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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第8章 流浪の冒険者
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第76話 魔の森での交戦

戦闘回です。

シンは今、魔の森の中を疾走していた。ここ最近、シンの旅には必ず、誰か付添いがいた。フィアナ、ニナ、アカネ、ハルである。そう言えば、キリクを背負ったりもした。彼女達がいる事自体は問題ないのだが、やはり、単独で動くときよりも速度は落ちる。そう言った意味で、久しぶりの一人旅でシンは速度を最大限まで引き上げていた。そして程なく進んだところで、シンはふと思い出す。魔の森にいた人の部隊の事を。そう言えば、今走っているあたりは、確か彼らが、全滅した場所に近い気がする。シンは速度を緩めると周囲の気配に注意を払いながら、その場所を目指してみる。


「そう言えば、あの集団は、何の為に此処にいたんだっけ?」


半年近く前の話である。結局目的はわからなかったが、その後ニナや、ヤンセンの事、ニルスの出来事など、色々な揉め事に巻き込まれて、すっかり忘れていた。恐らくここから更に奥へ行ったところに何かあるのだろう。シンはそれまで帝都に向けて走っていた向きを、魔の森の深部の方に替えて移動し始める。


『まあ、何があるのかだけ確かめられればいいか』


そんな軽い気持ちで、魔の森の深部を目指せるのもシンぐらいのもので、フィアナが聞いたら間違いなく、規格外と言われそうだなと思わず、笑みをこぼす。魔の森は、深部に行けばいくほどその魔素を濃くする。実際、今歩いているところはシンには効かないが、通常の人間が歩いたら、間違いなく昏倒するレベルの魔素が充満している。そして日常よりその魔素を吸収し続けている魔物は、間違いなく、上位種の中でも強者の部類となり、人里に現れたら災害級の被害が出るものが現れる。


「何にも出くわさなきゃいいけど」


シンはそう言うと、腰から一本の短刀を引き抜く。宝刀「クサナギ」アルナス家の家宝であり、メルストレイル公国の秘宝。今はただの短刀のような形状だが、あくまで完全体では無い。この刀の本質は魔法刀。魔力を刃に替え、あらゆるものを切り裂く事が出来る。シンはあくまで不測の事態の備えとして、その刀を用意した。すると、そのシンの前方に大きな亜人であるサイクロプスが現れる。


「あれはこの前の巨人?」


ヤンセンの近くの魔の森でみたものと同種の巨人はまだシンには気付いていない。シンはすかさず木の陰に身を潜ませ、やり過ごそうとこころみる。あの巨体では流石にシンのサイズが身を潜ませると、気が付かない。何とかやり過ごせそうだなと思った矢先である。突然、サイクロプスの体が大きな爆発音と共にヅレる。シンは何事かと思って、目をむくと、その視界には一人の女性がサイクロプスを殴り飛ばしている姿があった。


「なっ」


良く見るとその拳にはナックルガードこそついているが、とてもサイクロプスを殴って、体をヅラす程の腕力があるとは到底思えない。シンはその規格外な姿と行動に、唖然とする。


『ありえない』


シンの理性は、中々その光景を受け入れようとはしない。それでもその女性は、再び何度となくサイクロプスを殴りつける。既にサイクロプスに戦意は無く、下手したら立ったまま絶命しているのかもしれない。女性は止めとばかりに大振りでその拳を繰り出すと、サイクロプスは大の字になって、その場に倒れ込んだ。


そしてその女性は何事もなかったかのように、その場からスタスタと歩き出す。シンはそこで初めて、その女性を凝視する。青い髪に青い瞳、背はシンと同じくらいだろうか。先ほどの戦い方からも分かるように肉弾戦を想定した装備で、短い髪で凛々しい姿をしている。そしてこれだけ濃い魔素の中、特段魔素対策を講じる事もなく、その装備で移動している。シンは自分の事は棚に上げて、その女性に思わず見入ってしまう。


するとその女性はシンの存在に気付いたのか、その視線をシンに向ける。好戦的な視線である。


『あっやばい」


油断と言えば、油断なのだろう。女性はシンを見つけると明らかな敵意を向ける。


「おい、お前、こんな所で何をやっている。何者だ」


シンはそう言ってくる女性に、それは全部俺が聞きたい事だなと思わず思うが、あえて口には出さず、なんとか敵意を収めさせようと試みる。


「俺はヤンセンの冒険者、シン。旅の途中だ」


「旅の途中だあ?こんな魔の森の奥をか?」


シンは思わず苦笑して、言い訳をする。


「まあ、そう言われてもしょうがない。俺は冒険者ギルドの依頼で、とある魔物を探している。だからこんな魔の森の奥に来なくてはならなくなったんだ」


「この私がそんな与太話を信じると?」


「まあ疑うのはしょうがない。俺はこう見えてAランクの冒険者だからな。たまにそういう依頼もある」


明らかに疑う素振りを隠さない女性に対し、シンは諦め半分でそう言う。最悪の場合、交戦しなくてはいけないだろう。しかしそんなシンの思惑とは裏腹に、その女性は敵意を緩め、好奇の視線を送ってくる。


「フフンッ、お前強いのか?」


「まあ少なくてもこの魔の森の奥地で死なない程度には、戦えると思うが」


すると女性は嬉しそうな顔を見せて、交戦的な表情を浮かべる。


「なら、私と戦え。お前と戦ったら面白そうだ。ただ加減はできないから、死んだらそれで諦めろ」


女性はそう言うと、態勢を低くし、一気にシンの懐まで詰め寄る。


『速いっ』


シンは心の内で感嘆の声を上げると、体を半身にし、相手の動きを逸らす。今度は女性が驚く番だ。確実に当てにいった攻撃である。僅か半身にしただけで、躱されるとはつゆほどにも思っていなかった。


そして反対側にすり抜けると、そこで反転し、シンを睨む。


「お前、何者だ」


「いや、さっき答えたはずだが」


「ありえない、人間風情が我を交わすなどと。そんなのは認めん。認めんぞ」


女性は感情的になったのか、更に速度を上げて、拳を何回も繰り出してくる。シンはそれを全て見切って、最小限で躱し続ける。女性は更に激高する。


「なぜだ、何故当たらない。許さん、許さんぞーっ」


シンにしてみれば、確かに速い事は速いが、動きは単調であり、予測がしやすい事もあって、身体強化を全力に引き上げなくても、躱すだけであれば、そう難しくはなかった。その後もその女性は怒りにまかせて、その拳を繰り出し続けるが、シンはあえて反撃はせずに、攻撃をかわし続ける。暫くすると焦りと共に、そのスタミナも少しずつ削られているのか、肩で息をし始める。


「もうやめたらどうだ。優劣はついただろう」


シンは、そう言って戦いを終わらせるように試みる。逆にその言葉が女性を逆撫でする。


「ふざけるなーっ、貴様如き人間が、我に敵うとでもいうのかっ。許さん、許さんぞっ」


どうやら逆鱗に触れたらしい。シンは大きく溜息をつく。すると、シンの目の前にいる女性の姿が明らかに変化していく。


『なんだっ?』


女性の肌には青い鱗が浮かび上がり、その臀部からは同じく青い鱗に覆われた尻尾が生え、その顔の頬も青い鱗に覆われる。そしてその瞳が爬虫類を思わせる細長いものに変わったとき、女性の体が揺れたかと思うと、その拳がガードしたシンの腕に初めて当たる。


「うわっ」


シンは思わず後方に弾き飛ばされる。厳密には後方に跳んで、その威力を半減させる。シンは飛ばされた先で受け身を取るとそのままスクッと立ち上がる。


「ふう、間に合ってよかった。危うく腕を折られるところだった」


シンは身体強化を最大限に引き上げ、威力を半減させた事で、大したダメージを受ける事なく、その攻撃をかわした。驚愕したのはむしろ女性の方だった。その女性にしてみれば、言わば奥の手を出したことになる。それでもその男は平然と立っている。女性は少しづつ警戒の色を濃くする。


「なんだ、お前は本当に何者なんだ」


「だから言っただろう。ヤンセンの冒険者でシンという名前だ。お前こそ何ものだ。その姿。人には見えんが。まあいい、このまま続けると俺も無傷とはいかないみたいだからな。取り合えず、終わらせてもらうぞ」


シンはそう言うと初めて攻撃をする姿勢を見せる。ただし、相手に習い、武器は使わず、体術のみで対抗する。二人は少し離れたところで向き合うと、一気に距離を縮める。先に手が出たのは女性の方。これまでの大振りとは違い、速度と正確性で手数を増やす。シンは身体強化を最大限にしその手数を捌きつつ、反撃の機会を伺う。女性は守勢に回るシンを見て勝機を見出し、渾身の一撃を喰らわそうと少しだけ大振りになる。ただ待っていたのはシンの方で、その大振りを逃さず、一気に懐に潜り込むと0距離で渾身の掌底で腹部を撃ち抜く。


グフッ


0距離で躱す事の出来ない掌底を諸に食らった女性は、その場で前のめりになって倒れる。


「ふーっ、どうにか勝てたな。んっ?これは?」


シンはその女性の懐から転げ落ちた鏡を手に取る。その鏡にはレーニアの家紋とメルストレイルの紋章が刻まれている。シンはそれを手に取りその女性を眺めると、再び大きな溜息を吐く。


「このまま持ち逃げしても良いけど、追ってくるよなぁ。それに気絶した女性を一人、魔の森に置いてきた何てフィーにはすぐバレそうだし。ああ、面倒くさい」


シンはその女性を抱き抱え、仕方なく元の来た道へと引き返した。


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