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子爵令嬢は自由になりたい【連載版】  作者: と〜や
第十四章 子爵令嬢は秋を見送る
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146.子爵令嬢は祭りを巡る

 結局、セレシュにはカレルが、フェリスにはクリスが、わたしにはグレンがつくことになった。

 ちょっと驚いたのは、グレンがセレシュと普通に喋っていたこと。いつの間にそんなに仲良くなったのかしら。

 そういえば古着屋の制服の件で一緒になったって話していたことを思い出した。

 大丈夫かしらと思ったけれど、セレシュは気を悪くした様子はないし、カレルも咎めないところを見ると、王都ではあれが日常なのね。

 グレンは祭りが終われば視察団とともに山を降りることになっているらしい。前に言っていた事情というのはこれのことだったのね。ウェイド将軍と共に降りるなら安心だわ。

 フェリスは公務だから、と出かける前に領主たる父との面会を望んだのだけれど、あいにく閉会の儀の準備で不在だった。

 ……ちょっと怪しいとは思ったのだけれど、ベルモントが言うのなら仕方ないわね。

 儀式の時にはきっと、しゃんとした顔を見せてくれるでしょう。


 少し遅い昼を食べてから、と提案したのだけれど、フェリスに断られてしまった。曰く、食べ歩きなるものがしたい、と。

 フェリスについて来た侍女兼毒味役の女性が出がけにかなり強く言い聞かせていたけれど、きっと諦めないわね。

 わたしも祭りの屋台で出ているものが完全に安全とは言い切れない。……残念ながら。

 公務であり、王女と王子としてここに降り立った二人を、我が領民が害するとは思っていないけれど、多くの人が出入りする祭りで絶対は言えない。

 ……春の市でセレシュを見失った恐怖を再び味わいたくはないもの。

 そのくらいならわたしが毒味する、と件の侍女に告げて、フェリスとセレシュに全力で止められた。

 結局、その侍女(と侍女の護衛)も一行に加わることになった。


 ともあれ、私たちは館を出た。


 ◇◇◇◇


 昼食がわりに焼きたての串焼きをみんなで頬張り(もちろん立ったまま。これはセレシュの希望だった)、振る舞い酒をちょびっとだけ舐めたり(フェリスには侍女と護衛が全力で阻止したみたいだけど、こっそり飲んでいた)しながら街中を練り歩いた。

 お師匠様が手配してくれたのか、それともウェイド侯爵か、わたしたちの行く先はきっちり警備しやすいように人の流れが整備されていた。

 ……時折鋭い視線を感じたけれど、気のせいではなかったみたい。カレルもクリスも、セレシュでさえも腰の剣に片手が乗っている。いつでも抜けるように。

 ……こんな街じゃなかったはずなのに。

 街中を急ぎ足で見て歩いたのち、壁外へと向かう。ここはフェリスたっての希望だった。

 魔術師たちはそろそろ山を降りる準備を始めていたみたいで、あまり品数は多くない。少し話を聞くと、今年は勝負運を上げる石がよく売れたらしい。裏で力くらべの賭けをやってることは知っていたけれど、今年は白熱しているみたい。


「あれは何?」

「あれは呪い石(まじないいし)よ」

「呪い石?」

「要するに魔具だ。……あんたたちの知るものとは比べ物にならないくらい、ほんの少しの効果しかないがな」


 卓に並べられた小さな石を指先で弄びながらクリスが説明すると、セレシュ達は頷いた。

 以前通った時には顔を隠して……もとい、姿をくらませたクリスだけれど、今日はいいのかしら。

 王女の護衛といてそばを離れるわけにはいかないものね。露店の店主もクリスとフェリス達を交互に見ながら脂汗を額に浮かせている。


「これは何ができるのかしら」


 店主は緊張で言葉を詰まらせながらも幸運が上昇するとか恋愛成就の呪いだとか、異性を引きつける匂いがする石だとか説明している。

 近くの露店をざっと見回すと、途端に目をそらす者が結構いる。敵意のこもった視線はないけれど、捕まったら厄介だと思われているみたいね。……別に取り締まりに来たわけでもないのだけれど。

 フェリスたちは魔術師の露店を片っ端から覗き込むと、並ぶ商品を一つ二つと買い上げている。

 通り過ぎた後に振り返れば、町の人たちが露店に集まっていた。騒ぎにならなきゃいいけれど、と思いつつフェリスに追いついた。


「何を買っていたの?」

「ふふ、内緒ですわ」


 手のひらに収まっている袋をころころと揺すってフェリスは嬉しそうに微笑む。


「あれ、兄上たちへの土産なんだって」

「セレ兄様っ」

「……へえぇ」


 焦って口調でセレシュに詰め寄るフェリスの横で、クリスが袋を見つめてにやりと笑う。……どういう効果のものを買ったのか、クリスは把握しているのね。その表情から見るに、()()()()()類のものらしい。


「ち、違いますわっ」

「あれ、そうなの? じゃあ父上母上への土産? じゃないよね?」


 そう言って笑うセレシュの顔はとっても意地悪な笑みが浮かぶ。


「も、もうっ、知りませんのっ!」


 ぷい、とそっぽを向いたフェリスは、手の中の袋を侍女に押し付けて歩き出した。

 フェリスが一人だけ離れた時、ひときわ強い風が吹いた。砂埃が上がる中、クリスが何事か呟いたのが聞こえ、舞い上がった砂が一斉に地に落ちる。

 視界がクリアになると、フェリスと彼女の侍女、それからわたしを囲むように、四人の護衛とセレシュが剣を抜いた状態で四方を警戒していた。


「クリス」

「離れるな」


 わたしはフェリスの手を握り締めながら、鍛錬場で見たクリスのつむじ風を思い出していた。今のもそうなのかもしれない。クリスの態度がそれを物語っているようにも見える。

 刺すような視線は感じない。けれど、もしそうなのだとしたら、ここにはわたしたちにーーわたしたちの中の誰かに敵意を持つ人がいる。


「街中の視察は終わりだ」


 クリスの言葉に、わたしたちは無言でうなずいた。



 館へ戻るとすぐに、クリスは姿を消した。

 あの場所には魔術師が多くいた。どこかに雇われた者がいたのだろうか。

 フェリスが離れた隙を狙ったのも気になる。狙われたのはフェリスか、わたしたちか。

 フェリスは戻るとすぐに部屋に閉じこもった。侍女と護衛が付いているから心配はないだろうけれど、相手が魔術師では不十分だ。

 クリスが護符をわたしたちにくれたけれど、彼一人でわたしたち全員を守れるわけじゃない。

 結局、閉会の儀式へはあの場にいた全員が参加しないことにした。


次回更新はいつも通り4/23火曜の12時です

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