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子爵令嬢は自由になりたい【連載版】  作者: と〜や
第十四章 子爵令嬢は秋を見送る
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閑話・子供たちは何も知らないふりをする

「なあ、起きてるか」


 明かりが消された部屋で誰かが声を上げる。途端にしいっといくつもの息が漏れて、ごそごそと身動きする音がした。

 薪の弾ける音。


 暖炉の火に照らされて白い、というより赤い顔が見え、次々に何かを引きずる音とともに一つ二つと赤い顔が増える。


 それは子供たちだった。

 騒動に巻き込まれた子供たちのうち、騎士や兵士、店主など忙しくて親が迎えに来られなかった子たちだ。

 ここにユリウスとミーシャはいない。どちらも親と同じ部屋を準備されて引き上げて行ったから。


 ここにいる子供たちもそれぞれに部屋を用意すると言われたのだが、ごろ寝でも同じ部屋がいいと切望し、姫さまはそれを叶えてくださった。

 これだけふかふかな絨毯なら毛布だけでもいいと言ったけれど、ちゃんと人数分の寝床を作ってくれた。

 だから、ここには二人を除いたみんながいる。


「あしたーー分かってるよな」


 一番体の大きい子が小さい声ながらも全員に聞こえるように言い、皆の顔を見回すと、子供たちはうんうんとうなずく。


「じんもんとかいうのやるっていってた」

「なにもしゃべるなよ」

「わかってるって」

「クリスにーちゃんとやくそくしたからな」

「ダメだってば」


 たしなめるきつい一言は声が大きかったようで、周りからまたしいっと声がかかる。

 ダメと言われた子も口を両手で隠し、にらむ男の子にこくこくとうなずいてみせる。


「あいつらの名前、絶対出すなよ」

「うん、もうわすれた」

「えー、はくじょうものー」

「ばか、ほんとに忘れるわけないだろ」


 またしいっと唇に人差し指を当てる。


「ユリウスだってミーシャだって、なにもなかったって言えって言ってたろ」

「うん」

「だけどさあ」

「言うなっての」

「僕らは言わないよ。でもさ、サム。家に帰った奴らは親にしゃべっちゃったかもしれないよ?」


 二番目に体の大きい男の子がむくりと体を起こす。

 サムと呼ばれた子は唇を尖らせる。


「約束守れなかった奴は仲間はずれだ。いいな、口きくなよ」

「ええー」

「おうぼうー」

「言葉の意味わかってんのかよ」


 ワイワイと皆が口々にしゃべり出した。自分の声を通そうとだんだん声が大きくなると、サムはぱんと手を叩いた。


「声がでかい」

「ごめん」

「あんただって声大きい」


 抗議をしながらもしぶしぶ両手で口を覆う。

 サムは扉のところまで行って外の音を伺った。


「サム、なにして」


 サムにしいっと言われて声をかけた子は口を覆う。

 廊下を歩く足音が遠ざかるのを待って、サムはみんなのところに戻ってきた。暖炉から離れるとやはり寒い。速攻で毛布にくるまり、暖炉の一番前に陣取る。


「とにかくダメだからな。みんなで決めたんだから」

「わかったよ。もう言わない」


 この話はおしまいだとばかりに切り上げると、幼い子たちがゴロゴロと絨毯の上を転がり始めた。一人がやるとみんな真似をする。きゃらきゃらと笑いながら、外に声が漏れるのも今度は気にしない。

 そんな幼い子たちを見ながら、サムは一人ため息をついた。


「なあ」


 二番目に体の大きい男の子が隣に潜り込んできた。


「自分の毛布使えよっ」

「弟にとられた」


 指差す先を見れば、毛布にぐるぐる巻きにされて頭がどこかもわからないくらいだ。


「それじゃ今日だけ許してやるよ、トム」


 ふん、とそっぽを向いている間に隙間をきっちり閉めてくれたらしい。くっつけてきた足はめちゃくちゃ冷たくて飛び上がりそうになった。

 頭から毛布をかぶると周りのうるさい声が少しだけ遠のく。


「あいつら、お前を狙ってたな」

「そんなわけあるかよ」


 子供たちの中ではサムは一番大きい。次がトムで、あとは似たり寄ったりだ。ミーシャもユリウスもサムよりは小さい。


「人さらいは小さい子を狙うんだって母さんが言ってた。あいつらもチビたちがきた途端に目標を変えただろ」

「人さらい、なのかなあ」


 トムの言葉にサムは口を閉じる。

 人さらいにしては着ている服が良すぎた。あんな手触りの服なんてこの辺りじゃ着てるやつなんかいない。あれじゃまるでお貴族様だ。……この街の姫さまでもあんな服着ない。

 祭りのどさくさを狙って来たのだろうか。

 それともやはり、別の狙いがあったのだろうか。


「ミーシャとユリウスがいてくれてよかったよ、ほんと」

「……そうだね」


 最初は鼻持ちならないお坊ちゃんかと思ってた。

 姫さまの紹介だったけど、遊んでやるもんかと思ってた。……ミーシャのとりなしがなければ。


「あいつ、いつのまにあんなに剣の腕あげたんだよ」

「ミーシャと特訓してるらしいよ」

「へえ」

「鼻にシワ寄せるのやめなよ、女の子なのに」

「ほっとけよ」


 短く切った髪をつんつんと引っ張るトムの手を払いのけながら、今日の出来事を振り返る。

 相手は三人だった。サムとトムだけなら逃げられなかっただろう。

 ミーシャが見つけてユリウスがやってきて、逃したトムの弟がほかの子たちを呼んできて、気がつけば二十人超えていた。

 クリスと黒いローブの奴らがやってくるまで、にらみ合いが続いていたのだ。


「ユリウス、帰っちゃうのかなあ」

「そりゃそうだろ、親が来たってことは」


 夕方やってきたユリウスの父親は、サムたちの目の前にもかかわらず、号泣したのだ。それはユリウスも同じだったけど。


「……いいなあ」


 トムは思わず本音をこぼす。サムは横でぺったり床に這いつくばる幼馴染に目を細める。


「お前の父ちゃんだってでかいじゃないか」

「デカけりゃいいってもんでもないよ。サムだって」

「知らないよ」


 くるりと背を向ける。親の話はしたくない。トムの父親は子煩悩で子供好きで、サムにだって優しい。だからなおさら辛い。


「クリスみたいになりたいな」

「トム、お前魔法使いになんの?」


 びっくりして寝返りを打つと、トムはへへっと笑う。


「なれるわけないじゃん、あんなの」


 今日見たことはきっと忘れない。

 空を自在に飛ぶクリスとか、水や火や風を操る黒いローブの奴らとか、いきなり伸びてきた木の蔓とか。


「お前だってうっとり見てたくせに」

「うっとりなんかしてねえよっ」


 確かにすごいと思った。

 祭りの時にちょっとだけ見るのとは訳が違った。

 人さらいたちはあっという間に捕まって、クリスがどこかに連れてった。

 そのあと、みんなに口止めの魔法をかけたって言っていた。

 でも、こうやって喋れる。魔法ってなんなんだろう。トムが魔法使いになったらどんな感じだろう。

 そんなことを考えていたら、トムが寄ってきた。寝返り打って毛布からはみ出たらしい。

 寄りかかってきたトムの体はとても暖かかった。

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