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子爵令嬢は自由になりたい【連載版】  作者: と〜や
第十四章 子爵令嬢は秋を見送る
157/199

152.子爵令嬢は友との時間を楽しむ

 広間の方から相変わらず賑やかな声が漏れる。

 軍事的な話をするからと追い出されたはずなのに、会話が筒抜けなのはどうなんでしょうか、お師匠様。


「それでね……」


 少し興奮気味に話すのはリリー様だ。いつもになく興奮しているみたい。リリーがああいった催しを好きだとは知らなかったわ。

 最終日の今日はたまたま非番だった門番たちと一緒に交流戦を見に行っていたのだそうな。

 その途中でセリアに見つかり、門番たちから引き剥がされてライラ様の所に引っ張られたらしい。


 まあ、セリアも誰かと喋りたかったのよね。ライラ様と気楽におしゃべりするわけにはいかなかったのでしょうし。

 リリー様が今も王女の侍女ということはセリアも知っているし、きっとどこの貴族令嬢なのかも知っているだろう。

 でも、だからといって今さらそんな態度を取らない。リリー様も友達としてセリアに接しているのがわかる。やっぱりこの関係は壊したくない。

 ライラ様はことのほか嬉しそうにリリー様の話を聞いている。

 時々相槌を打ったり補足したりして、思ったよりも仲良くされていたみたいね。

 同志がこんなに近くにいたなんて、と嬉しそう。

 ……楽しそうに笑っている彼女の方が実はライラ様より立場が上だなんて知ったらセリア、気を失いそうね。絶対彼女には秘密にしなきゃ。


 そんなことを思っているうちに、話題はすでに交流戦が終わった後の話になっていた。

 急に護衛たちがなだれ込んで、一時騒然となったらしい。

 その後、三人はウェイド侯爵に保護されて、砦で一晩明かしたそうなんだけれど……。


「それにしても、砦のベッドは硬かったわ」

「そんなにひどかったの?」

「酷いなんてものではないですわ」

「あれは寝台と呼べるものではないですわ」

「だって、ただの板ですもの」


 憤慨する二人……もとい、三人の話を聞くフェリスは王女と言うよりは仲のいい年下の妹のようだ。

 ライラ様もリリー様もきちんと王族との一線は引いているけれど、距離はずっと近くなっているのがわかる。

 それがなんとなく嬉しい。


「ユーマ姉様はご存知でした?」

「え?」

「砦の劣悪な居住環境ですわ」

「あれでは我が家の厩の方が上等ね」


 フェリスの言葉を引き取ったライラ様の話に、わたしは苦笑を浮かべる。


「有事の時以外は使わない前提ですから。寝心地がよすぎたら敵襲があっても起きれないでしょう?」

「……まあ、それはそうね」


 ライラ様はつんと顔をそらして呟く。


 宿直の時にはお師匠様もあのベッドで寝ると聞いて、子供心に貴賓室ぐらいあってもいいのに、と思ったことはあった。

 でも、貴賓室が必要な人たちが砦に寝泊まりできるのは平和だからできるのであって、まだ休戦状態のここでは望めない。

 彼らはーーわたしたちもーーそのためにここにいる。

 一日も早くわたしたちの存在が不要になることを願いながら。


「ベッドといえば、今日の約束、覚えてますよね?」


 ふとフェリスが期待に満ちた顔をこちらに向ける。


「ええ、大丈夫よ」


 そう答えると、フェリスはとても嬉しそうに破顔する。

 もともと予定していた子供たちの聴取は午後あっさりと終わったからこそ、こうやってのんびりできているのだもの。

 嬉しそうなフェリスから事情を聞き出そうとするリリー様、聞いてないと憤慨するセリア。我関せずと茶を飲むライラ様。

 三人をそれぞれ見て、わたしは口元をゆるめる。

 こんな辺境に、王女と公爵夫人と公爵令嬢が揃っているなんて、六年半前のわたしには予想もつかなかったわね。

 そして、昨日の騒動についてもさほど深刻にとらえた様子はなくて、ひとまずホッとする。


「お嬢様っ、わたしを除け者にするなんて、ひどいですっ」


 なぜかセリアが泣きついてくる。


「ごめんなさいね、急に決まったものだから」


 セリアがライラ様たちと一緒に砦から帰ってきたのは昼も遅くなってからだ。

 その時にはすでに細かいところまで決まっていたし、部屋の準備も終わっていたものね。


「お世話は絶対わたしがしますからっ」


 そう言って、ぱたぱたと出て行く。おそらくベルモントのところに行ったのだろう。

 本来なら館の者たちには祭りが終わったら順に休みを取るように言ってある。

 セリアも明日は休みのはずなんだけど。


「そういえば、明日には視察団は山を降りるのでしたわね?」


 リリー様がふと思い出したように聞いてくる。

 昨日の昼に到着した視察団は、明日の午後には山を降りる。

 ハインツ領で一泊後、王都に向けて出発する予定だとグレンからは聞いた。

 ライラ様もフェリスも、明日の夜にはもういない。

 そう思うと寂しさがじわりと滲んでくる。


「昨日の騒動で時間がなくなったから一日延長になったそうですわよ」

「本当ですのっ?」


 ライラ様の言葉にフェリスが振り返った。よほど嬉しかったのだろう、目が輝いている。


「姉様っ、明日も一緒に寝てくださいますわよねっ?」

「ええ、それは」

「あら、明日は大人の茶会を催す予定ですの。まだ成人していないフェリス様はご遠慮くださいませ」

「大人の茶会なんて聞いたことがないわよっ」


 ふふ、と笑うライラ様にかじりつくフェリスが年相応に見える。

 ああ、王宮でもこんな風に過ごせれば、違っていたのかもしれない。あの方とも、こんな風に笑いあえれば、心を通じさせることも出来たのかもしれない。

 そんなことを懲りもせずに思う自分が一番浅ましい。


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