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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第7章 選定公の血筋
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第64話 ニナのかぞく

この章は北方が舞台です。

アーガス帝国皇帝エナリス三世は、部下の報告を聞いて関心を示す。


「その方の話では、今ちまたを騒がしているシン・アルナスは偽物、場合によっては人ですらないかも知れないと申すのだな」


ここは旧メルストレイル公国の王城内にある王の執務室である。エナリスはそこを自身の仕事場として利用していた。そしてその執務室には3名の配下がいる。一人はアーネスト・カイゼル伯爵。アーネストはエナリスが第一皇子に反旗を翻した際にいち早く呼応した貴族である。今は帝国軍の将軍位に付いている。もう一人はその部下であるというエリクという魔法師。そして皇帝の護衛としてシムカという暗殺者が部屋の入口付近に控えている。


「御意にございます。陛下。部下のエリクが申すには、かのシン・アルナスには外部からの魔力の干渉が確認できるという事です。しかもその魔力は糸状のようなもので繋がっていて、その発生源こそ掴めませんでしたが、恐らくその先には操っているものがいるとの事です」


アーネストはエリクが発見したその痕跡こそがその理由だという。エナリスはアーネストの後ろに控える優男の魔法師に睨みを効かせて、質問する。


「エリクといったか、そなたは魔力を感知できるのか?」


「残念ながら感知までは至りません。私は精神支配系の魔法を得意としておりますので、試しにそのシン・アルナスに精神支配をこころ見たところ、干渉を既に受けている感覚を得ましたので、それで推測をしております」


エリクという男は、皇帝であるエナリスの前でも飄々とした態度を崩さずに、淡々と返答する。エナリスは精神支配という言葉に興味を覚えて、質問を続ける。


「ほう、精神支配か。なら干渉を受けているというのもわかるかもしれんな。ちなみにその精神支配、どの位の数ならば可能だ」


「人であれば数十名は問題ありません。ただし魔力による障害がある場合は、効きませんが。後ろにいらっしゃるような手練れの方には中々精神魔法は効きにくいかと思います」


エリクがそう言うと、エリクの背後にいたシムカの殺気が増す。


「ちょっ、殺気は抑えて下さい。私は小心ものなんですから」


エリクはそう言って、慌て出す。エナリスはそれを見た後、アーネストに言う。


「アーネスト、中々に面白い男を部下にしているようじゃないか。此度のそなたの進言を聞き入れよう。次にシン・アルナスが現れた際にはそなたの方で。その発信源とやらを抑えろ」


「ハハッ、御意にございます」


アーネストはそう言うとエリクを伴って執務室より退出する。二人が出て行った後で、エナリスはシムカに質問する。


「シムカ、今の話どう思う」


「可能性は高いでしょう。どうやら報告内容ではシン・アルナスには矢や刀などの攻撃は通じないとの事。実際にあたったとしても血一つ流さないとか。であれば、傀儡である可能性は充分にあると思います」


エナリスはそこでニヤリと笑い、シムカに命じる。


「ならば、シムカ、アーネスト達に協力してこい。そして操っているものを見つけたら、確実に殺せ。ここさえ片付けば、次はカストレイアを攻める。金が動き出したなら急がねばならん」


「賜りました」


シムカもまたそう言うと、その場を離れる。一人になったエナリスは、忌々しく窓の外を見やった後、何かに耐えるようにギュっと目を閉じた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


シンはヤンセンの町を出てから2ヶ月と比較的時間をかけて魔の森を踏破して、シンの故郷であるアルナスの隠れ里付近まで来ていた。当初はもう少し早く着くかとも思っていたが、森よりも森を抜けてからが大変で、どうしても二人を抱えて移動できる場所は限られていて、人目が付くところは歩かないといけない為、時間がかかったのだ。その反面、歩きの旅はのんびりしたもので、シンも二人に無理は当然させなかったので、フィアナもニナも楽しそうに歩いていた。


「フィアナもニナも、まだ歩いていて大丈夫か?」


「ええ、まだまだ平気よ」


「うん、へいきー」


ニナはフィアナの言葉を繰り返して元気に返事をする。シンはそれを聞いてにっこりすると、フィアナに話かける。


「どうだい、人の気配の方は?」


するとフィアナは笑顔になって、シンに忠告をする。


「フフフッ、シン、身構えた方がいいよ」


「ん?どういう事?」


すると聞きなれた声でシンを呼ぶ声が聞こえる。


「シーンっ」


アカネが気が付けばかなりの勢いでシンに飛んで抱きついてくる。


「うぁあっ」


シンは慌ててアカネを抱き留めると、アカネは嬉しそうに話かけてくる。


「シン、お帰りなさい。思ったより早かったね」


「おいアカネ、いきなり飛びついて来るな。びっくりするだろう」


「いいじゃない、どうせシンなら受け止められるだろうしって、この子誰?」


アカネはそこでフィアナと手を繋いでいる小さな女の子に気付く。ニナもびっくりしたようで、フィアナにしがみ付く。


「アカネさん、こんにちは。ほら、ニナも挨拶しなさい。こちらはアカネさんと言ってシンの従姉よ」


「いとこ?」


「ああ、ごめんなさい。従姉は難しかったかしら。うーん、お姉ちゃんよ」


「おねえちゃん?」


「そう、おねえちゃん」


フィアナは殊更おねえちゃんを強調する。アカネはおねえちゃんと強調される度に軽くダメージを受ける。


「ちょっ、ちょっと、それでその子はどうしたの?」


「シンの隠し子です」


アカネは唖然とした表情で、シンを見る。シンはまたこのくだりかと、溜息をつきたくなるのを堪え、フィアナを窘める。


「フィー、アカネをからかうのはその辺にしてくれ」


「フフフッ、嘘ですわ。彼女の名前はニナ。シンが魔物から助けてあげた女の子です。身寄りがなかったので、シンと私で家族になってあげたんです」


アカネはその場でへたり込むと、じと目でフィアナを睨む。


「フィアナ―っ。もう、本当にびっくりしたじゃない」


「いえ、それはおあいこです。ニナもアカネさんが飛びついてきてびっくりしたので、少しばかり意地悪をしました」


フィアナはすました顔でそう言って、ニナに微笑みかける。アカネもそれに対してはバツの悪そうな顔をして、ニナの頭を優しく撫でると、素直にニナに謝る。


「ごめんなさい、ニナ。びっくりさせた事を謝るわ。私の名前はアカネ。シンの従姉で家族よ。よろしくね」


「シンおにいちゃんののかぞく?ならニナのかぞく?」


「ふぇ、ああ、そうね。シンがニナの事を家族って言っているなら、私とも家族よ」


「ふふふっ、あかねおねえちゃん。しんおにいちゃんにふぃーおねえちゃんにあかねおねえちゃん。ニナのかぞくがどんどんふえる」


そう言ってニナは嬉しそうに微笑む。するとシンがニナに言う。


「ニナ、この後ガース叔父さんやダンおじいちゃんにも会えるからもっと家族が増えるぞ」


「うわあ、ニナのかぞくいっぱいだあ」


シンは喜ぶニナを抱き上げて、アスナスの隠れ里に向うのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


シン達はその日一日、アルナスの隠れ里で休んだ後、預けていた軍馬にフィアナとニナをのせてガリアへと向かう。ニナはガースにもアカネにもすっかり慣れて、また遊びに来ることを約束していた。シンもアルナスには度々立ち寄るだろうからと、同意している。そして森を抜けて平野部に差し掛かったところで、シンも馬に跨り、移動速度を上げる。ニナは最初こそ馬を怖がる仕草をしていたが、今はすっかり慣れて、よく馬の世話をしていた。シンはその様子をのんびりと眺めながら、フィアナに話かける。


「この分だとあと二、三日もすれば、ガリアへ着くな。そうしたら、一度、マイセンに行きたいんだけどフィアナはニナとガリアで待っててくれるか?」


「あら、マイセンには確かシンの魔術操作の先生がいるのでしょう?できれば私もお会いしたかったのだけど」


「うーん、そうしたいのはやまやまなんだけど、この間ガース叔父さんから聞いた話では、マイセンに今、皇帝がいるらしい」


「アーガス帝国の皇帝ですか?」


シンは少しだけ難しい顔をして、首を縦に振る。そう、今マイセンにはアーガス帝国皇帝エナリス三世が滞在している。目的は当然シン・アルナスの討伐。ガースの話によると皇帝はメルストレイル公国の公王の資格のある人物に執拗な執着を見せているという。勿論シン自身も対象となるのだが、ダンやガース、アカネなどもその粛清対象となる。他の選定公家に関しても、生き残りが発覚すれば、粛清対象になる為、今はひっそりと潜んでいるのが実態なのだ。今マイセンにいるキリクも前領主の弟であり、当然粛清の対象となる。なぜそこまで執拗にというのはわからないが、厄介な話である。


シンはキリクの事が心配であり、その為マイセンに訪れるつもりだった。ただ、今回は皇帝も本腰を入れているという事もあり、危険度は更に上がる。だからこそ、フィアナとニナにはガリアで待ってもらいたいのだ。


「ああ、だから正直二人をマイセンに連れて行くのは厳しい。今回最悪はキリク叔父さんを背負って帰ってこなければいけなくなるからね。だから、待っててくれるかな」


フィアナも話の内容は理解したのだろう。直ぐに笑顔になると、シンの提案に同意する。


「今回はしょうがないですね。ニナと仲良くお留守番をします。その代りキリク叔父様の安全はお約束してくださいね」


「ありがとう、それこそ無理やりにでも連れてくるから安心していいよ」


シンはそう言って、フィアナに約束した。


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