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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第6章 魔の森の陰謀
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第59話 ヒュドラ

そろそろ登場人物紹介とか、地名紹介とか作らないといけない気がして来ました。

シンとナタリアは、ナタリアがフィアナを抱っこする形で森の中を走っていた。


「シン前方右に魔物の群れ。それ程強くない」


「了解」


シンはフィアナの指示に従って、右手に現れたゴブリンを駆逐していく。


『速い!』


ナタリアはシンのその動きの速さに舌を巻く。シンのその動きには、無駄が無い。その速さに振り回される事も無く、剣を一回振るう毎に、敵一体が確実に倒されていく。それにあの剣、シンの家の家宝と言っていたクサナギというその剣は、まるで柔らかいゼリーを切るように、スパッと魔物を両断していく。


「はぁ、あれではあまり参考にはなりませんね。あの動きができるようになるまでに、私はおばあさんになってしまいます」


「そうですか?ナタリアも十分シンの動きについてこれてると思いますけど」


ナタリアのこぼした言葉をフィアナが拾って、率直な感想を言う。


「私はついて行くだけで精一杯です。その上で十全に使いこなす事が出来なければ、意味は無いですから」


「まあ、シンは規格外ですから。本人にあまり自覚は無いようですが。シンの十分の一でも魔力を持って使いこなす方がいれば、その方も十分、英雄になれます」


「私はまだその域にも届かない。でも、そこなら届かない場所では無いですが」


「ほら、ナタリアも十分、英雄候補です」


フィアナはそう言うとクスクス笑う。ナタリアは、引き攣った笑いを浮かべると、そこに至ることを目指せるようになったのも、シンのおかげであると再び溜息を吐く。


「二人とも、この辺はもういいだろう。フィアナ、この後はどっちへ向かう?」


気がつけば、周辺の魔物を駆逐し終わったシンが、二人に話しかける。


「そうですね、もうこの辺は大丈夫でしょう。更に森の奥に向かって動きましょう。大分目的がはっきりしてきました」


「そうそう、感知能力が役に立つ他に、気になる事が有るって何なんだい?そろそろはっきりしてきて居るんだろ?」


シンはフィアナがついて来ている理由のボカされた方の内容が気になって、そう質問する。フィアナは、それに対して、簡単に説明する。


「ああ、森の中に人の気配が有るんです。それも結構な人数のいる人の気配が。 あとこっちはまだはっきりとはしていないのですが、もしかしたら、私達の探しているものの一つがあるかもしれません」


「それは本当かい?もしそうなら、師匠が喜ぶけど」


シンは思わず目を見張り、フィアナを見る。


「こちらはまだ分かりません。実際に使用されたら、より強い気配を感じれるのですが、今はまだ何とも」


「わかった。であれば、その人の気配が強いところへ急ごう。そこに行けば、色々はっきりするかもしれない」


「はい、私もそう思います」


フィアナがそう答えると話を聞いていたナタリアも同意する。そうしてシン達は、更に森の奥に向かって、走り始めた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


オルグとベルナスは今、魔物の中でも最強種のひとつと言われている一体の魔物の前にいる。その魔物は、ヒュドラ。多頭首にして身の丈5Mを超える巨体の魔物である。その一つ一つの首にはそれぞれ違う特殊能力があり、中央に位置する頭を倒さな限り、その頭は個々再生をする。まさに災害級の魔物である。本来、人の手により使役をする事は当然、不可能で一度暴れ出せば、その区画は灰塵と化すのは間違いない。


そのような魔物を前に、さしたる能力を持たない両名が、こうして居られるのは、一つの魔道具の為である。『支配の錫杖』。メルストレイル公国の選定公の一つ、技のニルスの秘宝である。この錫杖の効果は、名前の通り支配にある。この錫杖は相手を使い手の意思で支配する事が可能であり、その魔力が錫杖の持つ魔力以下の魔物であれば、その拘束を逃れる事が出来ない。


本来であれば、膨大な魔力が必要となるこの錫杖は、おいそれと使えるものではない。事実、メルストレイル公国の歴代公王や選定公の中に、これらの家宝を使いこなす人物は、初代公王以外存在しなかった。初代公王は、各選帝公が保持する5つの家宝を十全に使いこなす事が出来るほどの魔力を保持していたという。ただ、その子孫の代に至り、その1つすら十全に使いこなす人物は存在していない。なので、選定公にしてみれば、公王選定時に必要な儀礼用の宝具と捉えられていた。


これを実用段階にまでこぎつけたのが、アロイスである。アロイスが古代の禁忌とされる魔法を使い、人の魔力を蓄積する呪詛を用いて、魔力を溜める。これは、人に限らず魔物にも有効で、今、魔物の魔力をこの魔の森で無尽蔵に集積し、漸く、この錫杖を使うに至っている。


「さあ、醜き魔物ヒュドラよ。今、我の命に従い、起き上がれ。そしてカストレイア王国に向い、その地を蹂躙せよ」


錫杖を握る魔法師、ベルナスは目の前のヒュドラに対し、錫杖を振るう。本来、オルグ達の拠点のある地域にはいない、魔の森最奥となるエリアにしか生息しない化け物。これをアロイスが使役し、この地の切り札として用意していた。ただし、二人は知らないが、支配の錫杖をもってしても、このヒュドラの使役はぎりぎりである。なので、最終判断を皇帝にゆだね、実際の利用は最終手段、捨て身の利用用として考えられていた。


グォオゥッ


ヒュドラが支配の錫杖に抗おうと、咆哮を上げる。だが、ぎりぎりのところでその支配から、逃れる事が出来ない。


「フン、魔物風情が抗おうとは不遜な。錫杖よ、その支配を強めよ。そしてヒュドラよ。我が命に従え」


ベルナスはより錫杖の力を強め、錫杖はその輝きが一層増す。


グォオゥッ、グォオオオオゥッ


ヒュドラは最後の抵抗を試みるも敵わず、大きな雄叫びと共に、その意識を錫杖によって支配される。


「閣下、これにて使役は完了でございます。既に支配下にありますゴブリンやオーガ達魔物とこのヒュドラで恐らくは使役する魔物は上限となりますが、この後はいかがいたしましょう?」


ベルナスはそう言って、上司であるオルグの指示を待つ。オルグは考える間もなく、そのまま全軍を持ってカストレイア王国侵攻を伝える。


「戦力としては充分じゃろう。ヤンセンにおもむき、一気に攻め落とすぞ。まさに魔物の軍を率いるなど、魔王の如き所業じゃな」


「ならば、魔王は閣下にございますな。差し詰め我々は魔王軍という事になりますか」


オルグの調子にのった発言に、ベルナスは真面目な表情で答える。オルグはその回答に満足したのか、自らの剣を引き抜き悦に入って宣言する。


「良かろう、我々は帝国軍を脱して、これより魔王軍となろう。この災害級の魔物を国の守護神とし、手始めにカストレイアを落とすのじゃ。かの国の女王は美姫と聞く。ならば、我が元にかしずかせて、魔王の妻としてやろう」


「御意にございます」


ベルナスはそう言うオルグに恭しく礼をとった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


実はシン達は既にオルグ達のいる拠点を視界に収めていた。拠点の中には一般の兵もいて、その中を亜人系の魔物も闊歩している。その光景はかなり異様で、シンはここが問題の場所だと確信をしていた。更に、拠点の奥にある大きなテントの中に、二人の身なりのしっかりした人物たちが入ったかと思うと、特殊な魔力の流れが発生し、その二人と共に巨大な魔物が一体現れる。


「あの魔物はいったい?それにあの人間達は何故襲われない?」


シンは視覚の強化で、その場を眺めている。隣にいるナタリアも同様にその場を眺めて、その魔物を見て唖然とする。


「シン先生、あの魔物はヒュドラです。多頭首にあの巨体。古い文献によれば、あの首はいくら切っても再生するらしく、それぞれの首がそれぞれ、特殊な能力を持っていて、まさに災害級と言われる魔物です。あんなものがなんで、こんな所に」


「首を切っても再生?なんだかえらいやっかいそうな魔物だな。フィーにはどう感じる?」


「すごく怒っていますね。憎悪が募っています。何やら特殊な魔力で押さえつけられているせいか、おとなしく従っているようですが。ただその魔力の効力もぎりぎりのようで、いつ振り切られるか分からない状況です」


「どうやら、その特殊な魔力の出元が、秘宝のようだね。実際に使用されたことが無いからその効果が分からないけど、そんな名前の家宝が今回の捜索対象にあったよ」


「『支配の錫杖』ですね」


シンとフィアナはそう言うとお互いの目を合わせて、頷きあう。ナタリアはシンの旅の事情を聞いていたので、その事だろうとあたりをつけるて、質問する。


「でもどうやってその秘宝とやらを使っているのでしょう?確か、過去に使われた例などないのでしょう?」


「そうだね。どちらかと言うとそっちが気になるかな。もう一つの秘宝「ヤタノカガミ」も利用する事が可能という事になる」


シンはそう言うと、少し思案顔になる。するとフィアナが声を上げる。


「シン、考えている暇は余りないみたい。あの一団が移動を開始する。この後どうするか、考えないと。恐らく向かう先はヤンセン。このまま放置していたら、ヤンセンどころか、カストレイア王国が無くなってしまう」


敵の一団は魔物を含めて、千体程度といったところ。人の兵士もいる。加えてあのヒュドラだ。そして鍵となるのは『支配の錫杖』。この支配の錫杖の正確な効果はわからないが、魔物を使役する事が出来るものだろうとあたりをつけると、それをどうにかする必要も出てくる。


「ここは一旦、引くべきだろう。敵の動きが分かった以上、迎え打つしかない」


「わかった、急いで戻ろう。それから、お姉様とも相談して、対策を練らないと。余り時間は無い」


フィアナがそう言うと、シンとナタリアは真剣な面持ちで頷いた。


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