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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第3章 亡国の公子
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第23話騎士候補生

貴族子息グループの敗戦は明らかに生徒達の意気を挫いていた。本来であれば圧倒的に有利な条件下で、結果は完敗である。恐らくもう一度彼らが戦ったところで、勝ち目はない。彼らとそう差のない実力しかない貴族子息達は、完全に尻込みしていた。


「では次、戦うものは」


ニックが、そう言うと一人の少女を先頭に5名のメンバーが前に出てくる。


「次は私達のお相手をお願いします」


先ほどのシンの動きを見て、評価を変えたのだろう。今度はきちんとした礼で申込をしてくる。少女はシンに正規の剣術を求めた生徒で、その生徒たちは全員騎士志望の生徒だった。


王国軍の中では騎士という職務は、王家直属の近衛の部隊にのみに与えられる。通常の軍は兵士と呼ばれ、そこから近衛の騎士に転属するものはほぼいない。近衛は近衛として採用され、一騎当千たれがもっとうの為、強さが求められる。と同時に王家直属という立ち位置から、品行方正たれとの訓示もあり、その人柄も採用基準として重視されている。今回態度を改めた生徒達は、実力はともかく性格的には合格点だった。


そのグループの恐らくリーダーだろうその少女は、先ほどの戦いで気になった事を聞いてくる。


「シン先生は剣を使われないのですか?」


シンは、相手の意図が真剣に戦ってほしいという気持ちからだとわかってはいたが、涼しい顔で挑発する。


「相手の実力がそれに足るのであれば、使うよ。少なくても先ほどの試合には必要なかったけどね」


「ならば、必ず剣を抜かせて見せます」


少女は真摯な表情で、そう宣言する。シンはその真っ直ぐな瞳に好感を持ったが、肩を竦めて開始線の方へ行く。


ニックはそろそろ頃合いか、と思い双方に声をかける。


「そろそろ、準備はいいか?」


「ニック先生、少しだけ待って下さい」


少女はそう言うと、他のメンバーを集めて話始める。シンはそれを見て、目を細める。


『今度は多少警戒する必要があるな…』


今度のメンバーは、事前に意思疎通をし、お互いの長所を生かして、連携する意思が見える。先ほどの少女もリーダーシップをとり、メンバーを上手くまとめているように見える。シンは警戒もしていたが、それ以上に楽しみにも感じていた。


「先生お待たせしました。準備は結構です」


ニックはそれを聞いて、シンに目線を合わせるとシンは首肯する。


「それでは、第二試合を開始する、用意、始め!」


開始と同時に生徒達は陣営を組む。前衛二名、中衛一名、後衛二名。中衛には先ほどの少女がいる。全体を俯瞰し、指揮をとるイメージなのだろう。そして先ほどの生徒達とは異なり、むやみやたらに突っ込んでこようとはしない。まず後衛が時間差で火球と風の刃を放ってくる。シンはその二つを、その場のサイドステップで躱す。後衛からは距離がある為、躱すのに苦労はしない。と同時に前衛と中衛の計三名がシンに向って一気に迫ってくる。シンは迫ってくる三名に向って、むしろ一気に距離を詰める。前衛の二名は近づいたことで、目測を誤り、簡単にシンを懐にいれてしまう。シンは、一番体の大きい生徒の鳩尾に掌底を入れて昏倒させると、その体を中衛の少女へぶつける。


「きゃあっ」


少女が悲鳴を上げて、大柄の学生と衝突している合間をぬって、後衛二名に突進する。後衛二名は抜けてきたシンを見て、魔法は間に合わないと判断したのか、脇に差した剣を抜き、シンに切りかかる。シンはそれをサイドステップで躱すと、その腕に手刀を入れて、剣を叩き落とす。するとその隙をぬって、もう一人の後衛がシンに迫るが、今度は大きくバックステップをして、距離をとる。


「深追いは止めなさい。一対一では勝てません」


大柄の学生との衝突から持ち直した少女が、残った後衛の学生に指示を出す。


「うん、懸命な判断ですね。あのまま向かってきたら、そこの彼はやられていたでしょう」


シンは冷静な判断を下した少女に対して、素直に賞賛の声を上げる。逆に少女は忸怩たる面持ちで、


「まだ、数的に有利です。チャンスはあります」


そう言って周りの仲間を鼓舞する。


「さて、次はどうしますか?三人で特攻でもしますか?」


シンは少しいじわるかなと思いながらも、三人で何ができるんだと心を折りに行く。


「まだです。奥の手を出します」


そう言って少女は両脇の生徒と目配せをすると、両脇の生徒は、手と足の部分に身体強化を、少女は身体強化の術を全身に使う。これが彼女達の奥の手なのだろう。三人が一度シンの周囲に散開した後、三人同時で、一気にシンに向ってくる。シンはそれでも慌てない、三人のスピードをよく計り、その足元を観察する。三人は同じ身体強化をかけたとは言え、その速度に個体差は生じる。シンは、一番素早いのを右の生徒と判断すると、足さばきから、その剣の軌道を判断し、それを躱す。そして二番目に早い生徒はそれを躱さず、その脇腹に掌底を入れる。全身強化の少女は、その二人を陰にして、そこからバックステップで距離をとる。しかしその間合いは、躱された生徒がすぐさま詰めてくる。シンは、やはりその剣の軌道を足裁きを見ながら予測して躱す。躱された生徒は驚きの声を上げる。


「なんで当たんないんだ!?」


シンはその驚いた一瞬の隙をついて、手首に手刀をついて剣を落とす。


「貰ったっ」


少女が今度はシンが手首を払った一瞬をついて、その剣をシンにおろす。


キィンッ


金属音が重なり合う音。シンがその剣を抜いて、少女の剣を弾いた音だった。少女は歓喜の表情を浮かべて、


「やった、剣を抜かせた…あっ」


と喜んだのもつかの間、シンによって手に持った剣を落とされてしまった。


「ナタリア・クーチェス、アウト。勝者シン」


ニックが高らかに、勝者の名乗りを上げ、第二試合の幕が閉じた。


シンは、第二試合のメンバーを集め、今回の反省会を始める。ニックにも付き合ってもらう。騎士科の試合に参加していないメンバーも周りで聞いている。


「では皆さんに質問します。正規剣術の欠点を私はわかるように体現しました。それが何だかわかる方はいますか?」


すると少女の以外で最後まで残った生徒が手を上げて答える。


「最後、身体強化をかけて攻撃をしているのに、あたる気がしませんでした。剣筋を読まれているような気がしました」


シンとニックは顔を合わせてニッっと笑みをかわすと、


「正解です。厳密には、その足裁きと剣の速度を見て剣筋を予測してました。正規剣術の良いところはその威力にあります。威力を出すには土台がしっかりしている必要があり、足裁きもある程度、体系化されています。その分予測が立てやすくなるのが欠点と言われています」


シンが、正規剣術の良い点、悪い点を指摘するとニックがそれを引き継ぎ、


「騎士はベースを正規剣術としているが、正規剣術のみを修めて良しとする人はいない。シン先生が指摘した欠点は騎士でも認識されており、実用性に乏しい。なので、ある程度、騎士科の面々が正規剣術を習得した頃合いで、シン先生のような、それ以外の剣術を使える講師を呼んで、このような模擬戦をする」


すると、最後まで残った少女が少し不満げな表情をして、


「それでは最初から、先生達で示し合わせて生徒達を煽っていたという事ですか?」


ニックはそれを聞いて、悪びれもせずにそれに答える。


「まさにその通りだな。ただ実践でしか感じれない事もある。納得できない事もな。それで実際に戦ってみてどうだった」


生徒達は口々に、シンに対する賛辞の言葉を言ってくる。最後に少女が、嬉しそうに言う。


「でも最後にシン先生の剣を抜かせました」


するとニックが、少し呆れたように、突っ込みを入れる。


「ナタリア、あれ、おまけだぞ。あのタイミングで剣で防げる人間が、躱せないわけないだろう」


「もう、人が喜んでいるのに、そんな事言って。ニック先生嫌いです」


少女が涙目になって抗議する姿に、騎士科の面々は大爆笑をするのだった。


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