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子爵令嬢は自由になりたい【連載版】  作者: と〜や
第十一章 子爵令嬢は客をもてなす

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96.子爵令嬢は王都に想いを馳せる

 読み終えた便箋を机の上に置いて、わたしはため息をついた。

 今日は色々とありすぎたわ。……なんだかこのところため息ばかりついている気がする。


 いつもにもまして分厚い封筒には、五人分の手紙が入っていた。


 ライラ様からはいつもの季節の挨拶と、妹君の話、それから領内で行なっているという選考会の話。

 チェイニー公爵家は武門の家柄で、現当主も将軍職にある。配下の私兵から優秀な者は王国騎士団に推挙しているのは知っていた。

 その優勝者に冠を授ける役目を今年から妹君に譲ったのだとか。

 ライラ様から栄光を授かることを夢見ていた人も多いのではないかしら。……妹君はお会いしていないからなんとも言えないけれど。

 ただ、プレゼンターを務めるだけではなくて、全ての試合を見て有望そうな若者を見極めるのも役目なのだそうで、それがなくなるのは少し寂しいとあった。

 ライラ様……もしかして筋骨隆々な方がお好みなのかしら。

 ……もしこちらにいらっしゃることがあれば、砦の鍛錬にお誘いしてみようかしら。


 シモーヌ様からは、近くの孤児院で子供たちに読み書きを教えている話。

 ここに戻ってきてからずっと気になっていたの。……みんな元気そうでよかった。

 小さな花のしおりが同封されていて、それにみんなの名前が書いてあった。

 シモーヌ様……もしかして、わたしが行けなくなった代わりに行ってくださっているのかしら。

 しおりの一つに、こっそりわたしあての手紙が挟んであったの。

 一番年上のスレイね。ずいぶん字も綺麗になっていたわ。きっとシモーヌ様の教え方がいいのね。

 みんな元気にやっているみたい。王妃様も、最近はフェリスを伴って慰問に訪れているらしい。

 寂しいとは書かれていなかったけど、約束は果たしてねとあった。

 ……ええ、必ず。


 ミリネイア様からは、最近友達になったという方の話。なんでも隣国の女騎士の方で、王族の護衛もなさっているのだとか。

 日頃の勤務の話とか、騎士になろうとしたきっかけとか、ミリネイア様との馴れ初めとか、色々書いてあった。

 ミリネイア様、その方と本当に仲が良いのね。

 ついでに騎士になるまでのことがまとめてあったの。隣国と我が国ではずいぶん違うのね。

 その国では女性が積極的に登用されていて、騎士養成学校に女性も通えるのだとか。

 ……我が国では、禁止はされていないけれど、考慮もされていないから、養成学校に通った女性騎士はいないのよね。

 もし、我が国でも騎士養成学校に女性が通えるのであれば、きっとわたしはデビューなどせずに入学していたわね。

 あれ……わたしがなりたかった話はしてないはず、よね?


 レオ様からは、避暑地の話。セレシュがどうしてもわたしを誘いたいと何らや画策しているらしい、とあったのには苦笑してしまった。

 あとひと月もすれば、シーズンも夏休みに入る。王家の方々が避暑地に移るのに合わせて移動する方が多いのだ。

 主だった上位貴族がいない王都で夜会を開くのは、避暑に誘われなかった戦力外の貴族だとみなされる。

 派閥に入っている家や、入ろうとする家は誘われなくても避暑地に赴き、招待状不要の催しでつなぎを取ろうとする。

 だから、夏のシーズンの王都は空っぽだと言われるのよね。

 ちなみに、我がベルエニー家は、どこの派閥にも属してないし、もともと吹けば飛ぶような男爵家だから、誘われたことはなかったそう。兄上が護衛騎士になった年もなかったって言っていたわ。

 わたしが婚約者候補になってからは、頻繁にお誘いがあったらしいけれど、我が領では短い夏は貴重だからと、王様にも許可をいただいて不参加を貫いていた。


 きっと今頃は、フェリスもセレシュもオフシーズン前の夜会ラッシュね。

 今年の二人にとってはデビュー後初めての避暑だから、なおさらだと思う。

 避暑地でも色々と招待されていると書いてあったし、去年までとは違う夏なのは感じ取っているでしょう。


 子供扱いされない夏って特別なのよね。

 今までと同じだと思っていたのに、周りが変わる。

 今まで行けなかったところに行けるようになる代わりに、今まで行けたところに行けなくなる。

 そんな感じで、得たものと失ったものを両手に抱えて天秤にかけて、なにかを諦めるごとに大人になった気がするの。

 二人にとっては大切な夏。いい夏にしてほしいわ。



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