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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第7章 選定公の血筋
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第71話 扇動の先

事件がもっと大事になりそうな予感

シン、フィアナ、アカネの三人は今、ニルス内にある職人街に来ていた。人通りがあるところで、状況の確認をする事が目的であった。アンに諸々の状況説明をした後、アンの住処に一泊をし、朝早速の行動である。アンはシンの説明の中で、キリクの件とエリクの件の二つに興味を示し、前者に関しては、春になったら一度連れてくる事、後者に関しては、捜索の協力を約束している。今回の捜索の主役はフィアナである。彼女の事は一旦その素性は伏せている。幸いアン自体は彼女の銀髪でヘスティのものと勘違いしており、あえて訂正はせずに、説明もしないという形をとっている。


「どうだい、フィー。それらしい反応は感じられるかい?」


フィアナは首を横に振り、否定する。


「今直接エリクと繋がっている人はいないよう。ただ、人々の心の内では、不安や疑念が広がっている」


「やはり、公都から連れてきたという人々を捕まえるほかないね。まだ朝だから、動き出しは夜なのかな」


シンはそう言って、周囲を見回す。確かに町の様子は決してにぎやかとは言い難い。本来であれば、商業都市の為、朝市はそれなりの賑わいを見せる。勿論、帝国占領下という状況下もあるのだが、それにしても寂しすぎる。


「シン、如何する?一度戻る?」


アカネがシンに聞いてくる。今、シンは両手をそれぞれアカネとフィアナそれぞれと繋いでいる。元々はフィアナの精神攻撃対策で繋いでいたのだが、それにむくれたアカネとも繋ぐ事になってしまった。正直目立つので余りしたくないのだが、致し方ない。


「うーん、そうだな。アカネ済まないけど、フィアナを連れて一度、戻ってくれるかな。俺は一人で領館の方を見てくる」


「私が行こうか?」


アカネがそう提案してくれる。確かにアカネは面が割れていないので、行動はしやすそうだが、何かあると事である。現時点でそこまでのリスクは犯したくない。


「いや、流石にここは慎重に行こう。少なくても俺ならば一人でも何とかできると思うしね。もしアカネに何かあったら、それこそガース叔父さんに顔向けできないし」


アカネはシンが心配してくれる気持ちに顔を赤らめて、首肯する。


「わかった。ならフィアナの方は任せておいて。また後でアン様のところで合流しましょ」


「ああ、わかった。フィアナも何か感じたらすぐアカネに報告するんだよ」


「うん、わかった」


シンはそう言って、二人に笑顔を見せた後、一人離れて都市中心部にある領館の方へと向かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


アカネとフィアナはシンと離れた後、アンの隠れ家としている家に向ってその歩を進めていた。先ほどまでいた職人街から少し奥に入って、路地を歩いている。当然、そこは先ほどまでの場所より更に人通りが少なく、本来であれば、人と出くわす事などないのだが、今二人の前には。数人の男が、二人を遮るように道の前に立っていた。実はフィアナは大分前からその存在に気付いていて、アカネにはそれとなく報告している。なので二人にしてみれば、予想通りの展開だった。


「フィアナ、どう?あたり?」


フィアナは首を横に振り、外れだと態度で示す。


「おうおう、姉ちゃんたち、こんな路地に入って何してんだい。折角だから俺らと遊ぼうや」


いかにもチンピラ然とした集団に囲まれて、アカネは軽蔑したようにそいつらを眺めると、安い挑発に対して、思いっきり馬鹿にする。


「たかだか女二人に大の男が6人も集まって、何しようって言うんだい。あんたら恥ずかしくないの?」


だが男達は人数的に優位な状況の為か、二人が虚勢を張っていると考えて、顔をニヤニヤさせながら、更にアカネ達を挑発する。


「おお、いいねぇ。その鼻っ柱の強そうな感じ。そういう女が泣きながらヒーヒー言わすのは嫌いじゃないねぇ」


「いやいや、あの銀髪の姉ちゃんの方が、断然だろう。あんな美人、これまでの人生で見たことが無い」


「あの鼻っ柱の強い姉ちゃんもあのスタイルは本物だぜ、こりゃ、両方とも上玉だ」


アカネは男達の下品な視線に悪寒が走ると、心底嫌そうに、睨みつける。フィアナは普段と変わらず落ち着いた表情を見せて、感情的になるアカネの手をそっと握ると、普段と変わらない口調で話かける。


「アカネさん、やりすぎは気を付けて下さいね。できれば、捕まえて情報を得たいですから」


そんなあまりにも普段と変わらないフィアナを見て、アカネは思わず笑ってしまうと肩の力を抜いて、全身を魔力で強化する。


「あんたら、御託はいいから、かかってきな。殺しはしないから安心してくるといい。ただし、無事は保証しないけどね」


男達は一向に怯えた様子を見せない二人に対して、軽く苛立ちを感じはじめ、軽く痛めつけるべく前にいるアカネを捕まえにかかる。


「ならご希望通り、ひん剥いてやる。うらぁーっ」


先頭にいた男は、アカネの腕を捕まえようと勢いに任せて振り下ろす。アカネはそれを簡単に弾き、そのがら空きになった腹に目掛けて、掌底を食らわす。


「ガフッ」


当然身体強化された掌底である。男は一瞬で白目をむくと、その場に崩れ落ちる。それを見た男達は焦りの色を見せた後、同時に3名が襲いかかてくる。アカネはそれに対しても冷静に対処をし、フィアナを背にして、同時に対するのは一人づつになるように角度をずらすと、一人目はその顎に掌底を食らわし、二人目は回し蹴りでそのこめかみを打ち抜き、三人目はその脳天にかかと落としを食らわせて瞬時に昏倒させる。最後に一人はその場に尻餅をついて後ずさるが、腰が抜けているのか、上手く逃げられない。アカネはその男の胸倉をつかんで思いっ切り締め上げると、口から泡を吹いて落ちる。その男を脇へ放り投げると、アカネはフィアナの元に行って、話かける。


「取りあえずこのまま一旦アン様の元へ行きましょう。そこで誰か使いをやって、こいつらを拘束して、情報を取ろう。こんな奴ら、持っていきたくないし、触りたくもないしね」


フィアナもその発言に笑顔で賛同する。


「そうしましょう。全くアカネさんを相手によこしまな気持ちを持つなんて、命知らずもいいところですね」


「ほんと、男ってバカばっかなんだから。シン以外はホントごめんだわ」


そう言って、二人は笑い合いながら、その場を後にした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


シンはその頃、領館近くの建物影から領館付近を見張っていた。人の出入りはある。ただしほとんどが軍関係の人間で、扇動役の一般人の出入りはない。シンは注意深く中を探るが、中々それらしい人物の出入りはなかった。


「このまま暫くは様子見かな」


シンは一人ごちると領館以外にも目を向ける。人気は余りない。店らしい店も開いていない。アンの話ではこの扇動はあくまで第一段階で、次の段階で、民衆を巻き込んだ手を打ってくると予想している。一番手っ取り早いのは、洗脳されている人間を傷付けて、その罪を選定公の血筋か反帝国勢力に押し付け、民衆を味方につける事である。ここまでの扇動はあくまで種まきで、味方につけやすい土壌を作っているに過ぎない。一番はその有事の現場を抑え、先方の思惑を挫く事だが、そう上手くいくかは分からない。


「ここニルスはやはり、他の都市とは扱いが違うな。それだけ価値が高いという事か」


他の都市であれば、こんな周りくどいやり方はしないだろう。場合によっては、領民まとめて根絶やしまである。ただこのニルスでは、今のところ、民衆を利用はしようとしているが、危害を加えるまでは至っていない。それだけ帝国においてこの都市の価値が高いという事だ。逆にこの都市を完全に反帝国勢力の牙城とできれば、もしかしたら公国再興の足掛かりとなるのかもしれない。シン自体は公国再興が必ずしも必要とは思っていないが、帝国を追い出すにしてもやはり、国という形式は必要になってくる。そう言う意味でもここニルスで必要以上の戦火にさらすわけにはいかなかった。


シンはそう言った事を取りとめもなく考えながら、再び視線を領館へ戻す。すると領館内から顔に生気の見られない集団が出てくるのが見られる。シンは視覚強化でその集団を眺め見るが、エリクの姿は確認できない。とはいえ、この者たちも放置できない為、エリクの方は一旦棚上げして、その者たちの後をついて行く事にする。彼らの向う先は、先ほどまでシン達がいた職人街の一画にある、とある建物。その中に集団は入っていくと、シンもその建物の前まで移動する。


「結構大きな店構えだな……鍛冶屋のようだけど」


人を先導するなら、もう少し人の集まるような場所なのかとも思ったが、店構えこそ立派だが、決して人の出入りが頻繁にあるような店ではない。シンは彼らの行動を不思議に思い、店の中に入ろうとドアに手をかけた時に、店の中から怒鳴り声が響きわたる。


「お前ら、いい加減にしてくれ。わしは選定公の血筋のものなぞ知らん。もしそんなものがいたとしても、協力する気もない。勿論、お前らにも帝国にも組しはせんが、それはあくまで身の保身の事。どっちに味方しようが迷惑をこうむるなら、どっちにも味方はせんという事じゃ。わかったらとっとと出て行ってくれ」


「我々はこれまで穏便に協力を促していましたが、中々ご理解をいただけないようで、まいりましたね。そろそろ次の段階にと我々も進まなければ、いけない。鍛冶ギルドギルドマスターのリックさん。あなたが悪いんですよ?中々ご協力をしていただけないのですから」


「うわっ、何をするんだ、止めろ」


中から不穏な声が響きわたると、シンは間髪入れずにドアの中に踏み込むと、短剣を片手にリックと呼ばれた鍛冶ギルドのギルドマスターと揉みあいになる数名の男達が視界に入る。シンはすかさず、その短剣を弾くと、リックを強引にその場に伏せさせ、魔力を纏わせた手でその集団に触れていく。触った瞬間ピリッとした感触があると皆その場に崩れ落ちる。シンは全員が崩れ落ちた後、そっとリックを支えて立ち上がらせて、謝罪をする。


「すいません、急な事とは言え、手荒な真似をしてしまいまして。お怪我はありませんでしたか?」


「いたた、いや、大丈夫。どうやら助けて貰ったようだ。謝罪には及ばんよ。助けてくれてありがとう。それはそうと、こいつらは一体どうしたんだい?」


リックは昏倒する集団たちを見て、不思議そうな顔をする。シンは正直に状態を説明する。


「彼らは恐らく洗脳されていたのだと思います。俺は、魔力でその洗脳を断ち切りましたので、それで彼らは一時的に意識を失ったのだと思います。洗脳をかけたものは、洗脳が解けた事に気付いているはずなので、ここも早めに離れた方がいいかと思います」


リックはシンの説明に驚いたものの、何となく腑に落ちるところがあったのか、納得顔を見せる。


「ならば、急ぎここから逃げんとな。とは言え、どこへ逃げたもんか?」


「なら、これから俺が戻る先へ一緒に行かれますか?色々秘密にしていただかなきゃいけない事もあるのですが」


シンは少しだけ思案をした後、思い切ってそう提案する。


「秘密にしなきゃいけない事?」


「ええ、でもそろそろこの状況を変えたいのであれば、そう悪い話ではないと思いますよ」


シンはそう言うとニヤリといたずらっ子のような笑顔を見せた。


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