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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第6章 魔の森の陰謀
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第54話幼き少女の救出

新キャラ登場。

シンとフィアナが魔の森を進む一団と出会ってから更に3日がたっていた。既にそこは帝国領内の魔の森の地域であり、帝都に行くにはそろそろ、魔の森を離れる必要があるところだった。


シンは、森の外を森の中から、視覚を強化し探っている。さすがに魔の森から出て行くところを人に見られるわけにはいかず、出るところに人影がないのが重要だった。加えて、そう遠くないところに人里があるのも望ましい。さすがに一週間近く魔の森に籠りっぱなしである。フィアナもそろそろキチンとしたところで休ませたいところだった。


「まあ、人影が見当たらないのは、予想通りだけど、問題は近くに人里があるかだけど」


「シン、私はまだ野宿でも大丈夫だよ。むしろシンとくっ付いて眠れるから、うれしいくらい」


「とは言え、フィーは旅慣れていないからな。そろそろ疲れがあっても不思議はない。帝都に行ったら休めなくなるかもしれないから、今のうちに休めるにこした事は無いよ」


シンは疲れていないと言い張るフィアナに苦笑しつつ、それでも休める時に休もうとフィアナを諭す。


「うーん、わかったわ。でも同じベットで寝るのは譲れない」


「フィー、一応若い男女が同じところで寝るのは問題なんだけど」


「フフフッ、シン、いまさら。野宿の時は一緒に寝ているんだから。いざとなったら責任を取って貰えばいい」


シンも自分で言っていて今更だと感じていたので、苦笑いをするしかない。


「フィーには敵わないな。まあ責任はいつ取れるかは分からないけど、その気がないわけじゃないからね」


「ええ、いつまでも待ってますわ、優しい旦那様」


シンとフィアナはその後も魔の森の境沿いを進んで、集落が無いかを確認しながら進んでいく。そして日も傾き始め、やはり野営になるのかと野営に適した場所を探そうか考え始めたところで、煙が立ち上がる個所があるのを発見する。


「フィー、あそこに集落があるみたいだ。煙もあがっているみたいだし、人もいそうだ。今日はそこに行ってみよう」


「うん」


シンはフィアナを抱きかかえると、そのまま煙の立つ方へ進んでいく。するとその途中でフィアナの表情が険しくなる。


「シン、あの煙の立つ方、魔物の感じがする。襲われてるっ?」


シンも視覚を強化して、煙の方を注意深く見ると確かに魔物が村を襲っていた。シンはそこで歩を緩めると、フィアナに状況を報告する。


「確かに村が襲われている。数はちょっと分からないけど、オークの集団だな。残念だけど、あの村はもう助からない」


オークは豚の顔をした人型の魔物。集団で行動し、人里を襲う事が多々ある。ただし、個の強さはさほどでもなく、数にさえ注意すれば、Dランクの冒険者でも十分対抗が可能である。ただし、無理して戦う必要はない。


シンはそう言って、その場を離れようとするが、フィアナが押しとどめる。


「待って、もしかしたら助かっている人がいるかも。一つだけ人の感じが残っているところがある」


「本当か?それはどの辺?」


「ごめん、まだ遠くて分からない。もう少し近くに行ければ、わかると思う」


当然近づく事で、オークに見つかる可能性はあるが、まだ助かっている人がいるのなら、話は別だ。シンはフィアナを抱きかかえ、身体強化をで一気に村へと近づいていく。


「フィー、敵の方向だけ、わかったら教えてくれ。後は何とかする」


「うん、わかった」


シンはフィアナの的確な指示のもと、その方向の敵を一体一体屠っていく。


「シン、右前の方、それと左後方にもいる」


フィアナは目が見えない為、距離の感覚を把握するのが苦手だ。ざっくりと近い、遠いはわかるのだが、具合的な距離までは把握できない。そこはシンが目で確認をすればいい話なので、シンはむしろ見えない、気付かない個所にいる敵にも対処できる為、常に優位に対応する事ができた。


「シン、さっきの人の気配の方に魔物達が向かっている」


「よし、そこに向おう。方向は?」


「左側の奥の方」


シンがその方向を見ると大きな蔵のような建物が見える。恐らく田畑の収穫を収納しておく為の蔵だろう。


『隠れたとしたら、あそこか?』


シンはすかさずその場にあたりをつけると、フィオナを伴って、急いで、その場所へ向かう。


キャーァ


まだ幼そうな甲高い叫び声が周囲に響きわたる。シンが、壊された蔵の入り口をくぐると、その奥中央にまだ小さい少女を取り囲むオークが3体見える。シンはフィアナをその場に降ろし、右手に持っていた剣を横凪ぎに一閃する。するとオークの一体の体が、上半身と下半身で真っ二つにずれる。その時侵入者に気付いたオーク達がその手に持つ戦斧をかかげたところで、


「遅い」


シンはまず一体の喉元に剣を突き刺すと、最後の一体はその首を一気に跳ね飛ばす。


「フィー他に魔物の気配は?」


「うん、もう大丈夫。村を襲っていた魔物の気配はもうない」


シンはその言葉を聞いて、剣を払って血糊を飛ばし、剣を鞘へしまう。


「ほかの村の人たちの気配もないのか?」


シンは、目の前にいる少女を眺めて、フィーに確認する。


「残念だけど、この子だけ。他の人たちは多分死んでしまった」


シンは少しだけ鎮痛な面持ちをしたが、すぐに気を取り直し、目の前の少女に優しい声音で話かける。


「俺の名前はシン。彼女の名前はフィアナ。村の魔物は全部退治した。君の名前を教えてくれるかい」


「ニナ、ニナです。パパとママはどこ?まものはもういないの?」


少女は放心した状態ながら、一番知りたい事をきいてくる。シンはどうこたえるべきかを考えていると、フィアナが少女の前にしゃがみ込んで、事実を伝える。


「ニナって言うのね。私はフィアナ。フィーでいいわ。魔物はシンがやっつけたわ。でもあなたのパパとママは助けられなかった。御免なさい」


「パパとママはいないの?えっ、えっ!?」


「ごめんなさい、助けられなかった。だからもういないの」


「うぇっ、パパ、ママー」


漸く事実を理解したニナはその場で泣き出す。フィアナはニナを優しく抱きしめると、泣き止んで寝入ってしまうまで、優しく抱きしめていた。


結局その日は村の被害の少ない家で一夜を過ごす。フィアナもニナを抱きかかえたまま寝てしまい、シンも壁に寄りかかりながら、浅い眠りについていた。翌朝、シンは携帯食を温め直して、朝食の準備をする。すると食事の匂いにつられたのか、抱きかかえられたフィアナの腕の中から、ノソノソとニナが顔を上げる。


「ふにぁ?」


いつもと違う見慣れない風景だったのだろう。しかも目の前にいるのが母親ではなく、別の誰かである。ニナは慌てて左右をキョロキョロし出す。するとフィアナもそれに気付いたのか、目を覚まし、優しく話かける。


「おはようニナ。私はあなたの味方よ」


フィアナはそう言うとニナを再び優しく抱き留める。ニナも漸く昨日の出来事を思い出しのだろう。フィアナに抱かれながら、フィアナに質問する。


「ニナのパパとママ、しんじゃったの?」


「そうね。魔物に襲われて死んでしまったわ。だから今日は二人のお墓を作って、お別れをしないといけない、ニナにできる?」


ニナはフィアナの胸で涙をこぼしながら、うんうんと頷き返事をする。


「パパとママのおわかれする。おじいちゃんとおばあちゃんのときといっしょ」


「そう、ニナは偉いわね。じゃあご飯を食べたら、みんなでお墓をつくりましょう」


フィアナは優しく微笑んで、ニナの頭を撫でてあげる。ニナはそれでも不安そうにフィアナに質問を重ねる。


「おねえちゃんとおにいちゃんはだれ。ニナはどうすればいいの」


「お姉ちゃんフィアナ、フィーでいいわ。お兄ちゃんはシン。私達はニナの味方で、ニナを一人にはできないから、ニナは私達に着いて来ればいいわ」


シンは思わずフィアナを見るが、フィアナはシンを見て静かに頷く。シンも仕方がないかと思い至り、優しくフィアナに笑みを返す。


「ふぃおねえちゃんとしんおにいちゃん?になといっしょにいてくれるの?」


「勿論、さっきも言ったでしょ。ニナの味方だって」


ニナもそこで少しだけ安心したのか、かすかに笑みを浮かべる。するとそのお腹からグーッと大きな音が鳴る。


「フフフッ、お腹が空いてしまったわね。三人でご飯にしましょ」


そう言って、漸くシンの元に二人は向かう。シンはニナに対するフィアナの対応に感心をしつつも、自身もニナに対して、優しく接しようとしゃがんでニナと目線を合わせ、優しく挨拶をする。


「おはようニナ。お腹が空いただろう。朝ごはんの用意はできてるから、みんなで食べよう」


シンはそう言うとニナを抱き上げて、シンとフィアナの顔が見えるように運んであげる。ニナは突然抱き上げられて少しびっくりするが、すぐにシンとフィアナの優しげな顔が近くにあるので、安心して、今度はにっこりとほほ笑んだ。


結局二人は、その日は村の人々の墓をつくるだけで一日を過ごす。ニナも父と母の墓を作った後、懸命に手を合わせてお別れの挨拶をしている。まだ小さいニナには深い傷となっただろう。それでも両親が何とかニナを助けようと匿った事が、今ニナが生きている理由でもあり、シンもフィアナも両親の想いにこたえられて助ける事が出来たことに安堵する気持ちがあった。


そしてその夜、ニナが寝静まった頃、シンはフィアナに話かける。


「フィー、これからの事なんだけど、流石にニナを連れて帝都にはいけない。とはいえ、ここに置いておくわけにもいかない。だから、一度、カストレイアに行こうと思うんだ」


「カストレイアにですか?」


「ああ、カストレイア側の魔の森を抜けたところにヤンセンという町がある。そこは俺が三年間、冒険者として過ごした場所で、信頼できる人達がいる。だから、一度、ヤンセンによってニナを預けて、それから帝都に向おうと思うんだ」


「そうですね。それがいいかも。それともガリアに戻る?」


「ここまで来たらヤンセンの方が、多分近いよ。それに帝都は帝都で、行かないといけないしね」


「うん、シンがそう言うなら、私は構わない。ただ、ニナ次第で私はヤンセンに残るかも」


「ああ、それはヤンセンに行くまでの間でニナの様子次第で考えよう」


シンとフィアナはそう言って、今後の予定を決める。シンはフィアナがニナと共に残るかもと言った時、少し驚いたが、それ以上に、フィアナの優しさを感じて、嬉しくなる。


「でも、もしそうなっても帝都から迎えに来てくれないと駄目だからね」


「ああ、約束するよ。どのみちニナをずっとヤンセンに預けっぱなしもできないだろうからね」


「フフフッ、ならその時はニナと二人で旦那様の帰りを待ってます」


そんなやり取りをしてその日は三人、川の字になって、眠りにつく。そして夜が明けて、村を出発する。三人になったことで、シンは右手にニナを抱え、左手にフィアナを持ち上げて移動する事にする。当然身体強化をしての事であるが、ニナはそうされて大喜びする。


「しんおにいちゃん、すごい、ちからもち」


「フフフッ、そうなのシンは力持ちですごく強いのよ。ニナの事も守ってくれるから安心していいわ」


「うん、しんおにいちゃん、ありがとう」


「二人とも、それなりにスピードを出すから、ちゃんと捕まっててくれ」


シンはそう言って、二人を抱えたまま、ヤンセンに向かって走り出した。


昨日の更新が遅い時間だったので、今日は早め。

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