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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第6章 魔の森の陰謀
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閑話 シンの好み

ここはガリア領主の館にある温泉場。アカネはのんびりとした気分でゆっくり温泉に浸かっていた。


「あー、気持ちいい。アルナスにも温泉があるといいのになぁ」


ガリアはもともと火山近くにあるカルデラ湖のほとりにある街である。伝承では、初代公王となられた方がたまたまこの地に寄った時に、暖かい水が湧き出ていることをいいことに、ここに街を築いたとされる。この世界には、水浴みの習慣はあるが、暖かいお湯に浸かる習慣はない。ましてや今は冬である。一応、水は温めるが、後半は温度も下がる為、髪や身体を洗うのも一苦労である。しかしここでは、洗い場で洗った後、お湯に飛び込めば、直ぐに身体を温める事も出来る。部屋も常時暖かいお湯が出ている為か、何処と無く暖かい。まさか真冬のガリアでこんなに幸せな時間が過ごせるとは思っていなかった、これがアカネの本音だった。


ガラガラッ


扉が開く音がする。アカネが扉の方をみると、そこにはフィアナとミリアが、連れ立って入ってくるところだった。


「あら、アカネさんも入っていらっしゃったんですか?」


フィアナが明るい声でアカネに声をかけてくる。


フィアナ・フォン・カストレイア。カストレイア王国の第2王女。本来であれば、こんなガリアという辺境の地で会うことのない人物。銀色の髪で、銀色の瞳、透き通るような白い肌はまるで雪の精を想像させる。綺麗な顔立ちはもちろんだが、意外に出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる非の打ち所がないスタイルである。こんな美女に優しく微笑んでもらったら大抵の男はデレっとなるに違いない。


アカネは間違いなく自分の知る限り1、2を争う美女と今、ライバル関係にある。お互い正々堂々が公約なので、別段、陰湿な関係というわけではないのだが、相手は、絶世の美女。多少気後れする部分がアカネにはあるのだが、フィアナはあまり気にしてないのか、気さくに話かけてくる。


「う、うん、ちょっと前にね。やっぱり、温泉って気持ちいいよねって、ミリア、じっと見てどうしちゃったの?」


アカネは、気を取り直して、そう返事をすると、ミリアからなんだか熱い視線を送られていることに気づく。


「ひぇっ、あ、あのその、アカネさんの胸が大きくて、綺麗で、思わず見とれちゃって」


そう実はアカネは、背も高いので、服をきているとあまり目立たないが、実は巨乳である。しかも武の一族の出である。身体は鍛えられて引き締っており、かといって女性的な曲線は損なわず、かつ巨乳である。本人に自覚は無いが、夏場に滝壺で泳ぐ際は、里の若い男達をドキッとさせていたりする。


「ああ、これ?運動の邪魔になるし、サラシで抑えつけなければいけないから、意外に厄介なのよ」


アカネは無造作にその胸をたゆん、たゆんと上下に揺らす。ミリアは思わずその揺れる物体に見入ってしまうが、ふと自分の胸元を見て、愕然としてしまう。アカネはそれを見て思わず、苦笑するとフォローを入れる。


「ミリアちゃんは、これからだから、気にしなくていいよ。」


しかしミリアは、隣にいるフィアナを見ると、がっくしと項垂れる。


「フィアナ様は一つしか歳が違わないのに…」


「ああ、その娘は規格外だから。比較してもしょうがないよ」


アカネはあははと乾いた笑いをこぼしながら、ミリアを慰める。するとそれまで黙っていたフィアナが、謎めいた言葉をこぼす。


「なんだか、褒められているのやら、貶されているのやら、わからないですが。それにミリアさん、そこを気にしてもあまり意味はないですよ」


ミリアもアカネもその言葉に思わず耳を貸してしまう。


「フィアナ様?それはどう言う事でしょうか?」


「シンの好みはそこではないので。もしそうであれば、私ではアカネさんには敵わないので」


ミリアもアカネもシンの好みに胸が対象となってない事に、片や安心し、片や残念がる。となると、シンの好みはどういったところなのだろう?


「フィアナは、シンの好みが何なのか知ってるの?」


「はい、知っています。でも流石に個人的な事なので、お話はできませんが」


フィアナはそう言うと、済まし顔で洗い場へ行ったしまう。ミリアも目の見えないフィアナの手伝いで、洗い場へ慌てて向かう。一人残された、アカネは、悶々とした想いを抱えるが、それ以上は聞くに聞けず、結局、茹で蛸状態で、フィアナとミリアに発見されるまで湯船に浸かってしまっていた。


ちなみにフィアナの言うシンの好みの真相は、外見には必要以上に興味を示さない、が答えであり、それは多分に公国で1、2を争う美姫である母親がその内面も素晴らしい人だったことに影響することは、内緒の話である。



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