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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第2章 銀の姫
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第15話 それぞれの思惑

セシルとシンの一行は、予定通り翌日に、王都へ到着する。


王都では着くと早々に、セシルとは別れ、国の宰相であるテオドールと面談する事となる。恩賞に関する要望を確認する為だ。テオドールは生真面目な印象を与える壮年の男性で一つ一つをきちんと確認し、テキパキと判断を下していく。後で聞いた話だが、元々官吏畑の出身で、有能さを買われて宰相まで上り詰めた人物らしい。


「そうすると君は、爵位を受ける事には興味がないという事で、良いかね?」


「それで構いません。元々一介の冒険者ですので、一攫千金は求めても、地位は求めていません。学もないですし。なので、褒賞は金品で構いません」


「まあ、冒険者の回答としては、よくある話だがね。私にしてみれば、貴族・諸侯で君以下のものはいくらでも思い付くが」


テオドールは、手元の資料を確認しながら、シンにそんな事を言う。面談にあたり、いくつか情報提供を求められており、その資料はシン自らしたためた為、資料を見た感想としてそう思ったらしい。


「勿体無いお言葉ですが、分不相応として下さい。それよりも今後、私はどのように式まで過ごさせて頂ければ宜しいでしょうか?」


シンは、結論が出ている以上、この話を続けるのはあまり意味がないと思い、話を今後に持っていく。テオドールもそこまで追求したいとも考えず、その話にのる。


「式の開催は5日後。そなたは、王宮への参内は初めてであろうから、事前に作法を学んでいただく時間は取って頂く。寝泊まりは、王宮内の客間を用意してあるので、そこを利用するように」


「城下への出入りは可能でしょうか?」


「そこは申し訳ないが、式が終わるまでは、控えていただきたい。あまりそなたに無用な疑義を与えるのも宜しくないのでな」


シンは想定内の回答だったので、その話に首肯した。


「承知しました。問題はございません。出来れば、体を動かせるような場所はございますでしょうか?日々の鍛錬は続けたく考えております」


「それならば、王宮内の軍の鍛錬場を使うと良いだろう。軍の隊長には話を通しておく」


「ありがとうございます。それでは、そこで過ごさせて頂きます」


そうしてその日の面談は終わり、シンの式典までの日々は、その軍の兵士達との鍛錬と式典の作法を覚えるのに、費やされていく。


国は国でその5日間は慌ただしかった。シンの恩賞が呆気無く決定したのは僥倖だったが、そもそもアーガス帝国の陰謀から端を発している事件である。加えて、その国防の要というべき、リザラス家のお家騒動も絡んでくるのである。政治的な駆け引きも軍内部の権力争いも相まって、事態は紛糾していた。最終的に王の決断で諸々断行する事となるが、結果、火種が燻り続ける事となる。特に今回の顛末で、事の発端であるリザラス家の不祥事に対して、その当主であるバクス公へ処分なしの判断は、対外的には妥当な判断であるが、国内に目を向けると、不満の残るものだった。特に政治側の貴族の不満は大きく、これを機に軍部への介入を考えていた貴族達は、今の王族では、軍部を抑えていけないのではと、王族批判の声が上げるものまで出ていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「此度の王の裁可は非常に残念でございましたな、フロイセン公爵」


王宮内の一室、フロイセン公爵が執務ようにあてがわれた部屋で、深夜の密談が行われている。フロイセン家はカストレイア建国時から連なる名家であり、貴族派の長たる家柄である。過去には王族への外戚に名を連ねていたこともあり、王とは言え、その発言には一目を置いている。そのような人物が派閥の下のものより、王への批判とも取れる発言に対して、どの様な反応を見せるのか、派閥のもの以外でも気になるところである。


「王の裁可は、理解できる。ここ数年は、中の平定に尽力していたとは言え、此度のアーガスの行動は、それが落ち着いたと見るべきではなかろうか。であれば、軍部を割るような判断はなされまい。ただし、あくまで北の介入が事実としてあった場合のみは、だろう」


「御意。此度は英断として派の意見は統一致しましょう。ただし、本当の判断は、あくまで北の動向次第との事ですがね」


「それにしても北も存外にだらし無い。たった一人の冒険者に王女が守られるなどと。お陰で無駄な出費がでました」


「そのようなことは些事に過ぎない。むしろ気前よく対応しておけ。英雄とはその名のみで、利用出来るものだ。むしろそれで都合よく、腰巾着にでもなったら、儲けものだ」


「公爵の深謀遠慮誠に恐れ入ります。兎も角、今はまだ雌伏の時ですな」


フロイセン公爵はそれには答えず、満足気な表情をかえすだけであった。

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