手遅れの告解
嗚呼、神様。
彼の魂を受け入れて下さい。
左手の薬指に、彼の瞳と同じ美しいエメラルドの指輪をしている青年です。
どうか彼の清らかな魂を天へ召させてくださいませ。
嗚呼、神様。
貴方の御心に感謝致します。
彼に会えるだなんて、これほどの幸福はありましょうか。
嗚呼、神様。
この気持ちをどう言葉で表せばよいのでしょうか。
彼が天の遣いになるだなんて。
どうか彼の御霊の全てが貴方に捧げられんことを。
嗚呼、神様。
これほどの苦行がありましょうか。
いくら身を裂いても足りない苦痛がありましょうか。
彼が消えてしまったのです。
私の目の前に在るのは彼の皮を被った得体の知れないものです。
何故解るのかって?
神様とあろうお方が不思議なことをおっしゃりますね。
以前に話したじゃあないですか。
貴方の事ばかり話す彼は最早私の知らない何かなのです。
どうかこの化け物を退治してください。
どうか彼を返してください。
嗚呼、神様。
私を褒めて下さい。
化け物退治を成すことが出来たのです。
貴方を見つめるその瞳を刳り貫いたら、貴方の名に触れるその唇を引き裂いたら、貴方と契を交わしたその腕を焼いたら、貴方の元へ行かんとするその脚を切り刻んだら、貴方の言葉を吸い込んだその肺を取り出したら、貴方が産み落としたものを望むその内臓を溶かしたら、貴方が丁寧に詰めた綿のようなその脳みそをゴミ箱に棄てたら、誓いの口づけがされていない薬指を叩き潰したら、化け物は消えていったのです。
でもどうしてでしょう。
化け物を退治しても、彼が戻ってきません。
赦しなんて要らないの。
どうか彼を返して。
嗚呼、神様。
私の魂を受け入れないでください。
私の魂を彼がいる地獄へ導いてください。
貴方に奪われるぐらいなら。
彼を抱きながら業火に焼かれたい。