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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第6章 魔の森の陰謀
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第62話 セシルへのプレゼント

そろそろこの章も終了です。次は北の予定なので、セシルにはサービスです。

結局シン達はその後の事後処理まで、セシル達に付き合うことになる。捕えた副官のベルナスを締め上げて聞き出した、拠点を解体し、ヤンセンの町近くの魔物を近衛と共に掃討。そしてヤンセンの町の解放とヤンセンの町での勝利式典など、気が付けば1ヶ月の時間が過ぎていた。シンとしては、早々に北方諸国へと戻りたかったのだが、救国の英雄と祭り上げられている為、そう簡単に去るわけにもいかず、結局は、セシル達がヤンセンに滞在するまでは、という約束でその場に残る事になる。


「しかし、あのベルナスなる副官。存外何も知らないようで、正直役に立ちませんでしたな」


「ええ。ただ帝国の宮廷魔法師が魔の森の奥地に籠って、何やら怪しげな研究をしているのは気になります。北方にも古い文献は数多くありますので、一度そのあたりは調べてみます」


今こうしてシンと話をしているのは、ここヤンセンの領主であり、軍の重鎮でもあるリザラス家当主バスク公である。その隣にはバスクの二男で今軍に在籍し、将校となっているハロルドが同席している。ハロルドはシンの1つ上で、先の王女拉致事件で投獄されているルイーズの腹違いの弟である。ハロルドはその出自から、貴族としての立身出世にはあまり興味がなく、軍の中で己の力のみで一兵卒から将校まで成り上がった人物である。


「シン殿は英雄ですから、できれば我が国に残っていただきたいものですが」


ハロルドは本当に残念そうにそう言う。それに対してシンは苦笑をして、答える。


「そもそもその英雄というのが、むず痒いと言いますか。まあそれとは別に北方諸国の出として、現状は何とかしないといけません。ですので、今はここに留まる事はできません」


「まあ、彼は鬼人の息子だ。為すべきこともあろう。ハロルド、我が国の事はまず、我が国の人間が何とかするべきじゃ。ああ、シン殿が、女王陛下の夫とでもなってくれるのであれば、大いに役立っていただきたいものだが」


そう言ってバスク公は息子たちに茶目っ気のある表情を見せる。


「バスク閣下、勘弁してください。それこそ北方に戻れなくなります」


「ハッハッハッ、父上もお人が悪い。シン殿も困ってしまいますよ。それに、我が軍でも女王陛下の人気は絶大です。それを英雄殿に攫われたとなれば、暴動が起きかねません。今しばらくは女王陛下にもご自重いただかないと」


ハロルドは困るシンを見て、朗らかに答える。シンとしては、セシルの事はともかく、まずは北方をどうにかしないと、先には進めないと改めて思うのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「まあ、予想通りの結果でしたね。ああ、ヒュドラが一刀両断にされたことは予想外でしたが。お蔭で王国の被害が存外少なくて、その結果は残念ですね。


アロイスは、オルグ達の監視役をさせていたシムカの報告を聞いて、溜息をつく。彼らが独断で行動する事はある意味予想通り。本来であれば、折りを見てシムカに『支配の錫杖』を回収させるつもりでいたが、ヒュドラが呆気なく倒された事で、戦線が瓦解した為、それも敵わなかった。ただその事自体には落胆はしていない。元々皇帝やアロイスにとって、錫杖はそれほど重要なアイテムではない。帝国が特に欲しているのは『ヤタノカガミ』のみである。あらゆるものを封印する魔道具。膨大な魔力を必要とする為、過去に使用された例は1度しかないという。求めるのはただそれだけなのだ。


「それにしても、そのヒュドラを倒したという剣士は、どのような人物なのです」


「はい、黒髪に黒い瞳でどちらかというと細身の剣士です。その風貌通り卓越した速度を誇り、膨大な魔力を有していると思われます」


「なるほど、北方諸国出身なのでしょうかね」


黒髪、黒い瞳とあれば、北方諸国によくある風貌である。移民の子かもしれないが、ゆかりはあるのだろう。


「おそらくは。何とも底の見えない人物でした。私が対しても恐らくは勝てないでしょう」


「ほう、帝国随一の暗殺者であるシムカでも勝てませんか。それは化け物ですね」


シムカは帝国随一を誇る暗殺者である。これまでも現皇帝を即位させる為、反対派閥の人間を数多く殺してきた。そのシムカをして殺せない相手など、正直、相手にしたくない。シムカは無表情でその感想を聞いた後、今後について質問をする。


「それで今度は何をすればいいでしょう?」


「あなたにはメルストレイル公国のマイセンに赴いていただきます。取りあえずは今回のご報告をかねてとなりますが、恐らくそこで、一人の人物の暗殺を命令されると思います」


「お相手は?」


「シン・アルナス。どうやら出奔していたその人物が、マイセンで大暴れをしているようで、その暗殺になります」


「承知しました。ではこれより急ぎ皇帝陛下にお目通りをお願いしましょう。他に陛下へお伝えする事はございますか?」


そこでアフロスは思案する。現在ここでの研究はまだ結果が出ていない。なので特段急ぎで報告すべき事はないのだ。ああ、ただ面白い挙動は確認できた。


「では陛下には『金が目覚めるかもしれない』とだけ伝えて下さい。それで陛下ならわかるはずです」


「賜りました」


陛下は恐らく興味をもたれるだろう。それと共に欲せられるかもしれない。マイセンの事が片付けば、行動を起こされるだろう。ならば、私もそれまでに成果を出さなければ。アロイスはそその後、思考の渦に自分の意識を向けるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


シンは町娘の装いのセシルと二人、ヤンセンの町を歩いていた。シンにしてみれば懐かしい街並みである。いつだったかセシルと町を歩く約束をしていたのと、プレゼントを渡す事が目的である。シンは予め依頼をしていたものが今日出来上がると聞いて、セシルを誘ったのだ。セシルは勝利式典も終わった事で、もう二、三日もすれば、王宮へ戻る。シンはその前にプレゼントを渡せる事になって、少し安堵していた。


「それで、シン様、私達は今どこへ向かっているのですか?」


「セシル、シン様は止めてくれ。その恰好で冒険者風貌の俺に様付けは可笑しいよ」


セシルはそう言われて、シンへの呼び方を考える。フィアナはシンとそのまま言う。アイシャとナタリアは先生付け。そう言えば、以前あったメルは君付けだったような。


「では、私もフィアナと同じで、シンでもいいですか?」


セシルは何となく気恥ずかしくて顔を赤らめながら、シンと呼ぶという。


「うん、それで構わないよ。それと行く場所は魔道具屋さ。この間手に入れたヒュドラの魔石を使って、身に付けるものを作って貰ったんだ」


シンはセシルに呼び捨てされる事に余り違和感がないのか、気にする素振りを見せずに、目的を説明する。


「身に付けるものですか?」


「ああ、魔石の色が黄色で少し派手だったから、今回は指輪を作って貰ったんだ。それなら余り目立たずに付けていられるだろう?」


「指輪!?」


セシルは思わず嬉しくなって声を上げる。確かに指輪であれば、普段から付けていられる。ただそれ以上に指輪には結婚を約束するといった思いが込められる事があるという。


「今回の指輪はセシルに対するお守りだと思ってくれ。フィーにも同じような意味でペンダントをプレゼントしているけど、俺の魔力を魔石に込めるから、それなりに効果はあると思う」


どうやら結婚を約束するような意味はないらしい。セシルはガックリと肩を落とす。シンはそれを見て指輪は駄目なのかと思い、違うものも提案しようとする。


「指輪じゃ駄目なのかな?それならフィーと同じペンダントにするかい?魔石の色が黄色なので、服とかに合わせるのに苦労しそうだから、指輪の方がいいかと思っていたんだけど」


「いえっ、指輪で問題ありません、むしろ指輪がいいです」


セシルは慌てて、シンの言葉を否定して、指輪がいいと主張する。シンはホッとした表情をすると、セシルに微笑みかける。


「良かった。指輪以外のものにしたら今日渡せないところだった。店はもうすぐだから、行こう」


シンはそう言うと、珍しく自らセシルの手を取って歩きはじめる。セシルはそれだけで嬉しくなって幸せそうな笑みを浮かべる。


程なくして二人はお目当ての店に到着すると、シンは店の店主に話かける。


「ヘンリクさん、頼んでいたものはできたかい?」


「おう、シン。出来とるよ。後はサイズを合わせて問題なければ、納品だ。それにしてもあんなにデカい魔石を貰っちゃって良かったのかい?」


実はヘンリクの指輪を作ってもらうにあたり、指輪部分に使う魔石以外はすべてヘンリクにあげたのだ。シンが持っていても余り意味がない。活かせる人に上げるのが一番だ。


「ああ、問題ない。それと彼女が指輪の使用者だ。彼女の指に合うようにしてくれるかい」


シンはそう言ってセシルを前に立たせると、ヘンリクはびっくりしたような表情をする。


「シン、こりゃあ、またえらい美人だな。お前の連れか?」


シンは苦笑して、曖昧な回答をする。


「まあ大切な人だけど、それ以上はノーコメントで。何とも説明しづらい」


セシルは、いっそのこと連れと言ってくれればいいのにと思うが、大切な人とも言ってくれたので、その場はそれでよしとする。


「まあ、あんまり詮索してもあれか。じゃあ、お嬢ちゃん、指輪をはめる方の手を貸してくれ」


するとセシルは迷わず左手を差し出す。ヘンリクはニヤリと笑みをこぼすが、何も言わずにその手を取る。


「指はどの指がいい?」


「薬指でお願いします、あっ、いやその深い意味は無いんですよ」


ヘンリクはそこで可笑しそうに笑い、セシルに同意する。


「ああ、わかっとる、わかっとるよ。わかっとらんのはシン位のもんだ」


そう言って作った指輪をその薬指にはめてみる。サイズはぴったりだった。セシルもサイズが合った事に安堵しつつ、その指輪を見て思わず声が出る。


「ああ、凄い素敵」


リング部分には細かな花をイメージするような意匠がほどこされており、その花の中央部分に魔石が埋め込まれている。魔石は深い黄色をしており、実際の花を思わせる。


「気に入って貰って、儂も作ったかいがあったよ。じゃあ一度外してくれんか」


セシルはそう言われて指輪を外してヘンリクに渡すと、ヘンリクはその指輪をそのままシンに渡す。


「シンは何をするの?」


指輪を手に持つシンに対して、セシルが質問をすると、シンは笑顔で答える。


「これからこの魔石に俺の魔力を注ぎ込む。それでこの指輪は完成だ」


シンはそのまま魔力操作をして自分の魔力を指輪に注ぎ込む。魔石は上質であればあるほど、その魔力を溜める事が出来る。実際ヒュドラの魔石は中心の濃い部分を使用しているので、フィーの魔石と同等量の魔力を注ぎ込む事が出来た。魔石は魔力が溜まるほどにその輝きを増し、気が付けば、指輪の魔石は黄色ではなく金色のような輝きを放っていた。


「うわあ、さっきよりすごく、綺麗になった」


思わず感嘆の声を上げるセシル。ヘンリクはそんなセシルを見て、シンに言う。


「おいシン、早速じゃが、お嬢ちゃんにその指輪を付けてやれ。わしもそのお嬢ちゃんが指輪をしているところを見てみたい」


シンはそのままセシルの前に立つと、左手を手に取って、薬指に指輪をはめてあげる。セシルはドキドキするやら、嬉しいやらで顔を真っ赤にさせる。ヘンリクはそのセシルの表情を見て、してやったりの表情を浮かべ、満足そうにうなずいた。


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