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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第4章 王都争乱
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第33話 北方のお伽話

引き続きフィアナのパートが続きます。名前だけかと思っていたハンスもよく喋ります。

シンはセシルを王宮へ送り届けたあと、そのまま王宮を出されるのだと思っていた。今回は冒険者ギルド経由での依頼であり、前回のように褒賞を授与する為ではないからである。当然、護衛の任が終われば王宮を出されるので、城下の宿屋にでも数日滞在し、ナタリアの騎士叙任式に参加した後、ヤンセンの町に戻ろうと考えていた。叙任式に参加するのはナタリアたっての希望であり、シンにしてみても、同じ講師のニックが参加する事や、かわいい教え子の晴れ姿という事もあって、二つ返事で了承した。なので、それまでは王都にいる必要があり、寝泊りする場所を確保する必要があったのだが、なぜか今、城下の宿屋ではなく、王宮の客間の一室で天蓋付きのベットの上で、寝転がっている。


「どうして、こうなった?」


理由はセシルである。叙任式は王宮であるので、それならいちいち城下へ行かずに、王宮に滞在すればいいと言い出したのだ。シンとしては、一平民である冒険者風情が、王宮の客間を使わせていただくなどおこがましいと固辞していたのだが、そこにアレクが参戦し、「君は王族の友人だから、問題ない」と言い切って、セシルを喜ばせた。どうやら最初からセシルは王宮に泊めるつもりだったらしく、予めアレクに根回しをしていたらしい。後でアレクに謝罪を受けると共に、


「君を客間に泊めて、貴族連中に白い目で見られるのと、泊めないでセシルの機嫌を損ねるのだったら、君はどちらの方が、心的苦痛が少ないと思う?」


と究極の二拓を迫られて、思わずアレクの判断に同意してしまった。そして現在に至るのである。なおアレクからは、王宮に滞在中は中庭、図書室、錬兵場などは自由に行き来して構わないと言われている。


「さすがに時間を持て余しそうだ。中庭や練兵場はこの前行ったし、図書室にでも行ってみるか」


シンはベットから立ち上がるとそのまま廊下に出る。丁度、通りがかった侍女に声をかけて、図書室の場所を確認して移動を開始する。王宮内は時折、侍女らしき人とすれ違うが静かなもので、むしろ外の練兵場の掛け声が廊下に響くのが騒がしいくらいである。それも練兵場の前から離れていくと、次第に聞こえなくなり、再び廊下は静寂に包まれる。


「前にも歩いたけど、ここも広いよな」


シンは子供の頃にきた探検を思いだし、少しだけ懐かしさを覚える。そんな事を考えながら歩いていると、気付けば図書室の前まで来ていた。シンは一応、扉をノックし、中の反応を待つ。すると暫くして中からパタパタと足音が聞こえてくる。


「どちら様でしょうか」


扉が開くと、足音の主であろう男が出てくる。


「初めまして。ヤンセンの冒険者をしてりますシンと申します。アレク王子殿下から許可をいただきまして、図書室の蔵書を拝見しに参りました。お取込みのところでしたら時間を改めますが」


シンは男の表情が不機嫌であり、悪いタイミングで来たのかと思い、へりくだった対応に終始する。


すると男が答える前に、綺麗で透き通るような声がシンの耳まで届く。


「ハンス先生、よろしければお客様を中へお通し下さい」


「しかし、王女殿下、今は貴重な読書の時間でありますし」


「いえ、王宮にいらしているお客様をおもてなしをするのも、王族の務めですから、お気になさらずに。どうぞお通し下さい」


ハンスと呼ばれた男は渋々ではありながらも、中の女性のいう事を聞いて、扉を開けて中にシンを通す。


「フィ、フィアナ王女殿下、御無沙汰しております」


「はい、シン様。ご無沙汰しております。どうぞお入り下さい。今お茶をご用意させますので」


シンは危うく愛称で呼びそうになるのをこらえて、言葉を取り繕う。フィアナはそんなシンの様子をフォローするように、穏やかに応対する。一方、それを見ていたハンスはフィアナと知り合いらしい男に更に不信感を募らせ、話出す。


「どうも、この図書室で司書をしております、ハンス・ワーグナスと申します。以後お見知りおきを。アレク殿下からは事前にお話しをお伺いしておりますので、図書室の本に関しましては、ご自由にご覧ください。こことは別の蔵書室の方は、王族と司書以外の閲覧が不可となっておりますので、そちらには立ち入らないように願います」


「突然の来訪でご迷惑をおかけします。蔵書室の件は承知しました」


「それであなたはフィアナ王女殿下とはお知り合いのようですが、どちらでお会いになられたのですか?」


ハンスの不躾な質問にシンは思わず面を食らう。フィアナを見ると、その行為自体には怒っておらず、珍しくシンが驚いたことにくつくつと笑いをこらえている。


「ハンス様はご存じないかもしれませんが、先日ここ王宮で恩賞を賜る機会がございまして、その際にフィアナ王女殿下と知り合う機会を頂戴いたしました」


「するとあなたがセシル王女殿下をお救いした英雄殿ですか?」


「英雄などとおこがましい名前で呼ばれるのは恐縮なのですが、その事をきっかけにアレク殿下より畏れ多いのですが、友人であるとのお言葉もいただきました」


今度はハンスが目を丸くする番であった。セシルを救った英雄の噂は、ハンスも耳にしていた。しかもその後の晩餐会ではセシルと華麗なダンスを披露し、社交界の若い貴婦人達の話題を独占したとも聞く。確かに見た目もこの国の男性とは違った魅力があり、立ち振る舞いも冒険者とは思えないほど、洗練されている。しかもアレクに友人とまで言われているのだ、どこかでフィアナと面識があっても不思議はなかった。


「フフフッ、今回はハンス先生の負けですね。シン様とお会いしたのは偶然ですが、私としては、ずっと前から知っているかのような親しみを持てる友人だと思っております。ですので、警戒もほどほどにしてくださいね」


そうフィアナに諭されて、ハンスは、さすがに失礼したと思い、素直にシンに謝罪する。


「シン殿、失礼しました。あまりフィアナ王女殿下の事を存じている方がいらっしゃらないので、無用に警戒をしてしましました」


「いえ、問題ないですよ。ご心配されるのは当然の事と思います。私はその辺で本を拝見させていただいておりますので、お二人は引き続き読書の時間をお楽しみ下さい」


「あら、せっかくですから、シン様も参加されませんか。今回読書いただいているのは北方諸国の伝承です。シン様の御出身のお話でもありますので、もしご興味があれば、是非」


フィアナはそう言って、シンを誘う。ハンスはフィアナがシンの出身が北方諸国と言って、ああなるほどと得心した後、フィアナに続くように、シンを誘う。


「シン殿は北方諸国の御出身でしたか。なるほど、言われてみれば、そう言う風貌でいらっしゃる。であれば、是非ともご参加いただきたい。御出身の方のご意見も聞いてみたいですから」


「そういう事でしたら、ご参加させていただきます。ただ、決して学のある方ではありませんので、意見の方は余り期待しないでいただきたい」


「はっはっはっ、勿論構いません。どんな意見でも考察するのが、学者の務めですから」


三人はそうして、北方諸国の伝承に関する文献を読書する。ハンスが読み手、シンとフィアナが聞き手である。それから大分立った頃、侍女が休憩がてらお茶を用意したのをきっかけに、その日の読書は終了し、読書に関する感想会が開かれる。


「シン様は今回の伝承はご存じだったのですか?」


「ええ、北方諸国では割と子供の頃に聞かされる、お伽話の一つですから」


「ほほう、お伽話ですか」


フィオナが質問をし、シンが答え、ハンスが感心を示す。話自体はシンが言ったように、北方諸国ではおとぎ話としてよく話されるものである。流浪の戦士が様々な冒険の果てに、神器を得て、悪い竜王をやっつけるものである。男の子であれば憧れ、女の子であれば、恋焦がれる英雄譚である。ハンスが読み上げた本の伝承はそのお伽話の元となるものなのだろう。詳細は別にして、大まかな粗筋はお伽話と酷似していた。


「ええ、確か最後は竜王を倒した流浪の戦士は、竜殺しの異名と共に英雄となって、国を成して人々を幸せにした、だったかな。それにあやかって、竜殺しの末裔なんて名乗る国も生まれたくらいですから」


「なるほど、それは興味深いですね。もし過去の遺物で神器なんてものが見つかったら、それこそ英雄譚も真実味が上がりますね」


ハンスはやはり学者肌でその実証に思いをはせる。シンは思わず苦笑して、やんわり否定する。


「それこそ、その竜殺しの末裔の国では、神器探しに躍起になったらしいですよ。でも結局は見つからなかったらしいですから」


「その流浪の戦士というのは、どこからきたのでしょう?」


「お伽話ではそれに触れられる事は無いですね。どこの誰だか分からない、逆に言うと、どこの誰でもそうなれる可能性があるわけですから、その方が、物語としては共感が持てますからね」


「確かにそうですね。でも外見に関する記述はありますよ。黒髪、黒い瞳で端正な顔立ちと書いてあります」


「それこそ北方諸国の出身者では珍しくない風貌ですからね。あまり参考にはならないですね」


シンはおとぎ話が真実だとは思っていない。確かに何か真実を含む個所はあるのかもしれないが、お伽話はお伽話である。そんな夢のような英雄に期待するには歳を取りすぎている。


「なんだか、その方、シン様みたいですね」


「確かに若くして英雄となった流浪の戦士、共通点も多そうです。シン殿なら竜殺しの末裔を名乗っても、疑われないかもしれませんね」


二人は興に乗ったのか、そんな事を言って、シンを祭り上げる。


「勘弁してください。その竜殺しを名乗った一族の末路は悲惨だったのですから。最終的には民衆の反乱に合って、一族郎党皆殺しです。民衆も期待が大きかっただけに、裏切られた反動が大きかったのでしょう」


「確かにそれもありそうな話です。さて、そろそろお開きとしましょうか。時間もいい頃合いですし」


ハンスはそう言って感想会に区切りをつけて、会をお開きにする。フィアナはこの後後宮に戻るとの事で、シンがその付添いで、後宮近くまで送ることになり、二人で図書室を後にする。


帰りの道すがら、フィオナが神妙な面持ちでシンに相談を持ちかける。


「シン、少しお話をしたいの。この後大丈夫?」


フィアナの口調は二人きりの時のものに戻っている。シンもそれに付き合うように飾らない口調で話し返す。


「うん?大丈夫だけど、どうした?」


フィアナは返事はせずに先に進む。場所を変えたいという事だろう、そう思い、先を歩くフィアナの後をついて行く。するといつもの噴水までやってきて、フィアナは足を止める。シンは改めてフィオナに話を聞く。


「フィー、何かあったのか?」


「少し相談があるの」


フィオナはそこで先日の国王に合った顛末をシンに聞かせる。シンは表情を曇らせて、頭の中で一人の人物を思い浮かべる。


「それは恐らく洗脳だよ。それの使い手にも心当たりがある。この事は俺以外に誰かに伝えた?」


フィオナは首を横に振り、


「お父様にもお話していないの。どう伝えていいか分からなくて」


「ならセシルにこの話をするといい。話を聞けば事の顛末をセシルなら理解するから。必要であれば、その場に俺を呼んでくれてもいい。それとフロイセン公爵も同じような状況だったんだな?」


シンはその話を聞いて、真っ先にアイシャの顔を思い浮かべる。恐らく彼女は既に公爵家に戻っている。洗脳だけなら解くこともできるが、それ以外の危険に晒されないとも限らない。


「わかった。セシルお姉様に相談してみる。その時シンも呼ぶね。それとフロイセン公爵も間違いなくお父様と同じ状態だった。何か線みたいなものが繋がっているように感じたから」


「ありがとう。事態は思ったより急を要するかもしれない。それとそのネックレスが役に立って良かった。念の為、魔力を補充するから、ちょっと外してくれないか」


フィオナはネックレスを外すと、シンにそれを預ける。シンはそれに魔力を込めると、そのままフィオナの首に下げてあげる。フィオナはそれを嬉しそうに待っていて、シンに言う。


「ネックレスは私の宝物なの。お父様にもお姉様にもお伝えして、褒めてもらったの。いつも私を守ってくれる。シンありがとう」


「喜んで貰って嬉しいよ。それじゃセシルの方を頼んだよ。俺は一旦部屋に戻るから」


「はい、また後程」


そう言って足早にその場を離れるシンの気配が感じられなくなるまで、フィオナはその場で嬉しそうに手を振っていた。


お陰様で初めてPV 1,000を超えて、初めて評価も頂きました!いや〜評価がつくと嬉しいです。全然ショボい数字では有りますが、ブクマも少しずつ増えています。次の目標は100Pですが、楽しく書いていますので、数字は少しだけ気にして、頑張ります!

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