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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第3章 亡国の公子
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第21話 帝国の暗躍

王都編が終わり、次のパートです。

「して、此度の失態の責は、どうとってくれるのだ?」


アーガス帝国玉座の上で肩肘をつきながら、虫けらを見るかの如き視線を投げつける皇帝より、冷酷無比な言葉を受けるその部下達は震えながら、弁明する。


「おっ恐れながら申し上げます。此度計画通り事は進み、後一歩のところで無用の邪魔立てが入りました。その邪魔さえ入らなければ、皇帝陛下の御前にセシル姫をお引き立てする事が出来ました。何卒、もう一度機会を頂戴できれば、次こそは必ず、お引き立てさせていただきますので、何卒、何卒」


その部下達は、セシルを襲った盗賊たちであった。厳密には盗賊を装った帝国兵である。先のリザラス領領主代行ルイーズの手引きにより、国境を越え、カストレイア王国に潜伏。盗賊を装って、馬車を襲撃したまでは良かった。王女も捕え、後一歩のところまでいったのは、事実であり、嘘偽りわない。ただ、邪魔さえ入らなければである。結果は失敗。恐らく皇帝にしてみれば、惜しい惜しくないは関係なく、結果がすべてである。もし合っても次のチャンスが最後。最悪はチャンスもなく、この場で引導を渡される、それだけは、避けねばならない。なのでその男は、平身低頭で、頭を床にこすり付け懇願する。


「その方らにできるのか?今この場で楽になった方が、よいのではないか?代わりをするものは他にもおるぞ」


皇帝はその者達の命には全く興味を示さず、暗に早く死ねと言ってくる。


「恐れながら、既に次の手は打っております。後は行動を起こすのみ。機会をくだされば、必ずや、成功させてまいりますので、何卒、お願い申し上げます」


「次は無いぞ」


「ははっ、承知しております。成功するまでは、生きて帰ってくることはございません。必ずやはたして見せましょう」


九死に一生。まさにその男達の首の皮が一枚繋がった瞬間であった。男たちは、頭を床にこすり付けながら、喜び喚起する。皇帝は既に男達に興味がなくなったのか、冷たく突き放す。


「もう良い、ここに入ても時間の無駄だ。さっさと去れ」


男たちは儀礼的な挨拶もそこそこに、逃げるように立ち去っていく。するとその皇帝の脇より、一人の男が現れる。


「陛下、よろしかったのですか?あのようなものたちに、またの機会を与えて?」


「良い。成功しようが、失敗しようが王国内はそれなりに騒がしくなろう。それより例の事の進捗はどうだ?」


「やはり鍵が足らないようです。まだ調査をしている段階ですが、かの国にはまだ秘密があるようで」


皇帝は少しだけいらだった表情をうかべ、


「かの国を落とすのに五年の歳月がかかり、その後三年もたつのにまだ、手に入れられぬか。アレの不満を受ける身としては、本当に腹立たしい」


脇に立つ男は深く腰をおり、謝意を示す。


「陛下のご心労は重々承知しております。その段は引き続き、調査進めさせておりますので、今しばらくの御辛抱を」


「頼むぞ。アレにとって此度の件は死活問題だからな。それは我が帝国をも左右する」


「御意」


皇帝は玉座から眺める伽藍洞の光景を眺めながら、苛立ちを収めるように、もう一度肩肘を付き、深々と王座に身を沈めた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


シンは見慣れた城門の下までくると、馬上で大きく手を広げ、伸びをする。


「ん~~、やっと帰ってこれたな」


思わず声がでる。王都での式典に出る為に、移動も含めて一ヶ月近くはヤンセンの町を離れていた。こうして戻ってくると、やはり帰ってきたという気持ちがわき上がり、このヤンセンの町にそれなりに愛着があったのだと実感する。


王都では正直、色々な事があった。中でもフィーと再会したことは驚きであったが、少なくてもシンの知る限りでこの世界で、シンの事をシン・アルナスだと知っている人物がいる事をうれしく思っていた。もしかしたら、今後一生名乗らなかった名前かもしれないのだ。うれしくないと言ったら嘘になる。シンは自分の事をやはりアルナスなのだと実感するきっかけを与えてくれた少女を思い浮かべ、ひとりでに微笑する。


城門をくぐり、シンはまず先にギルドに歩を進める。馬自体はギルドに借り物である為、その返却と、王都での出来事を報告する為である。勿論、フィーの事、アルナスの姓は引き続き伏せる事になる。ギルドで話しても、詮無き事だ。それに王城でチラホラ聞いていた噂も気になる。リザラス公がお咎めなしとなったことで、高まる貴族派の不満である。ここヤンセンの町で入る情報は、王都のそれよりも遅いだろうが、ここは軍が近い。なので、王宮よりもそれらの情報は入るかもしれない。場合によっては挨拶がてら、軍に顔を出してもいいとも考えていた。


シンはギルド前までくると馬を下りて、ギルド裏の厩舎へ馬を預けに行く。そしてそのままギルドホールに向う。


「シンくーん、帰ってきたの?」


受付でシンの姿を見つけたメルが、大きく手を振って、シンを呼びかける。シンはそのまま、メルの方に向っていき、その前まで行くと笑顔でメルに話かける。


「はい、今さっきついたばかりです。ただいま、メルさん」


「お帰りなさい、シン君。中々帰ってこないから、もう帰ってこないんじゃないかって、心配しちゃった」


「いやいや、流石に一介の冒険者が王宮にいるのは、精神的にすごく疲れますので」


正直、王宮では王女姉妹に振り回されっぱなしだったので、精神的に疲れたというのは事実である。それと晩餐会後の貴族たちの各種お誘いは断ることに苦労した。よくもまぁ一介の冒険者にそこまでアプローチしてくると思ったものである。


「フフフッ、でもこれで暫くはヤンセンの町にいられるのかしら」


「ですかね。俺自身の予定は特段ないですから。もしかしたら春の時期くらいに旅に出るかもしれませんが」


「えっまたどこかに行っちゃうの?」


「まだ決めたわけではありませんが。少し思うところがありますので」


「ずるいな、一人でどっか行っちゃうなんて。駄目よ、私、弱気になっちゃ。来年の春まではここにいるんだから、頑張らなきゃ」


メルはシンには聞こえないような声で一人ブツブツと言っている。シンはそんなメルの様子を見て、不思議そうに言う。


「メルさん?どうかしましたか?」


「ううんっ、なんでもないの。それよりシン君ギルマスに会いに行くの?」


メルは大慌てで顔を赤くして、話をはぐらかす。シンはますます不思議に思いながらも、あまり深く追及するのは得策ではないと感じて、その話に乗る。


「はい、王都での事を報告に。ハワードは執務室にいますか?」


「ええ、いるわ。では案内しますね」


メルは赤い顔はそのままに、そそくさと執務室まで案内をする。


シンは執務室通されると開口一番、ハワードに報償にことを聞かれる。


「シン、それでいくら貰ったんだ」


「ハワード、言っている意味がわからない。何の事だ?」


ハワードはそれを聞いて、ニヤリと笑い、


「金貨100枚か、200枚か?」


シンはそれを聞いて、溜息をつくとハワードにはっきりと言う。


「教えるかっ。そんな話しかないんなら、もう帰るぞ」


「まぁいい。それよりお前、取り敢えずランクをBに上げといたぞ」


ハワードは、報償の金額を教えなかった意趣返しのつもりか、そんな事をシレッと言う。


「メルさん、ギルドのランク制度が崩壊している気がするんだが、気のせいかな」


「シン君、残念ながら、おめでとうございます。国王陛下から直々に報償をもらうくらいの活躍なので、ギルドしても、ランクを上げざるを得なかったんです。でも私個人は嬉しかったので、全然問題ありません」


シンはランクの件に関しては、全く頼りにならないメルを見て、がっくりする。


「それで早速Bランク冒険者様にご依頼があるんだが、受けてくれるか?」


「ちなみにそれに拒否権は?」


「ないな。下手したら、嬢ちゃんが絡んでくる案件になるからな」


シンはハワードの言う嬢ちゃんの事を思い浮かべ、再びがっくりと肩を落とした。


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