第19話大きくなった英雄と銀色の姫<前半>
大きくなった銀色の少女とデートするお話しです
晩餐会の翌日、シンはあの噴水の前に来ていた。とある女性と会う為である。その女性の名は、フィアナ・フォン・カストレイア。この国カストレイア王国の第2王女であり、アレクとセシルの妹でもある。そしてシンが、一度だけ、子供の頃に遊んだ相手でもある。シンは噴水に来る頃には、はっきりとその時のことを思い出していた。
銀色の髪と銀色の瞳を持った盲目の少女。シンはその当時、彼女が盲目とは気付かずに、城下へと連れ回した。今思えば、大問題になると思うような事だったが、まあ子供のした事だと思いたい。自分のした事ながらである。そして今日シンがいるのは、まさにその大問題を再び起こす為だった。そう、フィアナが望んだのは、また城下に遊びに行きたいと言ったものだった。
そしてシンは何度目かの溜息を噴水前で吐く。すると木陰の脇にある細い散歩道からヒョコッと銀髪が顔を覗かせる。
「シン、少し待たせた?」
シンは被りを振り、
「フィー、俺もさっききたところだから大丈夫。それより後宮から居なくなって、騒ぎにならないか?」
「はい、大丈夫です。今日は王宮の図書室で司書のハンスから、お話を聞く予定にしているので」
シンは会った事もないハンスに同情しつつ、フィーの手を握り、先へ促す。
「じゃあ、行くか」
「はい」
フィーは子供の時と同じように満面の笑みで頷いた。
今回の大冒険にあたり、フィオナが望んだ事は二つある。
一つは、フィオナをもう一度、城下へ連れて行くこと。もう一つは、お互い昔のように話す事。シンにしてみれば、二つとも溜息が出るような内容なのだが、それがアルナスの姓を隠す条件と言われている為、承知せざるを得ない。それでなくても、フィーの母親である王妃との約束を忘れていた負い目もある。そして何より楽しげな表情を浮かべるフィーの顔を見ると、断ると言う選択肢は頭の中で存在し続ける事が出来なかった。
さて問題はどうやって、城門を抜けるかである。子供の頃はその身の小ささを最大限利用して正面突破をしたが、さすがに今やって見つからない自信は全くない。ただこれに関しては、フィーの方にアイデアがあるらしく、連れてこられたのは後宮の建物の一室だった。
「昔お母様に、シンとの冒険の話をした時に、もっといい抜け道があるわよって教えてもらったの」
そう言ってフィーが嬉しそうに案内してくれたのが、この部屋だった。暖炉の後ろに仕掛けがあり、その仕掛けを引っ張ると地下への階段が出てくる。シンは内心でこの隠し通路を外部の俺に教えていいのか?と疑問符を頭に浮かべていると、フィーがシンの気持ちを読んだのか、
「お母様がシンなら安心だから、教えていいって言ってたの」
と屈託のない口調でそう言う。シンは王妃の先読みに唖然としながらも、フィーと二人で階段を下り、別の仕掛けで入り口を閉じる。そうすると魔法なのだろう、廊下が青白い光で照らされて行く。シンはフィーの手を握るとそのまま奥へ歩き出す。
「フィーは出口が何処にあるのか知っているのか?」
「行った事はないけど、神殿に繋がっているって、お母様が言ってました」
「そうなのか。そっから市街まではちょっとあるかもしれないな。フィー歩けるかな?」
シンはそもそも、出かけ慣れていないフィーの体力を不安視する。
「あまりいっぱい歩くようだと、歩けなくなるかもしれない」
フィーも余り体力には自信がないのか、自らの体力に疑問符をつける。
「そうか、なら移動は俺が何とかするか」
「またおんぶをしてくれるの?」
「いいや、今度は抱っこだ」
そう言って、シンはその場でフィーをお姫様抱っこする。フィーはそうするとシンの顔をペタペタと触ってくる。
「わっコラ、フィー、止めろ」
「ウフフッ、シンの顔が近い。私、こっちの方が好き」
フィーは顔を近くによせて抱きついてくる。髪がシンの顔に少しかかり、良い香りがしてくる。シンは少しだけドキマギすると、上ずった声で、
「フィー、ちょっとくっつき過ぎ。前が見えない」
二人は隠し通路の中をそんな風にワーワーと騒がしく走っていった。
神殿側の出口は、王族の墓所にあった。シンは周囲を探った後、人の気配がない事を確認するとそっとその場を出る。開閉は、後宮側の仕掛けと同じだった為、開け閉めは簡単だった。
神殿の中は流石にフィーを抱っこして移動するには目立ちすぎる為、手を引きながら移動をする。フィーは子供の頃と同じように、シンに触れてさえいれば、終始ニコニコしており、今も嬉しそうについてくる。
神殿は城下から少し離れた小高い丘の上にある。行きは下りだからまだましだが、帰りは上りの為、また抱っこをして上がってこないといけない。幸い、神殿への礼拝客はまばらで、自分たちも歩くのに精一杯なのか、あまりシン達に注目するものはいない。貴族が礼拝にくることもあるので、フィーを見ても驚く素振りは見せない。
二人はそのまま連れだって手を繋ぎながら城下町を目指して歩いていくと、坂を下りきったあたりから、チラホラと民家があらわれ人の気配が増え始める。シンはフィーを気遣うように表情をうかがいながら、確認をとる。
「フィーは今は怖いの?だっけ、それは感じないのか?」
「はい、シンといる時は大丈夫。でも普段は怖いのは感じてしまうので、極力人とは会わないようにしているんです」
「んっ?普段は感じるのか?そもそもその怖いのってなんなんだ?」
シンはてっきり克服したのだと思って、首を傾げると、恐怖の原因に疑問を持つ。フィーは、そう言えば、シンには説明したことがなかったと思いいたり、簡単に説明をする。
「私が怖いと感じるのは、人の負の感情?らしいのです。お母様が言うには、人はいい事も悪いことも考えるから、特に悪いことを私は感じとってしまうと言ってました」
「悪意を全部感じれるのか?それじゃ、こんな人だかりの中にきたら、やばいんじゃないのか?」
シンはあわててフィーを心配する。するとフィーはクスクスと笑い、
「シン、私は何度も言ってますよ。シンといる時は、シンと触れている時は大丈夫だって」
シンはそう言えば、と頭を掻いて次の質問をする。
「でもなんで、俺といると大丈夫なんだろうな?俺も悪いことを考えたりするぞ」
シンは自分の事を聖人君子だと思った事は無い。むしろ、今でこそ感情の起伏を抑えているが、子供の頃などは喜怒哀楽ははっきりしていたと思う。自分が、フィーに対して直接的な悪意を抱いたことは無いが、全部という事は、自分に向けられているいないに関わらず、感じてしまうものなのだろう。であれば、シンが悪い事を考えている時にフィーが近くにいたら怖がられるのではないか、と思った。
「フフフッ、ご心配はご無用ですよ。シンは私の特別ですから」
「特別?」
「はい、特別です。なんでもお母様が昔、シンと会った時に確かめたと言っていましたから。私もそう思いますので、特別なんです」
シンは何やら、フィーの母親の手のひらで転がされている感覚になる。そう言えば、フィーと再び会う約束をしたときに、手を握らされたっけ、そんな事を考えながら、自分の何が特別なのかを考えると、ふとこれかなというものに思い当たる。そんなタイミングでフィーから話かけられる。
「シン、何かすごくいい匂いがする」
シンが周りを見回すと、だいぶ城下町の中に入ってきたのか、露店がチラホラ見え始めており、その内の一つが昔の来た時に食べた串に肉を刺して焼いている串焼きの店だった。
「フィー、一つ買って食べてみるか?」
「うん、食べる」
シンはそこで店の店主に声をかける。
「店主、そこの焼きたての奴を1つくれ。それとこのあたりで、魔道具のおいている店はあるか?」
店主は焼きたての串を一本シンに渡すと、魔道具の置いてある店と考え始める。
「ああ、そこの大通りを少し行った先の路地を1本入ると、赤い屋根の店があるからそこで聞いてみな?そこの店主が確か魔法が使えるとか言っていたから」
「ああ、分かった。そこに行ってみるよ」
シンとフィオナはその場で、ハフハフと焼きたての串焼きを食べた後、その店に向かった。
短編小説を読むと、繋がりやすくなると思います。特にお母様。




