表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
子爵令嬢は自由になりたい【連載版】  作者: と〜や
第十三章 王太子は休養を取る
147/199

閑話・子爵令嬢は気づく

「お嬢様、お手紙が届いております」


 銀の盆に乗せてベルモントが持ってきてくれたのは、分厚い一通の封筒。

 分厚さだけでフェリスからの手紙だとすぐにわかる。


「ありがとう」


 避暑地から送ってくれたのが最後だったから、ずいぶん久しぶりだわね。


 いつものように封筒からふわりといい香りが匂ってくる。

 今回は間があいたせいか、いつもより分厚いわね。


 ひっくり返して封蝋を剥がす。剥がしてから、いつもと封蝋が違ったような気がした。

 フェリスが最近使っていたのは薄いピンクだったと思うけれど、今回は珍しく真っ赤だ。崩してしまったから、印章の柄ははっきりは分からない。


 けれど、なぜかあの方のことを思い出した。


 ーーそんなこと、あるはずないのに。


 ほんの少しだけふわりと浮き上がった心と痛みを押し込めて、手紙を読み始めた。


 ◇◇◇◇


 返事を返して二日とおかずに返事が返ってきた。

 あの方が休養に入ったことは知っている。フェリスが収穫祭に来られないことも。

 フェリスもレオ様もセレシュ様も、あの方の分の公務を引き受けているらしい。

 忙しくなるのは仕方ないけれど、無理はして欲しくない。

 前にもまして分厚い封筒をひっくり返す。

 今回も赤い封蝋だ。

 そっと触れて、ふと違和感に気がついた。

 ……印章に百合の花がない。

 震える手で封筒を表に向ける。

 見るだけでフェリスからの手紙とわかるからと、あまり気にしていなかったけれど。


 封蝋に刻まれた印章も、流れるような筆跡で書かれた、『ユーマ・ベルエニー』の名前も。


「ミゲール様……」


 いつもと違う、少し青い封筒も、ふわりと漂う香りも。

 どうしてこんなに揺さぶられるの……。


 もう、忘れなきゃならないのに。

 どうして、こんな思い出させるようなことをするの……?

 声を押し殺して涙が枯れるまで泣き続けた。


 泣き止んで、封筒を開いたけれど、やっぱりあの方からの手紙はなくて、軽く落胆する。


 きっと、フェリスが忙しすぎるからと引き受けただけなのよ。

 深い意味なんかないに違いない。

 わたしが勘違いするようなことなんかないに決まってる。

 だから……心の片隅にそっとしまい込む。

 あの方を思うことをやめられない、忘れることもできないのだから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ