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子爵令嬢は自由になりたい【連載版】  作者: と〜や
第十章 王太子をめぐる女性たち

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85.王太子は茶会に出席する(6/17)

 池のほとりにある四阿に到着したミゲールは、ほんの少し眉根を寄せた。

 暑くなり始めた日差しを遮るのは、深緑の蔓と薄紫の小さな花。その下に並んでいたのは、王妃と妹の二人だけで、ミゲールは密かにため息をつく。

 どうやら、フェリスの茶会と王妃の茶会は同じものだったようだ。というか、フェリスの茶会を蹴ったから王妃に泣きついたということなのだろう。

 結局引っ張り出されるのなら、王妃がいないほうがまだ良かった。

 フィグが四阿の手前で足を止めるのを横目で見ながら、ミゲールは足を踏み入れた。


「……早すぎましたか?」


 そう言いながら設置された残り四つの椅子を見る。ひとつは自分のものとすると、少なくともあと三人は来るということだ。

 これがフェリスの茶会ということなら、招待されている娘はいつもの顔ぶれだろう。

 てっきり見合いを兼ねた顔合わせと思って言われた通りにきちんと正装して来たのだが、それほど気負う必要もなかったか、と自分の格好を見下ろす。王妃の言葉に踊らされた気がしてしまう。だが、それを表情に出すわけには行かない。

 王妃に促されてフェリスの隣に腰を下ろすと、すぐにカップが差し出された。


「いいえ、あなたが来るのを待っていたのよ。……ああ、来たわね」


 含みのある王妃の言葉に眉根を寄せながらその視線を追うと、自分が歩いて来たのとは反対の小道を近衛兵が先導して来るのが見えた。

 近衛の鎧の向こう側から結い上げた髪とふわりと広がるドレスがはみ出ている。

 その顔ぶれを見た途端、眉間のシワが深くなった。


 チェイニー公爵令嬢ライラ、アーカント侯爵令嬢ミリネイア、ウェルシュ伯爵令嬢シモーヌ。


 王太子妃候補の三人は、王妃と妹に会釈をすると、それぞれ席に着いた。

 眉間に皺が寄っているだろうことを自覚する。


 どうしてこの三人がここにいるのか。

 正装して来いという言葉の理由はわかった。


 が。


 ……どうして、妹の茶会にこの三人がいるのか。


 王妃の茶会で、もともと王太子妃候補だった三人と改めて顔合わせ、ということならば納得も行く。

 だが、これはフェリスの茶会だ。


 少なくとも、ミゲールの中にフェリスがこの三人と仲良くしていた記憶はない。むしろ嫌っていたはずだ、と眉根を寄せる。

 妹はユーマを実の姉のように慕っていた。婚約を破棄した後の妹の反応は実に苛烈であったし、詰られもした。もちろん、悪いのは自分だと分かっているし、フェリスに詰られるのも受け入れた。

 だからこそ、ユーマの後釜を狙っているこの三家の姫を毛嫌いしていたはずだ。

 どういうことだ、と妹の方を見れば、フェリスはなぜか大きなことをやり遂げたかのように自信たっぷりに胸を張ってみせている。


 つまりこれはあれか。


 妹は三家に寝返ったのか?

 三人の中から義姉……つまり妻を選べとでも言うのだろうか。

 王妃はと見やれば、いつの間にやら扇子を広げて口元を隠している。が、目尻が下がっているところを見ると、きっと口角も上がっていることだろう。してやったりと言わんばかりだ。


 ……母よ、息子を罠にはめて驚かせようとするのをいい加減やめていただきたい。


 仕方なく三人の――ライラの顔を見れば、王妃の前だからなのか、何時になく取り澄まして見える。

 シモーヌもミリネイアも、着席の前に王妃とフェリスに礼を取るまでは微笑みを浮かべていたように思う。

 が、椅子に腰を下ろした三人の顔には緊張の色が走っていた。

 王妃や妹に対して緊張しているわけではないのは明らかだ。

 三人とも王太子妃候補として長い間王宮にいた。王妃を母と呼び、王女を妹と呼ぶような関係を築こうとしていた彼女たちが、二年離れたからといってそれほど緊張するような間柄に戻るだろうか。

 それならば、自分に対しての緊張だろうか。


 それもありえない、と否定する。


 確かに、月に一度の茶会以外ではろくに会話をもたなかったし、突っ込んだ話を聞くのも最近になってからのことだ。が、会話をしているときには普通の応対をしていたし、怯えたようなこんな顔もしたことはない。

 違うことといえば、三人が同時にこの場にいることぐらいだが、それもユーマと婚約を結んだ二年前までは晩餐を共にしていたわけで、特別なことではない。


 何があるというのだろう。

 ますます眉根を寄せたところで、王妃が立ち上がった。つられて妹も立ち上がる。

 驚いて顔をあげると、王妃は扇子を閉じて冷たい目でミゲールを見下ろしていた。


「話を聞いていなかったようね」

「いえ。……こんなに早く母上ホストが去ると思わなかったので」

「わたくしはこの場を整えただけだもの。――あとは自分たちでやりなさい」


 去り際の王妃の言葉はミゲールに向けたものではない、と気がついて三人を見やれば、ライラたちははっきりと微笑みを浮かべ、礼を持って二人を見送った。

 二人が去ると、空いた椅子が手際よく取り払われる。四阿にはミゲールと三人と、それからフィグだけが残された。

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