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子爵令嬢は自由になりたい【連載版】  作者: と〜や
第十七章 王太子の断罪
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192.王太子は叱責される

お待たせしました

 王妃……母上は、深くため息をつく。その表情は、とても疲れて見えた。


「あの人は、シーズンの初めにお前の婚約者が定まったことを公表したかったのよ。でも、名を出せないとなれば彼女に間違いなく目が向く。十分な準備なしでは守れない。……だから、わたくしは婚約には反対する」

「母上……」


 これほど母上が心を砕いてくれるとは思っていなかった。

 幼い頃は病弱な自分を不甲斐ないと思っていただろうし、あのまま回復しなければレオを王太子に据えることに反対はしなかっただろう。

 それは今も変わらない。

 貴族たちがこぞって反対すれば、王太子の座にはレオがつくことになる。そして、母上は抵抗しないに違いない。

 だからこそ、まさか反対する理由がそれだとは予想もつかなかった。


「勘違いしないように。お前のためではありません」


 ため息混じりの母上の言葉に、はっと目を見開く。……ああ、そういうことか。


「正直に言いましょう。お前には失望していました。あれほど熱烈に求婚しておきながら、彼女の心を掴むでなく、彼女の後ろ盾を得ようともせず、彼女を守ることさえ満足に出来ず……それでよくまあ彼女を守ると大口を叩いたものよと」


 母上の口から語られる言葉にうなだれる。どれもこれも耳が痛い話ばかり。だが、本当のことだ。自分は何一つできていなかった。彼女を慮ることよりも、父上との約束を守ることを優先した。

 ……あの時は、それが最善だと疑いもせず。


「あの事件の時、我々がどれだけベルエニー殿に頭を下げたか、お前も知っているでしょう。王妃教育のためと預かっておきながら、彼女が傷つけられるのを防げなかった我々を、彼らは詰りもしなかった。婚約の破棄を希望するなら叶えると伝えたが、ユーマは望まなかった。あの子はそれだけの覚悟をしておったというに、お前は守れぬからと手を離した」


 ああそうだ、自分のわがままで彼女の六年間にわたる頑張りも忍耐も、無駄にしてしまった。それが彼女にとっての幸いだと言い聞かせながら。

 聞けば聞くほど、自分がいかに酷いことをしたのかを思い知る。どれほど周りが見えていなかったのか。

 彼女の覚悟さえ、踏みにじって。


「それなのにもう一度手を取って欲しいというのは、わがままに過ぎるというものでしょう。よほどのことでなければ、彼女は応じてくれまい……それは理解していますね?」

「……はい」


 うなだれたまま、ミゲールは小さく頷く。

 あのまま誰も娶らず、早々にレオに次代を託すことも考えた。

 でも、彼女の横に他の誰かが立つことは許容できなかったのだ。それが弟ならなおさら、許し難くて。


「でも、お前がレオの賭けに乗って飛び出したと聞いて、少し見直したのよ」


 のろのろと顔を上げると、母上は眉尻を下げた。


「ベルエニーまでは単騎で往復十日。馬車なら二十日の道のり。病気療養中とはいえ公務も抱えていたお前が、何の工作もなしに不在にできる日数ではありません。なのに一切を振り捨てて何の準備もなしに飛び出したと聞いて、安心したのよ。……お前は、間違えなかったのだと」

「……」

「無論、もう少し落ち着いて考えていれば馬の手配や糧食の準備、路銀などきちんと準備して出られたでしょうし、フィグ殿に道案内を頼むことだってできたでしょう。その点はマイナスポイントだけれど。それらを忘れるほど急いだのは、勝負に勝つため、レオを止めるためでしょう?」


 改めて言われてみれば、自分でも呆れるほどあの時の自分は無謀だった。レオに勝つことしか頭になくて、ベルエニーの不文律すら忘れて、馬を走らせた。

 馬や食料の手配も、路銀だってフィグに頼り切って。

 フィグがいなければ、レオに勝つどころかベルエニーに着けたかどうか怪しいものだ。

 それでも、はやる気持ちは抑えられなかった。ユーマの意に沿わない形で王家に縛り付けるのだけは、避けなければならなかったから。


「だから、そなたへの罰は不問とします」


 母上は王妃の顔で宣言した。


「今回のことはレオが発端で、そなたは煽られて乗せられただけ。そもそもそなたは賭けに同意していないのであろう? なれば一方的な賭けを持ち出したレオに責がある」


 あの時レオが何と言ったのか、はっきり覚えてはいない。おそらくレオの言葉に頭が沸騰したせいだろう。けれど。


「後を追った時点で、賭けに同意したも同じです」

「いいえ。……レオは賭け云々に関係なく、そなたが追いかけてくると確信していました。何しろ、そなたの影武者を置いて行きましたからね」

「影武者を……」


 おそらくそれは、レオの護衛騎士だろう。先日の襲撃事件の時に魔法で姿を変えていたのを思い出す。

 あの姿で影武者を務めたのだ。


「そなたは春までの間、成すべきことを成すように。……これ以上、母を失望させてくれるな」

「……承知しました」


 話は終わりとばかりに王妃が席を立つ。ミゲールも立ち上がると礼をして、王妃の私室を後にした。

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