町に来ました
「お土産まっ」
聞こえたのはそこまでだった。
次の瞬間には、ユークとプレナは森の中にいた。
「おー、便利だな。移動魔法って。で、何で森の中何だ?町は?」
「ここから歩いてすぐです。町中にいきなり出てきたら、誰だって驚くでしょう?その配慮です。」
そういうことか。
て言うか、時々こいつ語気が強くなるな。
秘書だから真面目に振る舞っているだけで、根は違うのかも。怒らせないようにしとくか。
「じゃあ行くか・・・っと、この格好でホントに大丈夫か?」
親父は大丈夫だとか言っていたが、魔族だとバレないだろうか。
もし、俺が魔王だとバレてしまったら、きっと町中を追いまわされることになるんだ。
あ、俺は元ニートなだけであって、引きこもりではないからな。他人に会う分には問題ない。疲れるけどな。
「断言はできませんが、平気でしょう。そもそも、人間と魔族・・・に限らず、人型の種族に大きな違いはありません。私も人間を深く観察したことがないので詳しくは分かりませんが、些細な違いしかないことでしょう。じっと観察でもしない限り、まず魔族であると気付く者はいないでしょう。町中であれば、人間が多いので尚更です。」
あーうん。まぁ大丈夫ってことか。
「では改めて・・・行きますか!」
「ええ。行きましょうか・・・はぁ。」
・・・・・・・・・
森を歩くこと僅か数分。目の前に高い塀が現れた。
ホントに近いな。これならちょくちょく来られるかも。
とりあえず、塀に沿って歩いていくと、やがて人の騒めきがするようになった。
「ここが入り口か。」
大きな門。脇には槍を持った兵士が立っている。
「立派なもんだなぁ。」
感心して見上げていると、兵士が話しかけてきた。
「ようこそ。クレムリドームへ。観光ですか?ここは魔王の城が近い町なので、頑丈な塀で囲まれているのです。モンスターが入りこむ隙はないので、安心してください。」
「え、ああ、どうも。」
「ここから自由に出入りできますよ。」
兵士が差したのは、門のすぐ横についている小さめのドア。
「どうもどうも。」
返事が多少変になってしまったが、まぁ及第点の対応だろう。さすが俺。
町中は何というか・・・オシャレって感じだな。
にぎわっているのはもちろんのこと、花屋やら喫茶店やら噴水やら・・・いかにも観光地って感じだ。観光地なのかどうか知らんけど。
「じゃあ自由行動ってことで。そうだな・・・今が12時手前くらいだから・・・3時くらいを目安にそこの噴水前に集合ってことで。じゃ。」
「え?」
驚いた表情を見せたプレナに見向きもせず、ユークはそれだけ言うとさっさと行ってしまった。
そして、取り残されたプレナは、困惑した表情で辺りを見渡すのであった。