはそこで、不思議そうな顔をする。
「シン戻るとはどういう事だ?どこかに行くのか?」
「ああ、俺は北方諸国の出身だからな。そっちへ戻ろうと思う」
シンはそう言って、首肯する。するとリヴィアはふむっと頷づく。
「ならば、私も一緒に行こう。なぜなら私はシンのものだからな」
リヴィアはそう言って得意げに胸を張る。シンは何を言っているのか理解できずに聞き返す。
「なんでリヴィアが俺について来るんだ?」
「だから言ったろう、私はお前のものだから、お前について行くのだ。私はお前に負けた。負けたらからには、お前のものにならなければならない。当たり前の事だろう」
「帝国の龍騎兵だろう、そんなに簡単に抜けていいのか?」
「問題ない。私は既に龍騎兵の前にシンのものだからな」
シンは思わず頭を抱える。恐らくだがリヴィアが抜ける事はリヴィア自身は問題ないのだろうが、帝国側の方は問題にするだろう。それ以前に、また違う女性を連れて帰ったら、ダンになんと言って、冷やかされるか。ただ、リヴィアの持つ情報が今後、非常に役に立つのも間違いない。場合によっては戦力にすらなる。
メリット・デメリットを天秤にかけるとメリットに軍配が上がってしまう。シンは仕方なくリヴィアに向き合う。
「その俺のものとか言うのは止めてくれ。ただ裏切らない事を前提にという事であれば、来てくれたら嬉しい。どうかな」
「シンが喜んでくれるなら、ついて行く。私はシンのものだからな。ただそれは私が決めた事だ。だから、シンがそう思わなくても、私は常にそう思っている。それだけは覚えておいてくれ」
「わかった、じゃあ改めてよろしく頼むよ。リヴィア」
「フフフッ、こちらこそよろしく。ならその北方諸国とやらに行くぞ。ちなみに私は抱っこを所望する」
そう言われたシンは、当然のごとく拒否をし、リヴィアはガックリと項垂れるのであった。




