閑話 三人集まると止まらない
「セシル、あなた最近太ったでしょ」
アイシャから放たれる何気ない一言がその場の空気を凍らせる。
「なっ何、突然?」
セシルが精一杯動揺をしていないように装いながら、そう答えると、今度はセシルの頬周りをぷにぷにと摘みながら、アイシャが何気ない一言を告げる。
「だから何となくこの辺がふっくらしてきた気がするのよね。あら、気持ちいい」
パシッ
セシルはぷにぷにするアイシャの手をはたき落とす。
「ちょっと待ちなさい、アイシャ。あなた無造作に女王の頬を触りすぎじゃないの?」
アイシャははたかれた手をさすりながら、まるで気にしてないように言う。
「仕方がないじゃない、ぷにぷにして気持ちいいのよ。そのほっぺ」
すると、ナタリアまでもが、その頬をぷにぷにしようと手を伸ばす。
パシッ
「ナタリア、その手は何かしら。なぜそんなに嬉しそうにぷにぷにしようとしているのかしら?一応、私あなたの上司なのだけど」
「恐れながら女王陛下。陛下の健康管理も近衛の仕事の一つ。仮に太られて、健康に害を為すことがあるようであれば、それは近衛の失態にございます。然れば、失礼をして」
そう言って再び手を伸ばそうとする。
パシッ
「だから女王の頬を無造作につまもうとするのはどうなのかしら?」
「ふーっ、それでセシル。どうなの太ったの?」
アイシャが今度は少しきつめに問い詰める。セシルは口を少しだけ尖らせて身の潔白を訴える。
「別に太ってないもん。別に甘いものばかり食べてなんていないもん。そんなに。別にウエストだって苦しくないもん。そんなに」
すると今度は、その二の腕をぷにぷにと抓む。
「ふーん、これで?随分とぷにぷにして気持ちいいのだけど」
「それはそんなとこ触ってしまったら、誰だって気持ちいいわ。ねえ、ナタリア?」
「いえ、私は近衛として鍛えてますので、そこまでやわらかくはないのですが」
「なっ」
セシルはすかさずナタリアの二の腕を触ると、やわらかくないわけではないが、自分のと比べると引き締まっている。
「そっ、そうよ。成長期よ。私、胸だって大きくなっているんだから、太ったのではなく、成長したのよ」
セシルはそう言って背筋を伸ばし、胸を張る。セシルは以外にグラマラスである。線の細いイメージがあるが、意外に出るとことはでている。しかし、世の中には上には上がいる。アイシャが、目の前で腕を組み、その高い頂の間にある深い谷間を見せつける。
「ああ、そう言われてみれば、大きくなっていますわね。まあ多少はですが」
アイシャはそう言って、その高い頂を見せつけると、勝者の笑みを浮かべる。
「くっ、いくら大きくても、垂れたら意味がないんだから」
「あら、私は張りも一級品ですわ。殿方の視線もそれはもううっとうしいくらいですもの」
確かに、アイシャはそのスタイルだけで言えば、この三人の中では、一番かもしれない。決してセシルのスタイルが悪いわけではない。むしろ、アイシャが爆乳と称えられるなら、セシルは確実に美乳と称される綺麗なフォルムをしている。そこで、一人、自分の胸をさすり、凹凸の無さに絶望しているナタリアがいた。
「ええ、所詮私は、女性としての魅力のかけらも持ち合わせていません。ええ、ただ一人、剣の道に生きるのみです」
ぶつぶつというナタリアに対し、セシルは慌ててフォローを入れる。
「そんな事ないわ、ナタリア。あなたはその鍛え抜かれた健康美こそ、最大の魅力よ。しかも、その初心さ。いつも毅然としているあなたが、シン様の前でアタフタしている様が、むしろかわいいと各方面で絶賛されているわよ」
「なっ、私がいつアタフタなど。それならばむしろ、セシルこそ、それまで高嶺の花と呼ばれて、指一本触らせないような高潔なイメージが一遍、シン先生と出会ってからは、それはもう町娘のように甲斐甲斐しくと各所で噂になっておりますよ」
「くっ、何処の誰がそんな噂をっ」
セシルとナタリアの応酬にアイシャは呆れ顔になりながら、仲裁に入る。
「ほらほら、二人とも傷つけあっても何も生まれませんわ」
しかし今度はそのアイシャに砲撃が繰り広げられる。
「あら、アイシャったら、そんな余裕ぶった事言って。シン様に抱き上げられて、有頂天になって、もう純潔をささげるのはシン様しかいないとまで、言ってたくせに」
「ああ、私も似たような事を聞きました。なんでも、初めて抱かれたのだから、責任を取って貰わなくてはとかなんとか」
「あっ、あなたたちーっ」
アイシャが顔を真っ赤にして、珍しく恥ずかしがる。その後も三人はそれぞれの逸話を暴露し合って、数刻が過ぎる。
「「「ハァ、ハァ、ハァ」」」
「結局、事の発端はなんだったのかしら」
「セシルが、太ったという話ですわ」
「しかし、それがなぜ、このような言い合いに…。しかも出てくる男性がシン先生だけとは…」
三人は当人がいないところで、そのような言い合いにむなしさを覚えて、今後、当人のいない場ではこのような言い合いは止めようと心に誓い合うのだった。




