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子爵令嬢は自由になりたい【連載版】  作者: と〜や
第九章 王太子と三人の美姫

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80.公爵令嬢は王城に招かれる(6/14)

 前を歩く近衛兵に導かれながら、ライラは抜かりなく周囲に目を配る。

 この道を辿るのは二度目だが、今回はライラ一人だった。

 別段やましい事など何もないのに、周りの目が気になるのは、ひとえに父との遭遇を恐れているからだ。

 父だけではない、他の派閥の貴族に見られることも避けねばならない。

 こんなーー王族のプライベートエリアを歩いているところを見られれば、要らぬ噂を立てられるに違いないからだ。

 その最も遭遇してはいけないのが、チェイニー公爵たる父だ。


 その父は今、騎士団の大規模な訓練のための打ち合わせで王都を不在にしているはずで、ここにいることは絶対ないことはわかっているのに、警戒を怠れない。


 本来ならば、将軍自らが出張るような案件ではないらしい。

 だが、他国との交流試合となれば、しかも自身が発起人となれば、顔を出すのは礼儀だ、と父は出立して行った。

 しばらく王都を空けるからと母も連れて行ったのにはライラが一番驚いていた。

 聞けば向こうで王族主催の夜会があるという。夫婦での参加を請われては、断るわけにいかなかったのだ。

 久々の外遊と張り切っている母の横で、父は若干くたびれて見えた。


 父母が見た目ほど円満でないことはライラも知っている。それは女性関係であったり、仕事で不在がちなせいであったりするのだが、貴族の政略結婚とはそんなもの、と母は割り切っているようだ。

 翻って父はといえば、十分すぎるほどに公爵家を切り盛りする母を少々苦手に思っていることも知っている。だが、遅くにできた妹への溺愛は二人とも共通していた。

 ライラも妹は可愛い。

 早くから王太子の婚約者候補として王城に上がってしまったライラにとっては、実家に帰る度に飛びついてくる妹がなによりの癒しだった。

 王城ではくつろげる瞬間など一秒たりともないのだから。


 ふと顔を上げれば近衛兵から少し間が開いていて、足を早める。

 まもなく足を止めた案内役に礼を言い、開かれた扉をくぐると、先日も顔を合わせた侍女が待っていた。


「お待ち申し上げておりました、ライラ様」

「その……遅くなってしまったかしら」


 置き時計を見れば、招待状に書かれた時刻はとうに過ぎている。


「いえ、大丈夫でございます。どうぞこちらへ」


 黒髪の侍女はにっこり笑うと中へと誘う。ライラは頷くと、侍女の背を追った。


 ◇◇◇◇


「来たわね」


 足を踏み入れれば、ソファに座った三つの顔が振り返る。


「お待たせして申し訳ありません」

「いいわよ、急に呼び出したのだもの。他に予定があったのではなくて?」


 王女は遅刻したライラに機嫌を悪くした様子はない。

 実際、急な招待で予定していた茶会への参加を断ることになった。主催者に謝罪の手紙を書いたり、共に行く予定だった妹のエスコート役を探したりしているうちに時間が過ぎてしまったのだ。


「大丈夫ですわ」

「そう? 無理はしなくてよかったのに」

「いいえ。それより何かございましたか?」


 ちらりと他の二人を見る。ミリネイアもシモーヌも、ライラを見てホッとしたようだ。表情に緊張が見て取れる。

 無理もない。王女殿下とは前回のお茶会で随分打ち解けられたとは思うが、この距離で親しく言葉を交わすのは実質的に二度目だ。

 王太子妃候補として王城にいた時よりもよほど近い。同じ目的のために協力関係を結んだとはいえ、迂闊な言動で不興を買うわけにはいかないのだ。


「ええ。姉様からお返事が来たの」

「えっ……」


 先日のお茶会のあと、すぐに手紙を託した。王女が中をあらためると聞いていたから、読まれてもいいように無難なことしか書けなかった。

 やり直しと言われずにそのまま届けてもらえたのだろう。

 それにしても、十日ほどしかかかっていない。

 北のベルエニーまで馬車で十日はかかるというのに、どうしてこんなに早くに返事が来たのだろう。

 驚いて王女を見ると、彼女は楽しげに笑った。

 夜会や茶会で会う時は淑女らしくほんのりと表情を変えるだけで、ミニチュア王妃、などと揶揄もされている。

 だというのに、こうやってユーマがらみのこととなると随分表情が豊かになる。

 これが本当の王女の姿なのだろう。自分たちの前では見せることのなかった年相応の姿を、きっとユーマの前では見せていたに違いない。


 そんなライラの思いを知らず、王女フェリスは黒髪の侍女に頷いて見せる。

 ほどなく戻って来た侍女の手には、封筒の乗った銀の盆があった。

 封書の宛名は、たしかにユーマの手によるものだ。

 自分宛の封書を取り上げて、自然とミリネイアたちと顔を見合わせる。


「あの、王女殿下」

「フェリスでいいわよ。お返事が待ち遠しくて、早馬を使ったの。馬車便だと片道十日もかかるんですもの」


 ライラたちの疑問をさっさと読み解いて王女は言う。


「ありがとうございます、フェリス様」

「別に、あなたたちのためじゃないから」


 そう言いながら、王女は少しだけ頬を染める。素直でないその姿は実に可愛らしく、時々ぷくりとほおを膨らませる妹が重なって見えた。



一年も間が空いてしまって申し訳ありません。

並行して書くのをやめた途端に引っ越しとか重なって忙しくなってしまいました。

なんとか一本終わったのでこちらに取りかかれます。

ストックはないのですが、週一更新を目指します!


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