表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第3章 亡国の公子
32/92

第30話 名探偵ナタリア

そんなに名探偵っぷりではないですが、なんとなくタイトルにしてしまいました。

シンは例のアレといっていた事を始めるにあたり、腰に差していた一本の小刀を取り出す。


「この剣はうちの祖先から代々伝わる家宝でね、刀身に魔法の術式が埋め込まれているんだ。術式の効果はいくつかあるんだけど、その一つに魔払いというのがある。今回はその効果を使って周囲の禍々しい魔力の禍々しい部分だけをはらう」


アイシャはその剣が小刀で一見、特別なもののように見えない事から、正直不安を覚える。


「シン先生、本当にその剣で大丈夫なんでしょうか?」


「ああ、この状態は本当の姿じゃないんだ。だから安心していいよ」


シンはアイシャの不安の意味を先読みして、そう答える。そしてアイシャをシンの背中に張り付くよう指示をして、アイシャの準備が整ったタイミングで目の前にその剣をかかげると魔力を一気に流し込みはじめる。


『何この魔力量っ、しかもあの剣、なんで壊れないの!?』


驚愕するアイシャをよそに、シンは魔力を流し続ける。膨大な量の魔力だった。普通の剣であれば、破壊されておかしくない量なのにも関わらず、その剣はむしろ更にねだるかのように貪欲に魔力を吸収していく。暫くするとその剣は眩しい位の発光と共にその刀身を伸ばしていき、小刀だったその剣は大剣と遜色ない大きさまで魔力の刃を伸ばす。


「綺麗…」


アイシャが思わず声を漏らした時、その剣に魔力を流し込むのが止む。シンは荒く肩で息をしている呼吸を整えるとアイシャに言う。


「これがこの剣の本当の形。魔剣『クサナギ』だ」


「『クサナギ』ですか?」


「祖先のつけた名前だから、その由来とかはわからないけどね」


シンはそう言って、肩を竦める。そしてその輝く刀身を脇に構えて、剣を使う体勢となる。


「アイシャ、しっかりとしがみ付いてくれ。これからこの剣を使う。それなりに衝撃があるだろうからね」


シンはそう言うと、アイシャはシンの剣の振りの邪魔にならないように気をつけながら、しっかりと抱きつく。


「いくよ、秘剣『破魔』」


シンがその剣を横薙ぎに一閃するとその膨大な魔力がもの凄い発光と共に放出され、光がシンとアイシャを包み込み、辺り一面に白い光が広がって行く。アイシャは思わず目を閉じて、その光の渦に吹き飛ばされないように、必死にシンにしがみ付く。


アイシャが再び目を開けた時には、周囲にあった禍々しいしい魔力は消え去り、シンの暖かい魔力が薄く広がっていた。目の前にあった魔石も魔力を放出することなく、綺麗な砂粒となって崩れ落ちている。


「これでなんとか大丈夫そうだね。アイシャ、もう離れて大丈夫だよ」


必死の形相でしがみ付いていたアイシャだったが、シンに言われて思い出したのか、慌ててシンから離れて、取り繕うように言う。


「シン先生、私が何も喋らないと言うのはお約束しましたが、事の言い訳は考えていただいた方がいいと思います。正直、私には思いつきません」


シンもその言葉に苦笑いをし、同意する。


「そうだよね、思っていた以上に綺麗サッパリ魔の森の魔力が消えてしまったからね…」


「全く、規格外ですわ。本当に内緒にする身にもなって下さいまし」


アイシャも呆れて、二人であーでもない、こーでもないと事の言い訳を話し合うのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


シンの放った破魔の光は瞬く間に学校敷地内に広がっていく。修練場にもその光は届き、ナタリアが目を開けた時にはそれまで漂っていた不快な空気は、元の清浄なものへと変わっていた。


『あっ。この魔力、シン先生のものと同じ』


ナタリアはその魔力を感じるとセシルと目が合う。セシルの顔はニコニコだ。


『ほら、言った通り、シン様がどうにかしたでしょ』


そうその目が物語っている。ナタリアは思わず苦笑し、周囲を見回す。修練場のあちらこちらで、


「あの光はなんだったんだ」


「なんかちょっと楽になってないか」


などの声が聞こえる。どうやら魔力濃度の異常の問題は解決したみたいだ。先ほどの魔物の咆哮ももはや聞こえてこない。セシルの得意顔を思い浮かべて、思わずイラッとするものの、やはりシン先生が何とかしたのだろう。ナタリアがそう思い、安堵していると大きな怒鳴り声が響きわたる。


「なんなんだ、これは。何が起こったんだ、こんな事あり得ないっ」


声の主のエリクは明らかに取り乱している。その様子を見て周囲の生徒も少し距離を置く。するとエリクが連れてきていた10名程の生徒が集まっているところから、一応に疑問の声が上がる。


「あれ、ここ何処だ。修練場?なんでこんなところにいるんだ?」


「嫌だ、私、教室で帰り支度をしていたはずなのに、アレ、荷物は?」


まるで自分たちが今、どういう状況なのか分かっていないかのような発言が飛び出している。先ほどまで取り乱していたエリクは、今度はその生徒達を見て驚愕する。


「なっ、パスがなくなっている。今まで繋がっていたパスが全部なくなっている…」


「先生、今の話どういう事でしょうか?よろしければ詳しく教えていただきたいのですが」


ナタリアは練習用の剣ではあるが、それをエリクの肩越しにチラつかせ、その背後から声をかける。エリクはそこで冷静さを取り戻したのか、ナタリアのほうへ向きなおると笑顔で弁明を始める。


「ナタリア君、さすがに講師に対して剣をかざすのは感心しないね。まあ、取り乱してしまった僕にも落ち度はある。あまりにも異常な事の連続で、思わず動転してしまった。済まない」


ナタリアは突きつけている剣はそのままに、厳しい目つきで質問を重ねる。


「先ほどご自身が仰っていたパスとは一体何の事でしょう」


「私は魔法師だから一応、使い魔を持っていてね。それらを繋ぐ魔法のパスが一切なくなってしまったんで、それで驚いてしまってね」


「あら、そうですか。私には彼らを見て驚かれたように感じましたが」


そう言って、ナタリアはエリクの連れてきた生徒達を見る。エリクは少しだけ忌々しさを顔に表しながら、


「それは偶々にすぎない。そもそも彼らは私の直接の教え子ではないのだから、私には関係ない」


「そうですか。私はてっきり先生が生徒達を洗脳でもして、魔力のパスを繋いでいたのかと思っていました。そう考えると、今彼らが自分の状況を理解していないのも、ここに来た時に虚ろな表情で気だるげにしていた生徒達を介抱もせずに、放っておいたのも全部説明がつきますので。何なら今後、先生がご指導されていた生徒達にもお話を伺いましょうか?恐らく何人もの生徒達が、記憶の欠落を訴えられると思いますけど」


エリクはそこで大きく笑い声を上げる。


「フッハハハッ、そうかい、そうかい。そこまで見ていたのであれば、仕方がないか。ナタリア君。正直、君を見くびっていたよ。騎士科の生徒など運動馬鹿の頭の悪い連中の集まりだと思っていたからね」


「それで先生、詳しくお話をお伺いしても」


ナタリアはその緊張を崩さず、冷静に先を促す。周りにいたニックもセシルの前に立ち、エリクとの間に立って睨みつける。周りの生徒達は完全に場の空気に飲まれ、一応に進行を見守っている。


「まあ大体、ナタリア君の言った通りなんだがね。私の魔法の得意分野は精神魔法でね。その中で特に洗脳魔法に長けている。それを使って、使い魔代わりに生徒を使っていただけの話さ。あーそうそう、今回の騒動はアーガス帝国が仕掛けたもので、直接私は関係ないよ。ちょっと手伝いはしたがね」


「あなたの目的は何?帝国を利する事が目的なの?」


「それは正解ではないね。私達魔法師は、個人の欲求のみに忠実なのさ。だから、帝国や王国がどうなろうが、正直どうでもいいのさ。今回は個人的な目的で王女殿下に用があったのだけど、この分じゃ、又の機会を待つしかないね」


「又の機会があると思っているの?」


ナタリアはそう言うとそのまま、練習用の剣でエリクに切りかかる。


カンッ


切り付けたナタリアの剣が弾かれる。結界魔法。エリクは予め、自身の周囲に結界魔法を張り、物理攻撃を無効化していた。ナタリアはすかさず、全身と剣に魔力を這わせて、強化魔法を発動する。


「ほほう。ナタリア君は本当に優秀ですね。瞬時にそれだけ綺麗に強化魔法を使えるなんて、中々いませんよ。さすがにその剣だと今度は私の結界の方が、持ちませんね、私はそろそろお暇させていただきますよ」


するとエリクの体が足元から地面に沈んでいく。


「逃がさないっ」


ナタリアは結界を強化した剣で破壊し、すぐさまエリクを切り付けようとするが、既にエリクの体は首のところまで沈んでおり、間に合わない。


「ナタリア君、今回はあなたに勝ちを譲りましょう。また機会があればその時に。ではさようなら」


「くそっ」


ナタリアはエリクが消えた場所を睨みつけながら、悔しそうに唇を噛む。そんなナタリアの元にセシルが駆け寄ってくると悔しそうにするナタリアに声をかける。


「ナタリア、女性がそんな口汚く悪態をつくのは良くありません。あのものが言っていたように、今回、私は無事でしたので、あなたの勝ちなんですから、もっと誇っていいと思いますよ」


「ありがとう、セシル。でも捕まえたかった、シン先生にも言われていたのに」


「あら、シン様に何か言われていたの?」


セシルがシンの名前が出たことに反応する。ナタリアは首肯して答える。


「ええ、シン先生が中に向われるときに、エリクの挙動が少しおかしいから注意してくれと忠告されました」


「さすがはシン様ですね。自分がいない時まで警戒されて。ナタリアもシン様に信用されているのね」


「今回は期待に半分しか答えられませんでしたが」


「あら、むしろ捕まえる事までは望まれてないと思いますよ。逆に無理をしてナタリアが窮地にでもなったら、その方が心を痛めますから。シン様はそういう方ですわ」


セシルは自虐的なナタリアを励ましながら、自身の率直な意見を言う。ナタリアはそれに答えて


「そうね。そういう方ですよね。先生は…」


ナタリアはそこで言葉を切り、胸の内で、言葉を続ける。


『でも私は、先生の期待以上ができる存在になりたい。だからもっと強くなる』


そう心で誓うのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ