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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第7章 選定公の血筋
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第68話 二人の銀色

今回はのんびりした話です。

シンとハルは快く送り出してくれた領民に見送られて、ヘスティを出発する。門をくぐったところで、そこまで着いてきたキリクに後を託す。


「じゃあ、キリク叔父さん。後の事は頼みます。早ければ冬前、遅くても春には戻ります」


「ああ、ゆっくりしてこい。特にハルは初めての領外だろ。いい経験にもなる。後の事は上手くやっておく」


キリクはのんびりした口調で、そう請け合う。ハルもその言葉を聞いて、丁寧に御礼をする。


「キリク様、ありがとうございます。どうぞ里の事をよろしくお願いします」


「なに、冬になればどうせ人は来ない。冬もそう遠くないしな。第一門の認識阻害はもう終わっている。第二、第三門の結界もそんなに時間はかからんだろう。安心して行ってくるといい」


普段シンには見せない優しい表情で、キリクはそう言うと日頃の恨みとばかりに、シンはキリクをからかう。


「キリク叔父さんが人に対して、こんなに優しく接する事はないから、ハルも安心していいよ。普段はもっと偏屈だから」


「うるせー、この規格外が。お前は雑に扱っても昔から何とかしてしまうから、優しくする必要が無いんだ。もういい、とっとと行け」


キリクは偏屈と言われてムッとした表情を見せたが、それ自体は事実なので、特段腹を立てづにひらひらと手を振って、追い払う仕草をする。


「はい、では行ってきます」


シンはそう言うとハルを抱きかかえる。ハルはやはり少し顔を赤らめて言う。


「シン様、やはりこれ、少し恥ずかしいですね」


「オンブでもいいけど、この方が運びやすいからね。キリク叔父さんもこうしてくれれば、もっと早く移動できたんだけど」


シンはニヤリと笑って、横目でキリクを見る。キリクはそんなシンを睨みつけ、怒鳴る。


「あほか、50手前のおっさんが、そんな恰好できるかっ。精神的に死ぬわっ」


シンとハルはそんなキリクをみて、笑い合いながら、ガリアに向けて出発した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


二人はそうしてガリアへ出発する。ヘスティからガリアはシンの足でも約2週間程かかる。旧メルストレイル公国はマイセンを中心に東西南北に選定公領が点在している。最北あるのがガリア、アルナスはその東よりにあり、ヘスティは南よりに位置している。


シンは今回はできるだけマイセンを避けたいと思っているので、迂回して移動している。その分時間もかかるのだが、そこは余り気にしていなかった。冬までにはまだ時間もあるし、何よりヘスティ領から外へ出たことの無いハルの為の旅でもある。のんびりするわけではないが、急ぎすぎる事のない旅だった。


「シン様、あれは何でしょう?」


「ん?あれは風車というものだね。風の力で歯車を回して、うすを回したり、水を汲んだり、色々用途はあるみたいだよ」


ハルは道中目の付いたものは、基本なんでも聞いてくる。目を輝かせて、周囲をキョロキョロと眺めながら、終始楽しそうにしていた。


「へー、凄いですね。ヘスティの里にも置くことができるかしら」


「ハルは本当にいろんな事に興味があるけど、やっぱりヘスティの事が一番気になるんだね」


シンは何となく、そんな言葉をかける。するとハルは、当然とばかりにシンに言う。


「勿論です。里のみんなにはもっと暮らしむきを良くして貰いたいですから。ですので、まだまだいろんな事を勉強しなくちゃいけないのです」


シンはそんなハルを見てクスリッと笑い、ハルに言う。


「ハルなら、フィアナとも話が合いそうだね。彼女も本を読むのが好きだし、好奇心は旺盛だから」


実はフィアナとハルは外見上の特徴で似ているところがある。ハルもまた、フィアナと同様に銀色の髪をしている。瞳はやや青みがかっているが、やはり銀色。二人が並ぶと下手したらセシルより姉妹に見えるかもしれない。黒髪・黒い瞳が主流の北方諸国の領民に合って、ヘスティ家は珍しく銀色の髪をしていた。ハルもその特徴を色濃く受け継いだのか、銀色の髪に銀色気味の瞳をしている。


「フフフッ、カストレイアの第二王女で私と同じ、銀色の髪と瞳を持つお方ですね。私もお会いできるのが、楽しみなんです」


「きっと仲よくなれると思うよ。ちなみにハルの両親やああ、レオン様は違ったか、母上や兄弟は銀色の髪だったのかい?」


シンはふと気になって聞いてみるが、途中でハルの父親は違う事を思い出して、他の家族の事を聞いてみる。


「お母様がそうでしたが、兄たちはお父様と同じ髪色でした。お母様の話では、銀色の髪になるのは女性の方が多いのだとか」


「へえ、面白いね。そう言えば、フィアナの母上、カストレイア王妃も銀色だったな。父上、国王の方は鮮やかな金髪だったけど」


シンは少しだけ驚いて、フィアナの両親を思い浮かべる。


「もしかしたら、フィアナ様のお母様方のルーツがヘスティにあるのかもしれませんね。興味深いです」


ハルはそう言うと、納得顔でうんうんと頷いている。


「なら、ガリアに着いたら、フィアナに聞いてみようか?もしかしたら、ハルとフィアナは遠い親戚かもしれないからね」


「はい」


ハルはそう言って、笑顔で首肯した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


シンとハルはそんな道中をすごしながら、漸くガリア領へとたどり着く。辿りついたときにまずハルはその光景に目を丸くする。ハルが見ているのは廃墟となったガリア領だからだ。


「シン様、ガリアの町が廃墟と化しています。これはどうしたことなんでしょう?」


ハルは慌てた口調でそう言うと、シンはああ、と思いつきハルに謝罪する。


「ごめん、ごめん。ハル、これを見に付けてくれるかい?」


シンはそう言って、以前ダンから貰ったブレスレットを渡す。それを身に付けたハルは、今度はまた違った意味で、目を丸くする。


「シン様、これはいったいどういう事なんでしょう?今度は目の前に豊かに実った田畑があって、町もきれいに直っているのですが?」


「これがガリアの認識阻害魔法の効果さ。ガリアは四方を山に囲まれた盆地だろう?その四方に魔石を置いて、盆地全体が認識阻害魔法に覆われているのさ。なんでも師匠とレーニアの魔法師とで作りあげたらしいよ。まあ帝国兵もこんな最北までは滅多に来ないから、そうは簡単にみつからないとも言っていたけどね」


本当にすごい。さっきまで人っ子一人いないような廃墟の光景だった。一瞬、シンに騙されたのかと思ったくらいだ。でもブレスレットをつけた後の光景は、ガリアに辿り着くまでに見たどの村々よりも豊かに感じた。


「本当にすごいです。ダン様は本当に優秀な方なのですね」


「まあそれは実際に会ってみればわかると思うよ。もうすぐ着くしね」


シンはそう言って、領館前まで走ってくるとそこでハルを降ろして、中に入る。するとシンの気配に予め気付いていたフィアナがシンの元にやってきて、シンに抱きつく。


「フィー、ただいま。きっと気付いていると思ったよ」


「当たり前。ガリアに入って直ぐにシンが戻ってきたのはわかった。おかえり、シン」


シンは恐らくフィアナが待っているだろうと思って、抱きついてきたのには驚かなかった。驚いているのはむしろ、シンの後ろにいるハルである。ハルは二人が仲睦まじく抱き合っているのを見て、アワアワと顔を赤くする。


「シン、そちらの方は?よろしければ紹介してください」


フィアナはシンの後ろにいるハルの気配を感じとって、そっとシンから離れると、シンに紹介してと促す。


「ああ。ごめん。ハル、こっちへ」


シンはハルの方に向きなおして、自分の横に誘導すると、フィアナに紹介を始める。


「フィー、こちらは今のヘスティの領主のハル・ヘスティ。今回、家宝を持ってきてもらうのについてきて貰ったんだ」


フィアナはそこで優雅な所作でハルに挨拶をする。


「初めまして、ハル様。私はカストレイア王国第二王女のフィアナ・フォン・カストレイアと申します」


「あっ、初めまして。ヘスティ領主のハル・ヘスティです。お会いできて光栄です」


対するハルは少し緊張気味なのか、若干固い表情でフィアナに礼をする。


「ハル様、いえ、折角歳も近いことですし、ハルとお呼びしてもいいですか?私の事はフィアナとお呼び下さい、皆さんそう呼んでいただいていますので」


フィアナはそんなハルの気配を感じて、少しでも気分をほぐそうと気さくに話かける。


「あ、私の方は構いません。年下でもありますし。ただ私の方は呼び捨てにするのは少しばかり、畏れ多いので、フィアナお姉様とお呼びしてもいいでしょうか?シン様に言われた通り、同じ銀色の髪なので何となくその方がしっくりきますので」


ハルからそんな提案を貰うと、フィアナは嬉しそうに了承する。


「フフフッ、同じ銀色の髪なのですね。私、お母様以外で同じ銀色の髪の方にお会いするのは初めてかもしれません。勿論、お姉様と呼んでいただいて構いません。本当の妹が出来たみたいで、嬉しいです」


「はい、私も末の娘ですが、姉はいないので、そう言わせていただいて、嬉しいです。よろしくお願いします、フィアナお姉様」


そう言って、ハルも嬉しそうな笑顔を向ける。シンはそんな二人の様子を見ながら、本当に姉妹と言ってもわからないなぁ、などと考えていたりする。暫くして、シンはフィアナに話かける。


「フィー、そう言えば師匠は今どこにいる?」


フィアナは何やら可笑しそうに笑いながら、意味深な事を言う。


「フフフッ、お爺様なら今、応接にいますわ。見たらきっとびっくりすると思いますけど」


シンは何の事か分からなかったが、こうやってフィアナが何か企んでいる時は、素直に思惑に乗る事にしている。聞いても教えてくれないだろうし、いたずらにしてもそう変な事をしないのはわかっているからだ。


「うん?応接にいるんだな。ならハル、申し訳ないけど、ついてきてくれるかな」


「はい、わかりました」


シンはフィアナとハルを伴って、応接までくるとそのドアを開ける。


「じいじ、すごーい、がんばれー」


そこには満面の笑みを浮かべたニナを背に四つん這いの馬になったダンの姿があった。


シンはただ、唖然とする。フィアナはその驚くシンを見て、可笑しそうに笑う。ハルはそんな二人の後ろで、その老人が流石にガリアの領主だとは思わず、どんな方がガリアの領主なのかと思いを馳せるのであった。

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