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子爵令嬢は自由になりたい【連載版】  作者: と〜や
第九章 王太子と三人の美姫

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82.赤毛の侯爵令嬢は顔を上げる

「シモーヌ様っ?」


 声をあげたのは三人の中では最年少のミリネイアだった。


「はしたないですわよ、ミリネイア」


 反対側に座るライラは、優雅に紅茶のカップを取り上げる。


「で、でもっ、ライラ様っ。黙ってはいられませんっ! ライラ様はなんとも思わないんですのっ?」

「思いませんわ」

「ええっ、だってっ、お、王太子様とっ」

「落ち着きなさい」


 ライラは眉を寄せてミリネイアの方を見る。


「落ち着いてなんかいられませんっ。わたくしたちは共に誓ったではありませんのっ。なのにこれは裏切りではないですかっ」

「違いますっ」


 シモーヌは慌てて否定するとミリネイアの方に向き直る。


「わたくしは彼の方に一言言いたいだけですわっ」

「二人っきりのお茶会で一体なにを話すと言うんですのっ」


 ミリネイアがきっと睨み付けると、シモーヌは目を見開き、それからくすくすと笑いだした。


「わたくし、二人きりでなんて言っておりませんわよ?」

「……えっ」

「落ち着きなさい、ミリネイア。人の話は最後まで聴くものよ」


 やれやれ、とライラがため息混じりに口を挟むと、ミリネイアは目を見開き、それからあっという間に真っ赤な顔をした。


「わ、わたくしっ……」

「あなたは想像力がたくましすぎますわね」

「本当ね。……わたくしがそんなことをフェリス様にお願いするわけがありませんわよ」

「……も、申し訳、ありません」


 縮こまるミリネイアに、王女は吹き出した。


「本当にあなたたち、仲がいいのね」

「えっあっ」


 ミリネイアは目を白黒させる。ライラとシモーヌはそんな妹分に顔を見合わせるとくすりと笑った。


「ええ、可愛い妹ですわ」

「そうね。若さと行動力だけは負けますわ」


 ひとしきり笑い終えると、王女は居住まいを正した。黒髪の侍女がそっと手元の紅茶を差し替えて部屋を辞す。

 ミリネイアはまだ自分の失態に悶えていたが、ライラたちがそっと背筋を伸ばしたのに気がついて、王女の方に向き直した。


「それで、馬鹿兄とあなたたち三人の茶会を催せばいいのね?」


 あの方を馬鹿兄、などと呼べるのは広い世界を探しても王女フェリスだけだろう。


「はい」


 シモーヌが答え、ライラがそっと頷く。もしかしたらミリネイアが手紙に感涙している間に、二人の間でなんらかの話がされていたのかもしれない。

 自分だけ勘違いをしたのが恥ずかしくて、ミリネイアは目を伏せた。


「あれでも忙しくしているから、いつになるかわからないわよ」

「……ええ、存じております」


 その答えにミリネイアははっと顔を上げる。

 他の二人は知らない。

 北の大国と南の女王が画策していることを。

 悠長に構えていては、北の姫が来てしまう。そうなっては遅いのだ。


「どうしたの? ミリネイア」

「……フェリス様。無理を承知で申し上げます」

「言ってみなさい」

「なるべく早くに場を設けていただけませんでしょうか」


 ミリネイアの方を向いた王女は、ほんの少し眉根を寄せた。


「いつまで?」

「できるだけ早くに」

「……わたくしはいつまで、と聞いたのよ」

「フェリス様?」


 ライラとシモーヌが顔を見合わせている。

 だが、ミリネイアは口元をゆるめると、背筋を伸ばして顔を上げた。

 フェリス王女は知っている。

 ということは、先日王太子に話をしたことは無駄ではなかったということ。


「五日、いえ、三日のうちに」

「そう。……時間がないわね」

「はい」

「オリアーナ。馬鹿兄のスケジュールを調べて先触れを出してちょうだい」

「かしこまりました」


 いつの間に戻って来ていたのか、黒髪の侍女がさっと一礼して出て行く。


「ミリネイア、どういうことかしら?」


 ライラとシモーヌが険しい顔でミリネイアを覗き込んでいる。

 ミリネイアは二人の顔をじっと見つめる。

 この二人には知っておいてもらった方がいい。同じ目的に向けて誓い合った仲なのだ。

 それぞれの得意分野は詳しいけれど、外交分野はミリネイアに一日の長がある。


「詳しくは後ほどお話しします。……南の女王から王太子様に、娘の輿入れを打診されていることはご存知ですか」

「え、ええ、一応は」


 ライラとシモーヌが顔を見合わせている。

 王太子妃候補として返り咲いた三家とも、そういった他国の動きには注視している。先だってやってきたベリーナ女王の名代の話も遅まきながら伝わっているようだ。


「確か、ベリーナ女王の娘でしたわね」

「実際には、北の大国の姫です。……その姫が国を出発したと」

「何ですって?」


 声を張り上げたのは王女だった。


「ミリネイア、その話は本当なの?」

「はい。確かな筋からの情報です」


 ライラの言葉にミリネイアは重々しく頷く。

 こんな情報、確度が低いものならそもそも王族の耳に入れたりしない。

 もちろん父たるアーカント侯爵には知ったその足で伝えてある。


「だからこそ、急がなくてはなりませんの。……ユーマ様の場所はわたくしたちで守らないと」


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