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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第4章 王都争乱
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第38話 決着

王様とアレクの死に様、もう少し何とかしたかったと思いますが、力量足らず...

近衛隊隊長のライアスがその場に着いたとき、時すでに遅しと言うことが一目でわかる。


「くっ、間に合わなかったか」


ライアスは一瞬だけ瞑目すると直ぐに目を見開き、状況判断を行う。国王陛下の周りには、貴族や衛兵達が群れを成して囲んでいる。ニック達近衛兵達は殺す訳にもいかず、苦戦している。誰が陛下を?そう思って奥を見るとそこには血で真っ赤になった剣を持ったアレクが虚ろな目をして立っている。


「なんと、痛ましいことを…」


ライアスは表情を歪ませると、連れてきた近衛隊の面々に指示を飛ばす。


「全員、全身に身体強化魔法をかけろ。周りの洗脳者達は昏倒させつつ、中央にいる国王陛下までたどり着け、急げ、早くしろ!」


「おやおや、思った以上に早いお着きですね。流石は近衛隊と言ったところですか」


ライアスは不快な声の主を睨み付けて、怒声を浴びせる。


「貴様がエリクかっ。此度の大罪、その命を持って償わせてくれる」


「おお、怖い怖い。ただこの場での仕事は既に終了しています。ですので、私はこれで失礼しますね」


エリクはそう言うとその体を少しずつ薄くし、その場から居なくなる。


「チッ、逃すな、探し出せ」


ライアスは忸怩たる思いを抱きながら、部下に指示を飛ばす。すると、ドサッと崩れ落ちる音が聞こえる。今度はアレクが国王陛下と並ぶように、血溜まりをつくって倒れ落ちる。


「殿下ーッ、殿下ーッ」


宰相の右手に先程王を刺した剣が握られている。エリクが、この場での仕事が終わったと言っていたのは、この事だったか。ライアスはこの場の王族を誰一人救えなかった事に、己の無力を感じつつ、まずは出来る事をと気力を振り絞る。宰相はようやく到達した近衛兵に昏倒させられて、その剣を落とす。


「まずは城内の敵を掃討する。洗脳者は昏倒させつつ、縛り上げろ。まだフロイセン公爵も見つかっていない。必ず見つけ出し確保しろ」


「ははっ」


部下たちは、掛け声と共に散開する。ライアスは王とアレクの前まで行くと二人を並べて横たえ、静かに黙祷を捧げた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ああっ、今度はアレクお兄様まで…」


シンは国王達のところへ向かう途中、アレクまでもが倒れた気配をフィアナが察したのを聞いて、その場で歩を緩める。


「フィー、国王陛下に続いてアレク殿下までも倒れたというのは間違いないかい?」


フィアナは瞳を涙でぬらしながらも、シンを見上げてしっかりと頷く。


「はい、間違いありません。ただ、操っていた人の気配も同時にいなくなっています」


「エリクがいなくなっている?そう言えば、他の襲撃者たちは何処に行った?フロイセン公爵の姿も見えない。敵は何を求めているんだ?」


現時点で国王と嫡子であるアレクが倒れている。国家転覆を狙うのであれば、充分の成果だ。そうなると王宮内での目的は達せられている。フロイセン公爵は何処かは不明だが、もう一つの隠し通路付近にいるのだろう。近衛隊の登場は、相手にしてみれば誤算だ。ならば逃げやすい場所に身を置く必要がある。まだ彼は必要なカードだ。元々50名以上はいた敵兵も、護衛で何名かは残っているだろうが、他のメンバーが見当らないのも気になる。


「フィー、ここから後宮の気配まで拾えるかい?」


「少し遠すぎます。もう少し近づけば分かりますが」


「ならば、セシルの方に向おう。どうも嫌な予感がする」


「お姉様が狙われているといことでしょうか?」


「どうやら彼らは前からセシルに固執している。今回の国王陛下殺害すら囮で、本当の狙いがセシルだったらいよいよまずい事になる」


フィアナは首肯して、シンに同意する。


「シン、お姉様のところへ行きましょう。近くに行けば状況も探れます」


「わかった。気付いたら教えてくれ」


シンはそう言うと、後宮に向って走り出した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


セシル達の目の前には、約30名程の襲撃者とエリクが一階のロビーを挟んで対峙していた。セシルの前にはナタリアを始め、セシルの護衛にとのこしていった近衛の兵士が5名剣を構えて立っている。その後ろにアイシャと並んでセシルが目の前の敵を睨みつけている。


「ああ、ナタリアさん、お久しぶりですね。この前はあなたのお蔭で散々な目に合いました」


エリクが茶化すように、目の前で剣を構えるナタリアに話かける。ナタリアは眉間に皺を寄せながら、エリクを睨みつける。


「あの時、捕まえられなかった事を私は後悔している。今日こそは必ずお前を捕まえて見せる、アイシャ、セシルと自分に魔法障壁を張りなさい。洗脳魔法があります」


ナタリアは自身の体は全身に身体強化を施しつつ、身体強化のできないアイシャ・セシルに対しては、アイシャが洗脳魔法対策として習得した魔法障壁を全身を覆うようにまとわせる。他の近衛もナタリア同様身体強化を施し、体制を整える。


「フンッ、身体強化ができるのが、自分らだけだと思うなよ。お前ら、敵兵蹴散らせてささっと王女を攫うぞ」


そう叫んだのは、襲撃者たちのリーダー、ガジルだった。ここまで国王殺害はエリクに任せ、自身は王宮内でセシルを捜索させていた。ここ後宮に送った者たちが帰ってこない事で、ここを総出で探しにきたところ、漸く見つけた。個の戦力では恐らく近衛の方が上だろう。彼らが、全身に身体強化をかけられるのに対し、ガジル達は部分強化しかかけられない。それでも人数は圧倒的であり、ここでは負ける要素が少ない。


ナタリア達は、多勢に無勢でむやみに突っ込む事もせずに、じりじりと後退する。


「ファイアボール」


「アクアカッター」


背後からセシルとアイシャの放った攻撃魔法が敵兵にあたる直前にはじけ飛ぶ。


「魔法障壁!?」


「おやおや、私も魔法師の端くれですから、障壁くらい張れますよ。何なら攻撃魔法もお見せしましょうか?」


エリクはそう言うと目の前に大きな火球を作り出すと、ナタリア達近衛に向って打つ放つ。これもナタリア達の目の前に張られた魔法障壁に弾かれる。


「そちらにできる事くらい、こちらでもできますわ」


アイシャがそう言って、エリクを見下すように馬鹿にする。エリクはそれを見て楽しそうに、言葉を返す。


「んん~っ、素晴らしいですね。あなたの魔力操作はものすごい才能です。公爵令嬢にしておくのが勿体ないくらいですね」


「おいおい、先生。そろそろお遊びは止めにしねぇか。近衛も王宮にいるんだ。とっとと片づけてぇ」


「ああ、確かに。失礼しました。今回彼らには洗脳魔法は効かなそうなので、私はサポートに徹します。どうぞ存分にお暴れ下さい」


エリクはそう言って、自らは後方に控える。ガジル達はニヤリと笑みを浮かべると、長らく待っていた狩りの時間の始まりを告げる。


「野郎ども、やっちまえ」


近衛のメンバーが突撃を開始した襲撃者をその身体強化で押しとどめる。その脇を抜けようとする襲撃者に注意を払って、剣で牽制しつつ、その場を散開し、背後に抜かせないように剣を払う。アイシャとセシルはその魔法の威力をおとし、手数を増やす。致命傷を与えるような威力のものは、背後のエリクに障壁を張られてしまう為、障壁を張りずらい規模のものを複数展開していく。威力が落ちる分、倒れるまでには至らないが、敵を押しとどめるには役に立つ。たたそんな状態も長く続かず、近衛の兵士が1人、また一人と倒れていくと、最終的にはナタリアのみを残し、近衛兵はすべて討たれていた。


「ふん、思ったより時間食っちまったか。何人かけが人も出しちまった。後は嬢ちゃん達だけだが、まだやるか。まあ、殺しはしねえ。女は色々利用価値があるからな」


ガジルはそう言ってニヤケ顔を向けると左右にいる部下に捕まえるように目配せをする。


「クッ」


ナタリアは、セシル・アイシャ、二人の前で剣を構えながら、近づく敵を牽制し、切りかかるタイミングを計る。セシル・アイシャも体内に魔力を溜め、攻撃魔法を繰り出す準備をする。ガジルは三人の徹底抗戦の構えを見ながら、手負いの獲物を捕らえる狩人のように、少しづつ追い詰める。


すると襲撃者とセシル達との間に一陣の黒い風が通り抜ける。


襲撃者の手に持った武器が手ごと吹き飛ぶ。ガジルは何が起こったのか分からない。ナタリアもあまりの事に茫然とする。黒い風は鮮血をまき散らし、襲撃者たちを切り刻む。


「お前ら立て直せ、敵は一人だ。とっ捕まえろ」


ガジルは恐慌する仲間たちを叱咤激励し、その風を捕まえろと騒ぎたてる。でもその風は留まらない、いや止まらない。一振り毎に敵を捕らえて、切り刻む。後方にいたエリクも目を見開いて、言葉をこぼす。


「又、あなたですか。本当に忌々しい」


エリクはこの場にいては危険とばかりに、その場を去ろうと試みる。


「あなただけは逃がさない」


ナタリアが逃げようとするエリクの機先を制して、その腕を切り落とす。


「グァァァ」


逃げようとして薄れていた実体が、再び顕在化するとエリクがナタリアを睨みつける。


「あなたもつくづくしつこいですね」


エリクはナタリアに対して、魔法で障壁を張り、距離を置くとそのまま実体を薄くする。


「この腕の代償は必ず払っていただきますよ、それでは私はこの辺で」


ナタリアは障壁を迂回して再びエリクを切り付けるが、今度は間に合わず、その剣が空を切る。


「くそ、次こそは必ず」


ナタリアは悔しげな表情を浮かべがら、エリクが消えた場所を睨みつけた。


その頃黒い風は暴風となり、ホール内の敵を席巻していた。既にその場にいた半数はたったひとりの人間に倒されている。


「てめえ、一体なんなんだ。ありえねぇ、ありえねぇぞ」


ガジルは崩壊寸前の自陣に対し、驚愕の表情を浮かべている。後方にいた襲撃者たちは既に戦意を喪失し、逃げ出すものまで現れている。ガジルも挫けそうになる戦意を奮い起こして、何とかその場にとどまっているが、今その場に残っていたところで、何もできないのは自明であった。シンはここで一度立ち止まり、リーダーらしき男に剣を向け、淡々と言い放つ。


「ここで死ぬか、捕えられて地獄の責め苦を味わうか、今すぐ選べ。もはやお前らは許されない」


「ふざけるな、あと少しだったんだ。お前さえいなければ、お前さえっ」


ガジルはそう言って、その剣を振りかぶりシンに切りかかる。シンはさめた目線で相手を見るとその剣をよける事もせずに、振り下ろされる前に自らの剣を相手の喉に突き刺す。


ガァッフッ


口から血が零れ落ち、ガジルはあっけなく絶命する。残っていた襲撃者たちは喚き声をあげながら。一目散に逃げ出す。シンはそれを追う素振りを見せず、剣についた血糊を払って、鞘にしまう。そしてセシル達に振り向き、弱々しく微笑んだ後、辛そうに事実を伝える。


「みんな、無事で良かった。フィアナも無事だ。ただ、国王陛下とアレク殿下は間に合わなかった。済まない。助けられなかった」


シンのその発言にセシルは頭が回らない。アイシャとナタリアも絶句している。そしてその場が落ち着いたのを見計らって入ってきたフィアナが目に涙を溜めながら、セシルの胸に飛び込んでいく。


「お姉様、お父様とお兄様が…」


そう言ってセシルの胸で泣き出す。セシルは茫然とフィアナの背中に手を回し、抱き留めるとシンに目を向け質問する。


「シン様、一体どう言う事でしょうか?お父様とお兄様が亡くなったなど、何か悪い冗談なのでしょう?」


シンは首を横に振って、否定を示す。国王とアレクは死んだのだと、明確に伝える。


「セシル、本当だ。本当に国王陛下とアレク殿下は亡くなられた。もう死んだんだ」


セシルは漸く頭で理解する。すると止めどもなく涙があふれ出し、泣きじゃくるフィアナを抱きしめながら自らも涙を流し、二人は抱き合いながら泣き続けた。

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