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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第6章 魔の森の陰謀
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第56話 宝刀クサナギ

10名の近衛隊のメンバーが魔の森の探索に動いていた。近衛隊のメンバーのこの探索での活動日数は約2日。それ以上は魔素に中てられる可能性がある為、1日で移動できる最奥までを目指して動いている。ただし、現在はヤンセン付近の魔の森には魔物があふれており、近衛隊たちの足取りは決して早くない。


「でいやーっ」


ナタリアが気合の入った声で、ゴブリンを切り捨てる。ここに至るまでに既に何体の魔物を屠っただろう。この充満する魔素の中、全身に魔力も満たしながら、現れる魔物を切り捨てていく。しかもそれほど奥までまだ進めているわけではない。ナタリアは焦る気持ちを抑えつつ、他の仲間たちと共に魔物を処理していく。そして漸く一段落がついたところで、休む間もなく更に歩を進める。


『これは思ったより骨かもしれない』


ナタリアは、先の会議で決まった森への探索に志願して、今回参加をしている。本来はセシルの護衛でそのそばを離れる事は無いのだが、今はそのそばにアイシャがいる。ナタリアはアイシャが来たことで、セシルの精神的な支えを任せ、自身は魔の森で問題の解決の糸口を探る事を選ぶ。


『これも友達の為。頑張ろう』


ナタリアが魔の森に志願した一番の理由である。このままで行けば、セシルの負担が減る事は無い。そう考えると早く解決する糸口を見つけなければいけない。幸い、シン先生の教えてくれた魔力操作でナタリアの魔力量は、衛隊の中でもトップクラスとなっており、この魔の森でも魔素に犯されることなく行動ができる。アイシャも来たことで、ナタリアは勇んで探索に加わったのだ。


「おい、ナタリア。体調は問題ないか?」


近衛隊の探索メンバーのリーダーが声をかけてくれる。ナタリア自身はまだ魔力量にも余裕がある為、二コリとした後、問題ない旨の返事を返す。


「ええ、魔力量にもまだまだ余裕がありますので、問題ありません。それよりも本当になんでこんなに魔物と遭遇するのか、やはり想像がつきません」


「可能性としては、何か扇動するようなものが無いかと考えている。人なのか、物なのかは分からんがな」


「厄介な事です。とはいえどちらにしろ只者ではないと思いますが」


「まあ、そうだな…っと、また魔物だ。殲滅するぞ」


そう言って、リーダーは魔物へ飛び込んでいく。他の隊員もそれに続いて、気合の声をあげながら、魔物に襲いかかる。ナタリアは殿となり、周囲の気配に注意しながら、そこに向って行こうとした時、すぐ右から木をなぎ倒しながら、トロールが姿を現す。


「トロールだ、トロールがでた。すぐに散開して的を絞らせるな」


ナタリアは声を張り上げながら、トロールを牽制する。身の丈3Mを超す巨体である。踏みつぶされたら一たまりもないが、その大きさ故に機敏さは無い。


「でいやっ」


その右足切り付けて態勢を崩そうとするが、その巨体故か、切り付けられたことを気にもせずに、逆に手に持つ棍棒を振るってくる。ナタリアはそれを大きく後ろに跳ぶことでやり過ごす。すると退治するトロールとは反対側から、新手のトロールが現れる。


「トロールが2体目っ?ちっ、やっかいな」


ナタリアは一体ならまだしも、2体目が現れたことで若干焦る。仲間を見ると、それぞれが魔物を複数体相手取っており、他に手を広げる余裕はなさそうだ。ナタリアは腹を括ると身体強化の度合いを強め、一気に最初に現れたトロールの懐に飛び込むとその右足を一刀両断にする。するとトロールは流石に片足を亡くしてバランスを崩し、仰向けに倒れる。すると今度は背後のトロールがその棍棒を振り下ろすが、ナタリアは辛うじて横っ飛びで躱すとナタリアの位置に振り下ろされた棍棒が、もう一体のトロールにぶちあたる。


「グオ―ォ」


棍棒を振り下ろされたトロールは絶叫と共に、肉片を飛び散らせ絶命する。


「味方ごとか!?いや、魔物に敵も味方もないのか」


そうして再び一対一としたナタリアの周囲で、更なる絶叫が上がる。


「うわぁっ、逃げろー。サイクロプスだ。ぐあっ」


トロールよりも更に大きい個体、サイクロプスが現れる。サイクロプスは現れるやいないやその右手を振り下ろし、近衛隊の一人をたたき潰す。


『速いっ!?』


トロールは捕まりさえしなければ、凌ぐ事が出来る。ただあの個体はトロールより巨体な割に機敏である。近衛隊のメンバーはあるものは吹き飛ばされ、またあるものは踏みつぶされ、一人また一人と倒されていく。周囲にいた魔物達も、潮が引くようにその姿をけし、現在残っているのは、近衛隊のみナタリアを含め5名程になってしまっていた。


「魔力を目一杯引き揚げろ、並みの力じゃ歯が立たないぞ」


何とか、魔力を引き上げ、サイクロプスに対抗していくが、切り付けるもその肌も鋼のように固く、中々攻撃も通らない。


「くっ、ここまでか」


ナタリアの前に絶望の二文字が鎌首をさげはじめた時、その森には異質すぎる集団が目の前に現れる。ちなみに集団と言ってもまだ若い女性と小さな女の子を抱えた一人の男性。


「ええっ?シン先生!?なんで、えっ?


シンはフィアナとニナを降ろして、サイクロプスの前に立ちはだかると、少しだけ後ろを向いて、ナタリアに答える。


「ナタリア、話は後で。取りあえずこいつを何とかするから」


そう言って、目の前の巨人サイクロプスに向けて小刀を構える。そしてその刀に魔力と注ぎ込むと、その刀身が少しづつ伸びていき、ロングソード並みの長さとなる。宝刀「クサナギ」。本来の出力の半分程度の魔力であるが、それでもシンの魔力の四分の一が持ってかれるが、その宝刀の輝きを見て、あのサイクロプスが後ずさる。


「残念ながら逃がさない。ここでお前は終わりだ」


シンは荒ぶるでなく、淡々とした口調でサイクロプスに言い放つと、一気に近づきその両足を一振りで横なぎする。するとその足が上下でずれ、サイクロプスの足から青い血が吹き出す。シンはそれをバックステップで躱すと、倒れ込んだサイクロプスの頭上へ跳躍し、その頭めがけてクサナギを突き刺す。


「ギャアアアッ」


サイクロプスの断末魔が響きわたると、程なくして、その生命活動を停止させる。


「シン、まだ周囲に魔物はたくさんいる。早めにここを離れないと」


フィアナがシンに声をかけ、早急な移動を促す。シンはその言葉に頷き、ナタリア達を見て、声をかける。


「今から、比較的魔物が少ないところまで移動します。味方で、生きている方がいれば、担ぐなりで連れてきてください。俺が先導しますので」


それまで呆けていた近衛の面々は、シンの言葉でハッと目を見開き、それぞれ動き出す。そんな中、ナタリアだけが、熱い視線でじっとシンを見ている。シンは少しだけ、バツが悪そうに、頭を掻きながら、ナタリアに声をかける。


「ナタリア、取りあえず詳しい話は後で。ここはまだ危険だ」


シンがそう言うと、ニコニコ顔のニナがトテトテと小走りでやってくる。


「しんおにいちゃーん」


ニナは近くまでくるとその両手を広げて、抱っこされる姿勢を取る。シンは笑顔になって、ニナを抱きかかえてあげる。ナタリアはそんな二人を見て改めて、口をあんぐりと開ける。


「フフフッ、ナタリアったら、まだ頭が追い付いていないみたいですね。そう言う時は考えても無駄です。何も言わずについてきなさい」


「フィ、フィアナ…殿下」


「はい、フィアナです。ほら、ナタリアも近衛の皆さんも、行きますよ」


フィアナはそう言うと、ニナ同様にシンに抱きかかえられ、シンは二人抱っこ状態となる。本当に魔の森ににつかわしくない集団である。ナタリアは流石に考える事を放棄して、大きく溜息をつくと他の近衛のメンバーと共に負傷者を支えながら、先を進むシンの後をついていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ここなら暫くは大丈夫そうです」


フィアナがそう言うとシンはフィアナとニナを降ろして、近衛隊のメンバーに話かける。


「とりあえず、ここなら暫く魔物との遭遇はなさそうです。今のうちに負傷者の方の治療をしましょう」


シンがそう言うと、背負われていた二人の負傷者が横並びに寝かされる。フィアナは治癒魔法が使えるので、その内の一人に治癒を施し、もう一人には隊員の一人が治癒魔法を施す。シンはその間に他のメンバーとの情報交換を始める。


「改めて、危機をお救いいただきありがとうございました。私は捜索隊のリーダーをしておりますラウロと申します。あなた様は女王の友人でいらっしゃる英雄シン様でよろしいかったでしょうか?それとあちらの方はもしや…」


「いや、ただのシンでいいですよ。元々はしがない冒険者ですから。それと彼女の事はここでは同じくただのフィアナでお願いします。色々とありますので」


「はっ、わかりました。ではシン殿、フィアナ殿と言わせていただきます」


シンはそこで笑顔を見せて右手を差し出す。


「初めまして、ラウロ殿。取りあえずよろしくお願いします。それで早速なんですが、聞きたい事が山程あるんですが」


「ハッハッハッ、それはお互い様ですよ。まあただそちらの事情は詳しくは詮索しない方がいいのでしょう」


「すいません、色々事情が入り組んでいますので。差支えない範囲ではお話しますが、一旦は他言無用でお願いします」


「心得ました。そのあたりは近衛の誇りにかけて誓いましょう。それで、シン殿は何処まで、事情をご存知か?」


「実は北方諸国からこの魔の森を通ってここまで来たもので、全くこちらの状況が分からないのです」


シンは申し訳なさそうにそう言って、ラウロに答える。ラウロは魔の森を通ってと言う部分に驚いたが、もはやシンに関して驚くのを諦めたのか、乾いた笑い声を上げた後、説明を始める。


「アハハッ、そうでしたか。さすがは英雄でいらっしゃる。実は一ヶ月程前よりヤンセンの町が魔物の群れに襲われています。最初はオーガの群れで100体程度の規模でしたが、その後、その周囲を増やし、ゴブリンやコボルド、トロールまで出て更にその数を増しています。女王陛下の裁断で、王国軍と近衛隊が合同で、討伐にあたったのですが、何分数が減るどころか、増える一方で何か森の状況に原因があるのではないかと、我々が探索隊の任にあたったのです」


「ヤンセンの町が魔物に襲われているのですか?町は大丈夫なのでしょうか?」


シンは目的地であり、知人も数多くいるヤンセンの町が襲われている事で、慌てて町の様子を聞く。


「ご安心下さい。町は無事です。元々軍事拠点という事もあり、守りも物資もそれなりの蓄えがあります。ただ、現状は城壁を頼りに閉じこもっている状態ですので、完全に孤立無援な状況です。我々は女王陛下指揮のもと、軍を出してそれを押し戻そうとしているのですが、何分減らない相手に苦戦している状況です」


「なるほど、それではセっ嫌、女王陛下も近くにいらっしゃる?」


シンは思わずセシルと名前を呼びそうになるのを堪え、質問をする。


「ええ、魔の森よりそう遠くない場所で陣営を張って、指揮をされております。ナタリアも女王陛下の護衛で随行していましたので、間違いありません」


そう言ってラウロはナタリアを見る。それまでじっと黙っていたナタリアも、首を縦に振り頷く。


「そうか、それなら一度、そこに向う方がいいか?ちなみに探索の方は、何か手がかりでも?」


シンがそう聞くとラウロは渋い顔で首を横に振る。


「いえまだ何も。なにぶん魔物が多すぎで、先に進めず、ここまでは収穫がありません。本当に力不足です」


そこでシンは思案する。フィアナとニナを先にセシルの陣営に届けるべきか、それともこのまま単独で森に籠って探索をしてみるかである。シン個人としては、このまま近衛の人達に預けて、森に入りたい気持ちもあるが、彼らも負傷者を抱えている。その回復具合にもよるが、その彼らにフィアナとニナを預けるのは心元ない。そんなふうに思いを巡らせていると、ナタリアがシンの迷いを察するように、言ってくる。


「シン先生、まずは女王陛下の元に行かれませんか?近衛のもの達とは別でシン先生と私が先に行けば、それほど時間がかからずに女王陛下の元に着くと思います。彼らも、注意して戻れば、戻る事はそう難しくないでしょう」


するとラウロも同意する。


「ナタリアの言うとおり、我々の事はお気になさらずに。森の外に近づけば近づくほど、サイクロプスのような高位種は現れません。であれば、我々も遅れはとりません。フィアナ殿の事もありますので、是非にそうして下され」


すると治癒を終えたフィアナがシンの横に座って、言う。


「幸い、治療を受けた方も、もう大丈夫です。ここは一旦女王陛下の元へ行きましょう。きっと、いろんな意味でびっくりしますよ」


フィアナがそう笑顔で言うと、シンも決心をする。


「わかりました。なら、ナタリア、申し訳ないけど、先導を頼む。ラウロさん、くれぐれも戻りは気を付けて」


「ええ、また後でお会いしましょう」


ラウロとシンは再び握手を交わすと、話が終わったのだと見計らって、ニナがシンの元まで来て抱っこをねだる。シンも笑顔でそれに答えて、ニナを抱っこしてあげる。


「シン先生、それでその子はシン先生の妹君なのでしょうか?」


ナタリアは表情で?マークをたくさん浮かべて、そう質問してくる。するとニナは嬉しそうにそれに答える。


「ニナは、ふぃーおねえちゃんとしんおにいちゃんのかぞくなの。ねー、しんおにいちゃん」


「そうだな、ニナ。家族が一番しっくりくるかもしれないな」


シンはニナの無邪気な発言に思わずほのぼのとした気持ちを抱きながら、そう答えると、ナタリアの?マークはますます頭の中で増えていくのだった。

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