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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第6章 魔の森の陰謀
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第55話 帝国の思惑

ヤンセンの町は既にオーガの大群の襲来から1ヶ月が過ぎようとしていた。ヤンセンの町は今完全に封鎖されており、王国軍の解放を只々待っている状態だった。オーガの群れは当初100体ほどの規模であったが、先遣隊だったのか、その後、他の種族であるゴブリンやオーク、トロルなど人型の魔物が中心となり、群れを成して押し寄せていた。王都から派遣された王国軍も、増えた敵に対して劣勢で、一時は解放目前となったヤンセンの町も再び、完全封鎖の状況となっている。物資こそ、元々軍事拠点でもあった事から、まだまだ余力はあるものの、今の課題は、この防衛の生命線である城壁及び城門で、上からの矢や魔法による攻撃により、一時的には凌げてはいるものの、トロルのような大型の魔物も来たことによって、その鉄壁さも揺らぎ始めている。


セシルは今、目の前に近衛騎士隊長のライアスとヤンセン領主で軍の将軍でもあるバルド公と共に、今後の対策を練っている。


「やはり森の様子を探るべきだと思います。現状の波状的な魔物の出現は、過去の例を照らし合わせても、若干異常かと思います」


「ただそうすると並みの兵士では勤まらん。森で行動するには、魔素もある。うちでは出せる兵は無いぞ」


「大人数をかける余力は私達にもありません。ただ、状況を探るという事であれば、大人数はかける必要はないかと。人は私どもで用意します。女王陛下、御裁可を願います」


ライアスとバルド公は、それぞれの立場でお互いの意見を言い合っている。確かに現状ではただの消耗戦で、特に人側の消耗が激しい。魔物は消耗しても気にする事なく、前に進むからだ。正直ジリ貧な状況なので、その選択を否定する理由はなかった。


「わかりました。許可します。必ずやと言いたいところだけど、どちらかと言うと何か見つかれば幸運と思うべきね。それと、ヤンセン解放への動きはどう?」


「そちらは芳しくありません。奴らはどんどん湧いてきます。一時的な突破は可能でしょうが、根本的な解決には至りません」


「今南方の諸国は落ち着いていますので、有事の可能性は低いですが、全くの備えなしとも行きません。帝国の動向も注視しなければいけませんし、出せる人員を最大限出している状況で、一進一退と言ったところです」


「ふぅ、そちらはまだまだかかりそうね。となると近衛の探索の成果を期待しなければいけない状況なのね。ライアス、無理は望みませんが、何とか活路をお願いします」


セシルはこの膠着した状況に一縷の望みを近衛のライアスに託し、一旦二人を下がらせる。すると侍女と共にナタリアが、女王の天幕の中に入ってくる。侍女はそのまま、お茶の用意を済ますとその場を立ち去り、天幕にはセシルとナタリアの二人きりとなる。ナタリアは疲れた表情を見せるセシルを気遣い、声をかける。


「セシル、大分お疲れのようです。少し、横になられては」


「フフッ、ありがとう。でも大丈夫。確かになれない天幕生活だから、少し疲れているかもしれないけど、どちらと言うと中々ヤンセンの町を救えない事がもどかしいだけだから」


セシルはそう言うと力なく笑う。こうして弱々しい姿を見せるはナタリアの前だけである。ひとたび外に出れば、明るい笑顔で周囲を励まし、時には冷静に、時には厳しくと王としての威厳を見せる。とは言え、まだ18歳の少女である。当然、弱さがあって当然なのだ。ナタリアは友人として傍にいて支える事が、自分の使命だと感じていた。


「そうですね。ヤンセンの町は余力はまだあるとは言え、城下の人々は苦労しているでしょう。こんな時にシン先生がいてくれたら、なんか知らぬ間に、問題を解決してくれそうですが」


「フフフッ、確かにシン様ならそうかも。いつも私が大変な時に助けてくれるから。今ももしかしたら近くに来ているかも、って駄目よ。ナタリア。現実逃避しちゃ。今、私達ができる事をしなきゃ」


「やはりシン先生の話は効果覿面ですね。セシルがあっと言う間に元気になってしまった。まあシン先生が近くにいる云々の妄想は女王陛下が勝手にふくらました事なので、弱気になっている証拠ですよ」


「もうっ、ナタリアのいじわる。たまには夢を見たっていいじゃない。…でも、ありがとう。本当に元気が出てきた」


セシルはそう言って彼女本来の輝くような、笑顔を見せる。


「いえ、どういたしまして。それと、話は別ですが、今度アイシャがこっちへ来るそうですよ」


「へ、そうなの?何か火急のようなのかしら」


「なんでも女王陛下に決済いただかなければいけない書類をまとめて持ってくるとの事です。なんでもすごい量だとか」


ナタリアがそう言うと、セシルは再び顔を青くし、


「ナタリア、具合が悪くなったから、今日は横になるわ」


そう言って、ベットに向って歩き出した。ナタリアは今回の顔色の悪さは、心配ないやつだなと思って声もかけずに見送った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


魔の森のかなり奥の地点に帝国はとある拠点を築いていた。


陣頭指揮を執るのは、帝国宮廷魔法師であるアロイス・ベルツ。帝国は現皇帝エリウス三世の御代となってから、魔の森に積極的に入るようになった。魔の森には魔素と言われる人に害を為す魔力が充満している。魔素は魔力であるという特性上、魔力を媒介にした魔道具や魔力を無効化する器具には効果を発揮しない。ただそれらは希少なものの為、これまで積極的に魔の森を攻略しようという風潮は無かった。しかし、エリウス三世は魔力を無効化する器具を大量に保持する事で、森への積極的な介入を試みている。その無効化する器具の開発に成功したのが、アロイスである。


アロイスは元々カストレイア王国の下級貴族の出で、幼い頃に魔法師協会にその才能を見初められて、魔法師として将来を渇望された秀才だった。ただし、その魔法師協会で禁忌とされる古代文献を紐解いてからその人生が一遍する。協会で禁忌とされるものに次々と手をかけ、人体実験や魔物を使った実験なども数多く執り行った。その結果、狂喜に見せられたものとして、魔法師協会を破門。そして、それを拾って宮廷魔法師にまでしたのが、エリウス三世だった。エリウスはアロイスの禁忌の知識を積極的に活用し、その研究にも多大な投資を行う。今では、その成果が、この魔の森の中でも発揮していた。


「ここまでは、至極順調なようですね。やはり、メルストレイル公国の秘宝である錫杖の効果は絶大という事ですか。であれば皇帝陛下の裁可をいただければ、次の段階へ進めそうですが。どうやら皇帝陛下はマイセンのあの人物にご執心なご様子。何とも悩ましいですね」


アロイスはそう言って、一旦部下を下がらせる。アロイスは今とある研究を行う為、この森の拠点に常駐している。研究自体は現状平衡線であるが、別の密命を受けて、そちらは次の段階に進める状況下に来ていると報告を受けた。ただ実行にあたってはアロイスの独断で事を行うわけにはいかず、エリウスの承諾が欲しいところだったが、肝心のエリウスは現在、マイセンに現れた人物にひどく固執していた。


アロイスはその固執の原因を知っている為、致し方ない事だと諦めているが、本当に煩わしい人物である。メルストレイル公国の選定公公子、シン・アルナス。現在、マイセンの町で帝国軍と相対し、単独で抵抗を続けている人物である。既に数千の兵が彼の手によって倒されており、単純に個の武としての脅威もあるが、皇帝エリウス三世の関心はそこではない。


「皇帝陛下のお立場からすれば、致し方ない事だが。まあこちらはこちらでできる事をするしかないですね」


するとアロイスは、本来の滞在の目的である自身の研究の場へと足を向けた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


シンとフィアナ、そして新たに旅の連れとなったニナは、ヤンセンの町に向けて魔の森の中を進んでいた。シンは両手に二人を抱きかかえる形で走っている。ニナは抱えられながら、楽しそうに自分の胸に光る魔石をその手に持ってかかげている。


「ふぃーおねえちゃんのたからもの、きれい」


キラキラと輝く魔石をすっかり気に入ったニナは嬉しそうにフィアナに話かける。シンとフィアナは森に入るにあたり、ニナの魔素対策としてフィアナが付けていたシンからの贈り物である銀狼の魔石のペンダントをニナに付けていた。フィアナにはガリアの秘宝であるマガタマがあるので、魔素対策は不要であり、そもそもシンは魔素が効かない。なので、フィアナのペンダントをニナに付ける事で魔素の効果を無効化している。そしてニナはそのペンダントをいたく気に入っていた。


「フフフ、シンお兄ちゃんがくれた宝物だから、褒めてもらえると嬉しい。それに優しくて暖かいでしょ」


「うん、しんおにいちゃんとくっついているときといっしょ。あたたかい」


二人は仲良く会話をしている。とても魔の森の中でされる会話ではないなとシンは内心で思い、思わず苦笑する。


「二人ともおしゃべりはいいけど、振り落とされないように気を付けてくれよ」


「はーい」


ニナの元気な返事にシンも、フィアナも優しく微笑む。ニナの村から森に入って3日目。やはりフィアナの感知能力を使って、最大限魔物を避けて進んできているおかげで、移動は大分順調だった。あと2,3日もすれば、森を抜けられる算段である。


「フィーそろそろ、今日の野営地を探そう。どこかいい場所がないか探ってくれないか?」


「うん分かった。ちょっと待ってて」


フィアナはそう言うと目を閉じて感知の網を広げていく。すると、その表情がどんどん強張っていくのがわかる。


「うん?フィー、何かあったのかい?」


シンはその表情を読み取って、先にフィアナに声をかける。


「ここはまだ大丈夫だけど、この先は魔物にあふれている。大きいの小さいの様々。今までもこんなに一杯の数を感じたことは無い」


「それは、ヤンセンに向かう方向にって事だよね」


「うん、まだかなり遠いから細かいところまでは分からない。でもたくさんいるのは確実。シン、どうする?」


シンは正直迷う。引き返してガリアを目指すにも、流石に物資が足らない。それにそれだけの魔物がヤンセンの町の方角にいるという事は、町の方も気になる。場合によっては襲われている可能性も否定できない。とはいえ、フィアナとニナを抱えての移動である。そう考えると、どう選択すべきかシンは決断しかねていた。


「危険のない範囲で近づいて様子を見るしかないな。とは言え、今日のところは一旦休もう。明日の朝から、少しずつ近づいてみよう」


シンはそう言って、一旦は妥協案で判断を先延ばしにする。現状では情報が足らないのも事実である。


「しんおにいちゃん、ごはんにするの?」


「ああ、ご飯を食べて、三人でゆっくり休もう」


シンはそう言って、ニナの頭を優しく撫でてあげる。ニナはご飯が嬉しいようで、ごはん、ごはんとシンとフィアナの周りを飛び跳ねる。シンはその様子を見ながら、最優先は二人を守る事と決め、夕食の準備に取りかかった。


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