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子爵令嬢は自由になりたい【連載版】  作者: と〜や
第十五章 視察団が山を降りるまで
184/199

179.子爵令嬢の兄はため息をつく

お待たせして申し訳ありません!

今年もどうぞよろしくお願いします!

 フィグは馬車の揺れに身体を任せながら、同席している二人に目を向ける。


 落胆を隠さない主人……ミゲール。

 その向かいで相変わらず飄々とした態度を維持するレオ殿下。


 予定通りに妹に求婚したレオ殿下とそれに便乗したセレシュ殿下。本気らしいセレシュ殿下には悪いと思ったが、最初からああするつもりだった。

 ベルエニーの地には王族が堂々と()()()()()()。それは次期領主として育てられたフィグはよく知っている。

 故に視察団の一員として参加するセレシュもフェリス王女も、王族として表立っては動けない。

 レオがそれを知らぬはずがない。

 だから話にも乗ったし、予定通りの対応をした。あの場にいたのが父であっても同じことをしただろう、と言い切れる。


 ……セレシュも、いやミゲールだってそれを知らぬはずはなかったのに。


 あの瞬間のミゲールを、フィグは見ていた。

 妹が立ち尽くす姿を、拳を握り締めたまま青い顔で見つめていた主の顔を。

 ベルエニーを含む紛争地帯に王族はみだりに立ち入らない。それは、紛争地域を預かる()()()にとっては当然のこと。

 北の大国を刺激して仮初の休戦状態が破棄されるなんてことになったら。

 ……真っ先に被害を受けるのはベルエニーの民なのだから。

 だから、俺たちは俺たちでこの地を、この休戦状態を守る。時には王族に逆らってさえ。

 そんな大事なことでさえ、主人の頭からはすっかり飛んでしまっていたのだ。


 ……お前が今でも妹を思っていることなんか、痛いほどよく知っている。

 半年ぶりに目にした妹の、屈託のない笑顔に視線が釘付けだったことも。

 目の前で繰り広げられる他の男からのプロポーズなんて、絶対に見たくないシーンだったに違いない。それを、最前列で見せつけられたのだ。

 自由に動けるのなら、おそらくこの男は弟たちをぶちのめしていた。

 だから、あれでよかったのだ。

 あの場にミゲールは……王太子がいてはいけなかったから。


 ふう、とため息をついて、二人の王族から目をそらす。

 本当は色々言いたいことはある。が、ここで言ったところで始まるまい。

 後のことは城に帰ってからだ。

 ……まあ、無断で出奔したことになっているのだ。無罪放免とはいかないだろうが。

 裏で糸を引いているに違いない王妃陛下の黒い笑みを思い浮かべて、視線を窓の方に向ける。

 まったく、何がさせたいんだ、あの方々は。

 ミゲールが思い余ってとんでもない行動に出たらどうするつもりだ?

 ……それもそれ、と粛々と定められた通りに動くのだろうか。

 まあ、最初っからミゲールは横紙破りだったからな。公開プロポーズの次は公開婚約破棄。

 次はどんな選択をするのか。……愚かな選択でなければいい、とちらりと友を見て目を眇める。



 それにしても、ユリウス爺にまでミゲールの正体を見抜かれるとは思わなかった。

 親父殿はもちろん最近の姿を知っているから、髪を染めただけでは気づかれるだろうとは思っていたが。

 ユリウス爺は昔のミゲールの姿を知っている。

 だが、あれから十年以上経っているのだ。その間ほぼ王都に出てくることのなかったユリウス爺に、わかるはずがない。そう思っていたのに。


 視察団に同行した二人はともかく、レオがハインツ領に逗留する知らせは、王都でミゲールの身代わりを務める魔術師が事前に知らせたのだろう。

 だが、ミゲールが同伴することになったのはハインツ領に着く直前のことだ。知らせは間に合ったはずはない。

 だから、ユリウス爺が自分で気が付いたのだとしか思えないのだ。


 あの時、ユリウス爺ははっきりとこちらを見た。伺うように、咎めるように。

 わかっている。王族がーー子供たちが全員集うなんてありえない。しかも、北の最前線であるあの場所に。

 事が露見すれば、間違いなく北の大国を刺激する。お忍びだからという免罪符程度ではもはや逃れられなかっただろう。

 なにせ、次代の王と、それを支える三人の弟妹が揃っているのだ。謀を疑わないとすれば、余程の間抜けと言える。

 同じことを北の大国がすれば、緊急招集ものだ。軍も派遣されてくるだろう。

 その程度のことを、()()()()()()()

 それを、阻止することもなくノコノコとやってきた自分の資質が問われたのだ。……専属護衛騎士がついていながら、と。

 これに関しては、詫びる以外ない。山が封鎖されることで騒動にはなり得ないようにと動いてはいるが、リスクを無視したことには変わりない。


「どうした、フィグ」


 不意にかけられた声に顔を向ければ、心配そうな主人の顔と含み笑いをするレオ殿下の顔が見える。

 そんなひどい顔をしていたのだろうか。それとも、何か話しかけられて、応答しなかった自分を訝しんでいたのかもしれない。

 なんともない、と首を振れば主人はますます眉間のシワが深くなる。

 帰った後のことを考えているだけだと言えば納得した様子でまた先ほどの話し合いに戻っていく。そんな二人を見つめて、ため息をついた。


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