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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第6章 魔の森の陰謀
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第52話 それぞれの兆し

今回は前振り回。

アーガス帝国帝都ノルビスにあるとある貴族の邸宅にて、その館の主と一人の魔法師が密談をしている。


「ほほう、メルストレイル公国の首都マイセンではそんな面白い状況になっているのですか?」


魔法師は聞いた話をさも楽しそうに興味を示す。


「そう楽しそうにもしてられん。今は他の派閥の指揮下の元、捕縛にあったっているが、いつそのお役目がこっちにくるかもしれんのだぞ。恐らく、人数をかけても捕えることは敵わん。相応の人材を集めて、少数精鋭で事にあたる必要があるが、皇帝直下の龍騎兵ならまだしも、そのような人材は帝国でも中々おらん」


「うーん、そうですね。私の得意な精神魔法も今回は余り役に立ちそうには無いですから、もしそうなれば、骨ではありますね」


ここで密談している二人、一人は王都を追われ、帝国に潜伏中の魔法師エリク、もう一人は貴族であり軍属として将軍位にもあるアーネスト・カイゼル伯爵であった。元々エリクとアーネストは知古であり、アーネストが若かりしときに、エリクはお抱えの魔法師としてカイゼルの軍内における出世の手助けをしたことがあるのが、きっかけである。エリクはその後、魔法師協会の命令により、王立学院に講師として赴任をしており、今回、王国を追われた事で、一時的にアーネストのお抱えの立場に戻っている。


「こういう時にこそ役に立ってもらわなければ、抱えている意味がないぞ。その方が求めているものをこちら側では準備を進めているのだからな」


「それは重々承知しております。まあ直接こちらが手を下さなくても、色々手はございます。要は誰かしらがそのシン・アルナスとやらを倒してくれればいいのでしょう?」


憤然とするアーネストに対し、エリクは殊更余裕のある笑みで含んで言う。


「まあ今の時点では他の派閥側の権威が失墜しているだけだから、静観で構わんが、火の粉が舞ってきたら対応は任せるぞ」


「ええ、構いません。こちらは色々お願いをしている身です。その程度の事であれば、お任せいただいて問題ありません」


『まあとは言え、私自身が直接手を下すわけではありませんが』


エリクは内心でそうこぼしながら、アーネストに恭しく頭を垂れた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あーあ、シン君は今どこで何やってるんだろう」


とある冬の日、ヤンセンの冒険者ギルドの受付嬢メルは仕事が落ち着いたタイミングでそうぼやいていた。シンがヤンセンの町を発ったのは今年の春。王都への王女殿下護衛でついて行き、その後にあった王都での国王・王太子暗殺事件に巻き込まれた後、直接、前から行くつもりだったという北方諸国への旅に行ってしまった。元々彼のルーツが北方諸国にあるのは、その外見から見て取ることはできる。その為、彼が北方諸国に興味を持ち、旅だったことも不思議ではない。でも、出かける前に一言あってしかるべきではないかとメルは思っている。


「もう、一言も無しに行ってしまうなんて、シン君のバカ。お別れの挨拶くらいしてくれてもいいのに」


ギルドマスターのハワードに言わせれば、冒険者なんて稼業の人間は、本来根なし草なのだから、ふらっと居なくなって、ふらっと帰ってくると言っている。しかもシンの場合、わざわざギルド宛に書面を送って、そう遠くない未来に一度、ヤンセンにはよりますとまで、書いてあった。なら戻ってきたときに文句の一つも言ってやりたいのだが、具体的にいつ帰ってくるかもわからないので、只々気を揉むしかないのである。


そんな悶々とした思いを抱えながら、受付をしていたメルの元に、けがをして息も絶え絶えの冒険者がギルトホールの中に入っている。


「おいっ、お前、大丈夫か?」


「誰か治癒魔法の使える奴を呼んで来いっ」


入ってきた冒険者の様相に、すぐさまホール内にいた他の冒険者が駆け寄って容態を見る。メルもその様相に一瞬あっけに取られたが、すぐさま気を持ち直し、慌てて冒険者の元に駆け寄る。


「大丈夫ですか、誰かギルドマスターも呼んで下さい。それから治癒魔法を使える方は優先して、治癒を行ってください。それ以外の方は、一旦離れて」


怪我をした冒険者は、偶々その場にいた治癒魔法を使える冒険者の治療を受けながら、声を絞りだしてくる。


「た…大変だ。かっ街…道沿いに、オーガのむ、群れが…現れた…。今、何人かの冒険者が…足止めを…しているが、長くはもたね…」


そこまで声を絞り出すとその冒険者は意識を失う。


「オーガの群れだって?なんだって、街道なんかにそんなもんが、現れるんだ?おい、今すぐ斥候を街道に送れ。ただし、戦うな。敵の規模を見たら、すぐに報告に戻ってこい、おいメル。その冒険者を医務室に運んでやれ。気が付いたら、詳しい状況の確認を頼む」


話を聞いていたギルドマスターのハワードは、話を聞いた後、近くにいた冒険者達を使って、次々に指示出す。そして自信はそのまま、外に出ようとする。


「ギルドマスター、どちらに?」


メルは慌てて出て行こうとするハワードに声をかけて、行き先を確認する。


「俺は今から軍のところに行ってくる。まだ規模がわからんが、準備はしておいた方がいいだろう。メルも町中の冒険者を集めるように手配書をまわせ。下手したら町が無くなるぞっ」


ハワードはそう言ってギルドホールを出て行くと、メルは目の前の冒険者を医務室に運びぶ為、慌ただしく動き出した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ガリアの冬は雪が深く、寒い。シンとフィアナは暖炉の前のソファの上で、二人並んで本を読んでいた。正直、余りする事が無いのと、この機会にここガリアの蔵書を紐解いておこうというのが二人の意見だった。ちなみにこの本読みにアカネは基本参加しない。アカネは勉学が苦手なため、この時間は大抵、ミリアと伴って家事を手伝っていた。


「こうして現地の書物を直接読んでみると、カストレイア王宮の図書室にある書物と多少内容が異なる部分がありますね」


「ふーん、そうなのかい?」


目の見えないフィアナの為に、シンが本を読んであげて、フィアナがその感想を言う。シンはその感想に自分の意見を言って、お互いの意見交換をする。この読書の時間をそうやって二人は過ごしていた。


「はい、今回読んでいただいた流浪の冒険者のお話では、その冒険者の方の宝具に関する記述がありましたが、カストレイアの書物ではもっと大雑把で、余りそのあたりのくだりは、詳しく記載されていないのです」


「それはどのへん?」


「宝具を受け取りに金の竜王の元へ赴くときに、その所在が魔の森らしき描写があるところとか」


「ああ、その辺はカストレイアの書物の場合、大雑把なのか。物語としては、苦難の末に辿りつくのに魔の森はうってつけだからね。まあ、大抵は辿りつく前に死んじゃうから」


シンは実体験も交えての感想を言うが、フィアナはその言葉を聞いて若干呆れる。


「その魔の森を踏破して人物がここにいると思うのですが」


シンは思わず苦笑して、弁明する。


「確かに俺は魔の森を踏破したけど、それほど奥には行ってないからね。魔の森は奥に行けばいくほど、魔素が濃くなるから、そうすれば魔物の強度もあがる。俺でも魔の森の最奥に行って生きて帰れる自信は余りないな」


「大抵の人は魔の森に入ろうとも思わないのですが、自信がない程度なんて、普通じゃない事を理解した方がいいかと。でもシンと一緒なら、本当にいるかは分かりませんが、最奥の金の竜王に会えるかもしれないと思うと、少しワクワクします」


そう言ってフィアナは楽しそうに思いをはせる。シンはその言葉に溜息をつくと、フィアナに文句を言う。


「フィアナ、魔の森はそんなに楽しい場所じゃないんだぞ。俺は偶々魔素が無効化できるから良いけど、本当は帝都にも俺一人で行きたいくらいなんだからな」


「あら、それはもう済んだ話です。お爺様にも了承はいただきましたし、シンも認めた話ですわ」


実は、春になったらシンは帝都に帝国が持ち帰ったとされる家宝の捜索に赴く事になっている。当然、魔の森を抜ける危険な旅なので、単身で帝都に赴くつもりだったシンだが、事もあろうか、フィアナは同行すると言ってきたのだ。さすがにシンだけでなくダンもそれには反対の姿勢を見せたが、フィアナが言ってきたのは、その感知能力だった。フィアナは目が見えない変わりに、その感知能力が優れている。家宝は皆、優れた魔道具でもあることから、その所在を見つけるのに役に立つと主張したのだ。実際にシンの宝刀クサナギやガリアの家宝の所在も感知しており、帝都であてもなく探すよりは、フィアナがいる方が確実性が上がる為、ダンも渋々許可を出した。シンはそれでも反対の姿勢を示したが、最終、フィアナの頼みを断れるはずもなく、渋々了承するに至っている。


「わかっている。でも危険な旅である事も間違いないんだ。だから余り無茶な事はしないでくれよ」


「勿論、無茶はしません。ただ私に何かあったら、きっとシンが助けてくれると思っているので、安心はしています」


「まあ今回の旅で、ガリアの家宝であるマガタマを師匠が貸してくれるというから、魔素の対策は問題ないのは良かったけど」


ガリアの家宝「マガタマ」。これは膨大な魔力を溜めこむ事が出来るいわば、魔力蓄積装置である。シンの魔力全部をつぎ込んでもまだため込む事が出来るもので、実際にシンの魔力を3回丸々つぎ込む事が出来た。これがあれば、魔素で変調をきたすような事はまずなく、いざとなれば、クサナギを複数回使用する事も可能であった。


「それにシンの傍にいる事が私の旅の目的です。公都マイセンの時は、すぐに戻ってくると思っていたので、付いていきませんでしたが、今回はそれよりも長くなるはずです。であれば、ついていくのは当然です」


「はいはい、まいりました。フィーの事は俺が守るよ」


「頼りにしてますわ。優しい旦那様」


二人は、そう言って話に区切りをつけた後、暖炉の前に寄り添いながら、再び本の世界に没頭するのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


セシルは夢を見ていた。暗く何もない空間。そこに一人セシルはたっている。いや立っているのではなく、立ち姿で浮いている、それが正しい表現かもしれない。夢と断定できるのもその浮遊感からで、その背景が空であれば、まさに飛んでいるかのような感覚なのである。しかしそこは何もない暗い空間。上下も前後もなく、ただ浮いている感覚のみ。


(一体この夢、なんなのかしら)


夢であるが故に、恐怖感は感じない。本来であればこんな暗い空間に閉じ込められたら、大抵の人間は恐慌をきたす。あるのは浮遊感と共にある圧力。恐怖こそ感じないが、前方だと感じる方向から圧力は感じていた。


(夢であるなら、適当なタイミングで醒めて欲しいのだけど)


ここ最近は、仕事にも慣れたのか、量をこなせるようになり、余裕も出てきている。どうせならシンの出てくる夢を所望したいところであるが、こればっかりは夢側の都合なので、リクエスト通りにはいかない。すると夢の中の空間に異変が起きる、先ほどまであった圧力が大幅に増幅しているのだ。


(何、なんなの?)


セシルは手を前に出してその圧力を避けようとすが、その圧力は弱まるどころか更に圧力を増していく。すると頭の中に直接、重い抗いがたい言葉が響きわたる。


『ソナタガコンセノウツシミカ』


名状しがたいその圧力の言霊にセシルは何も為す術もなく、その身をこわばらせる。目の前には金色に輝く瞳がセシルを見つめている。


『イズレチカイウチニ、ワレハケンゲンスル。ソレマデハ…』


金色の瞳が閉じられると共に、圧力の言霊はその圧力を弱め、セシルはそのまま深い闇へと意識が遠のいていく。


(あの金の瞳は一体…)


セシルは脳裏に焼き付く金の瞳が逃れられないもののように感じながら、意識を闇に手放した。


今日もpv1000超えそうです。Ptも200が見えてきました。是非ブクマと評価をお願いします!

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