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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第5章 北の地での決断
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第50話 父の遺骨

怪盗シンの活躍は地味なものとなってしまいました。

クリストフと話をした日の夜、シンは犯行予告にあったといわれる場所をクリストフから聞いて、その場に来ていた。その場には同じような野次馬が既にたくさんきており、待ち構える帝国軍も四方八方に確認できる。シンはその集団の最後尾に目立たないように紛れていた。


「これだけの警戒の中、本当にくるのか?」


明らかに過剰ともいえる帝国軍の防御態勢の中で、現れる事自体に疑念を覚えるが、周りにいる大衆は現れる事を確信しているかのように、固唾をのんで見守っている。すると前方屋根の上から警戒をしていた弓兵がバタバタと屋根の上から転げ落ちる。


「出たぞ、シン・アルナスだ。囲めっ、捕まえろ」


帝国軍将校の怒声が上がる中、屋根伝いに走る人影が、次々に帝国軍兵を屋根から落としていく。


『速い!?』


シンは心の中で感嘆の声を上げ、身体強化で視力を上げて人影を追おうとするが、中々照準が合わない。観衆もようやく気付き始めたのか、あちらこちらで、「出たぞ」「シン・アルナスだ」といった声が湧き上がる。偽のシンはそのまま右前方の屋根の上にいた軍兵をすべて叩き落とした後、人員配置を見計らったように人の少ない場所に跳躍してその周囲の軍兵を薙ぎ払う。


『確かに父さんに似ているが、なんか動きがヘン…?』


照準があったところで、シンは偽のシンを凝視するが、確かに風貌はユーリ・アルナスに似ているものの、フードに仮面をしており、顔は確認できない。それよりもシンは動作と動作のつなぎ目、技と技の切れ目に気持ち悪さを感じる。ただ、その強さは本物で、矢や刀の攻撃はほぼ交わさず、攻撃で圧倒していく様は鬼人と言われるに相応しい動きだった。


『何となくだけど、正体がわかったかもしれない。それならば、こちらも早く動き出さないと』


シンは視力強化を続けながら、その場から見える、高く見晴しの良い場所を確認した上で、その場を去って行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


偽シン・アルナスの犯行現場から離れたシンは、城門警護の警戒の薄れたところからマイセン王城へと潜入していた。目的は王の証しである王玉の回収である。シンにとっては、城兵の関心を引き付けてくれる偽シン・アルナスが暴れまわっているうちに、王玉をかすめ取る算段である。場内はやはり騒然としている。シンの予想が確かならば、あの偽シン・アルナスが捕まる可能性は低い。ただし、ある種限界はあるはずで、その限界までに回収する必要があり、急いで行動をしている。


ダンに教わった通りに王城内を進んでいたシンは、すれ違う将兵たちを何度かやり過ごした後、目的の場所にたどり着く。王城地下にある大神殿。ダンの話では、元々マイセンの王城は古代遺跡の上に建てられた建造物で、その地下の一画は、今なお古代神殿の建造物が残っているとの事だった。王の選定はその大神殿内で、代々行われ、選定された王は、そこから王玉の間にいたり、歴代王の記憶と知識を得るという。


シンは大神殿に音も立てずに忍びこむ。神殿ないは静寂に包まれ、暗闇に閉ざされている。さすがにここには衛兵の姿はなく、シンは警戒はしつつも足早に奥へ歩を進めていく。


「どうやらここみたいだな」


シンは台座の置かれた大きな扉の前に立つ。扉には竜の意匠が施され、その瞳は銀色に輝いている。シンはその竜の意匠の荘厳さに思わず圧倒されるが、すぐに気を取り直し、一本の刀を取り出す。宝刀「クサナギ」。アルナスの選定公である証しの刀。選定公家はそれぞれの家にこの証しである家宝を持っている。ガリアもまた家宝があり、シンがクサナギを持っていなかった場合、ダンはガリアの家宝を渡してでも、王玉を取りにこさせるつもりだったらしい。


シンは取り出した宝刀に魔力を流し込む。宝刀はシンの魔力を溜めこむと、その刀身を淡く輝かせていく。その状態で台座にクサナギの刀身部分をかざすと、シンの魔力に反応して、扉が重い音を立てて開き始める。すかさず空いた扉から中に入ると、扉の内側にも同様の台座があり、シンは再び刀身をかざすと今度は扉が閉まる。


「これでようやく一息かな」


扉の中は一つの部屋になっており、魔法による光で外周が照らされている。以前、カストレイア王宮で使った隠し通路と同じ原理なのだろう。青白い光が外壁を照らす中、シンはその中心部分を見ると空中に浮かぶ、一つの玉に気が付く。黄金に輝く透明な玉。その玉自体が浮いている原理はわからないが、異様な光景に思わず息を飲む。


「これが王の証しか」


王玉は透明な玉でその素材がなんであるかは想像できない。ダンの話では、その強度もかなりのもので、落としたところで決して割れるものではないという。シンは空中からその玉を引き抜くと、玉は輝きを失って、ただの透明な玉へとその身を変えていく。シンはまだ王ではない。王となるには各家の家宝の魔力をあてながら、最後に王がその玉に魔力を流し込む必要がある。最終的に王を選定する為には、帝国に奪われた家宝を奪い返す必要があるのだ。それでもシンははからずも王の証しを持ち出さなければいけない事に、歴代の王達へ謝意を示す。


「歴代の王よ、今はからずも王玉を持ち出さなければいけない事、お詫び申し上げます。これは必ず、ここへ持ち帰りますので、お許し下さい」


シンはそう言うと、腰をおり玉が浮いていた場所へ深々と頭を下げた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


シンが王玉を持って王城城門を抜ける事には、既に偽のシン・アルナスは立ち去った後だった。帝国軍の無残なやられ様は、観衆たちの大きな話題となっていたが、帝国兵が睨みを聞かせると、蜘蛛の子を散らすように方々へと去っていく。それでも旧公国民にしてみれば、痛快劇だったのか、また人が集まると話題の花が咲いていた。シンがその人垣の一つに耳を傾けると、今回の帝国側の損害は約1,000名程度らしかったが、当然、取り押さえる事はできず、終盤は戦線も瓦解したのか、シン・アルナスの逃亡劇は、非常に楽そうだったらしい。


シンはここで少し迷ったが、可能性の一つとして確認しておこうと決断して、ある場所を目指す。シン・アルナスが暴れていた場所から周囲が一望できる、マイセン王都中心部にある時計塔。シンは移動しながら、何となくこれが正解だと感じていた。


時計塔の入り口は鍵がかかっていた。しかもただの鍵ではない。魔法による鍵。シンは魔力を一気にかつ大量に流し込む事でその魔法による結界を破壊する。


「これで気付かれたかな?」


シンは気付かれた事自体は余り気にしていなかった。観衆の反応を見ても分かるようにどう見てもメルストレイル側に立った行動をしている人間である。話ようはあると思っていた。中に入って、そのまま塔の上へと歩を進めていく。程なくして最上階のマイセンの町が一望できる部分までくると、やはり見知った人物と先ほどまで大立ち回りをしていた鬼人シン・アルナスが立っていた。


「人の名前を勝手に使うなんて、酷いじゃないですか。キリク叔父さん」


「クックックッ。今じゃ王都一の有名人だぞ。何の文句があるんだシン」


そこにいたのは、キリク・レーニア。父ユーリの友人でシンに魔力操作を仕込んだ張本人だ。細くがりがりの体格で、ギョロットした目が特徴だ。薄汚れたローブを羽織っており、昔の印象と微塵も変わっていない。


「はぁ、頼んでませんよ。おかげで人がシン・アルナスの名前を言う度にドキッとするんですから、全然割に合いません」


「まあ、そう言うな。おかげでお前を見てもシン・アルナスだと思う人間は一人もいまい。シン・アルナスの父親似で熊のような風貌だからな」


キリクはそう言って、隣の仮面の人物を見やる。仮面の大柄な男。シンがここについてから、微動だにしない。


「ちなみにこの父似のシン・アルナスは何者なんですか?」


「フンッ、お前ならもう気付いているだろう。お前の親父の亡骸を元にした傀儡だ。俺の魔力操作で動く魂の無い人形だ」


「ああ、やっぱりそうでしたか。刺されることも厭わないし、ヘンな動きもするしでおかしいと思ったんですよ」


キリクはシンの洞察力に満足したようにうなずき、積る話もあるからとシンに場所を移すよう言う。


「それよりここは認識阻害の結界を張っているとは言え、目立ちすぎる。場所を変えよう」


シンはそう言って下へ移動するキリクについていき、地下に用意されている秘密の部屋へと通される。


「この部屋は元々あったものなんですか?」


「ああ、元々は倉庫として使われていた部屋を拝借している。一応何かあったときの為に、マイセン地下にある下水道に繋げてはいるがな」


シンは部屋にある椅子に座り、キリクが用意したお茶を飲みながら、事の経緯を聞く。


「キリク叔父さんはいつからマイセンにいたんですか?」


「ああ、マイセンの陥落前から、ユーリの手伝いでマイセンには来ていた。父似のシンもその時に開発したものだ。あれがあればもう少し、帝国を抑えられたのだが、間に合わんかった」


キリクはお茶をすすりながら、淡々と言う。


「それからずっと、ここマイセンに?」


「ああ、奴らに一泡吹かせたくてな。これの完成に心血を注いだよ。おかげで、今では英雄が誕生したがな」


「帝国にしてみれば、俺の名前は悪名ですよ。まあ、こっちの知人は誰一人信じてなかったですが」


「それはそうだろ。お前はメイ似だ。お前を知っている人間ならユーリのような男と聞いて、同一人物とは思わんよ。それはそうと、こっちに来て誰に会った?」


「ガリアのダン師匠、アルナスのガース叔父さん、ああ、アカネもわかりますよね。キリク叔父さんが知ってそうなのはその辺ですか」


「おお、ガリアのダン様は息災か。ガースやアカネも生きていたか。アルナスは酷い惨状と噂で聞いていたから、心配してたんだ。そうか、それは良かった」


キリクはうん、うんと頷きながら、喜びをかみしめている。シンもその姿にかわらないキリクの性根を見て、笑みを浮かべる。


「キリク叔父さんはこれからどうされるんですか?俺はこの後アルナスによって、ガリアに戻ります。冬になったら動けなくなりますから、冬はガリアで過ごすつもりです。叔父さんさえ良かったら、ガリアなりアルナスなりにお連れする事も可能ですが、如何されますか?」


「いや、俺はまだまだシン・アルナスの名を広める必要があるから、マイセンに留まる。ただ、ユーリは故郷なり、メイの傍なりに連れて行ってくれんか。遺骨は俺が持っているからな」


「キリク叔父さんが父さんの遺骨を持っているのですか?」


「ああ、王城から逃げる時にそれだけは持ってきた。あいつは王城が嫌いだったからな」


シンはユーリの王城嫌いというより、国への務め、将軍職を嫌がっていた。元々単騎で戦場を駆け抜ける鬼人の資質である。宮仕えが窮屈だったのだろう。シンが外遊と称して、方々の国に連れて行かれたのも、元々はそれが原因だったりする。


「ありがとうございます。父も故郷に戻れるのを喜ぶと思います。ガース叔父さんとも話ますが、母と一緒に墓に入れてあげたいと俺個人は思っています。母も喜ぶと思いますので」


「フフッ、違い無い。メイが喜ぶかは別にして、ガースの奴はメイにベタ惚れだったからな。きっと喜ぶだろう」


「あれで母もベタ惚れでしたから、きっと喜ぶと思いますよ」


シンとキリクはそう言いあうと顔を合わせて笑いあった。

ようやく一つの節目、50話到達です。まだまだ核心までの道のりは遠いですが、応援お願いします。

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