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子爵令嬢は自由になりたい【連載版】  作者: と〜や
第十三章 王太子は休養を取る
136/199

133.王太子は急病になる

 仮面舞踏会から帰ると、父王からの呼び出しを受けた。

 案内された部屋に入ると、こんな時間だと言うのに両親と弟、妹がすでに集まって卓についていた。

 父王の表情にミゲールは表情を引き締める。

 何事があったのだ。こんな時に出かけていたことが悔やまれる。行き先を告げずに出たから、呼び戻すこともできなかったのだろう。


「レオからの早馬だ」


 すでに他の者は読んだあとらしい。渡された文は短かった。


『南洋の小粒な黒真珠には女王の秘蔵品がよく似合う』


 はっと顔を上げると父は苦い顔で頷く。


「外相の情報にもなかった」


 ミリネイアからもそんな話は聞いていない。

 ……まさか、ベリーナ女王の一の姫までついて来ているとは。


「影からの報告も遅ればせながら上がって来た。レオの出席する催しには必ず現れるらしい。国に入ってからはお前とのことは一切口に出していない」


 要するにあれは海までのルート確保についた嘘だったということか。

 だとしても、許せる嘘ではないが。


「女王の秘蔵品を受け入れぬわけにはいかん。となれば黒真珠も無下にはできん」

「レオはどうなのです?」


 母の声に父王は眉根を寄せる。


「周辺がうるさくなっておるな。……想定していたことではあるが」


 ミゲールか残るわけにはいかなかった。かといって成人したばかりのセレシュで務まる役でもない。

 レオを残すと決めた時から覚悟はしていたことだ。


「レオはいい。問題はお前だ、ミゲール」


 もうじきサマーシーズンも終わる。あと数日もすれば王都に向けて貴族たちの大移動が始まる。

 当然ながら王族の自分たちも戻る。戻れば、女王の娘たちを受け入れるしかない。


 次期女王を歓待するのに王太子たるミゲールが出ないわけにはいかない。ここまで避けて来た意味がなくなる。


「……父上」


 重い沈黙を破ったのはフェリスだった。

 最近は茶会に夜会にと出ずっぱりで、疲れも色濃く見える妹は、ミゲールをちらりと見たのち父王に向き直る。


「この際、兄上には急病になっていただきませんか」

「何を」

「続けなさい」


 ミゲールの言葉を王は手のひらで止める。

 フェリスは軽く頷いて続けた。


「兄上でなければならない政務はございますか?」

「あるに決まっているだろう」


 次期王として、父王から権限を委譲されていることはいくつもある。

 軍事面は主にレオに任せているが、その分政務の比率は大きい。


「ふむ。……レオに任せている政務の一部をセレシュに任せればその分は引き取れよう」

「では、わたくしができることは御座いまして?」

「フェリス?」

「そうだな。……社交と外交はお前でもこなせる部分はある」

「では、フェリス一人で無理そうなものはわたくしがつきましょう」


 王妃は硬い表情のまま告げる。


「細かいことは明日で良い。引き継げない政務はわしがやろう」

「母上、父上まで……」

「驚くことではないでしょう?」


 つんとそっぽを向いた妹は、じろりと横目で兄を見た。


「此度のことにはリムラーヤも……もしかすると新リムラーヤも噛んでおるのかもしれん。選択を間違えれば国ごとなくなる。……最善の手は、お前を北の姫と会わせないことだ」

「ですが……」

「ここにこのまま逗留するのも考えたが、人員を分けないほうがいいだろう。ひとまず王都へは戻れ。離宮に場所を用意させよう」

「ですが、父上」

「ミゲール。……夏の間頑張ってくれた褒美だ。休め」


 ミゲールの言葉を封じるように、父王は重ねて言った。

 夏の間働き詰めだったのは事実で、体を休めるのはありがたい。

 だが、離れたところで心が疲弊するのは目に見えている。


「それとも、田舎にでも隠れるか?」

「離れたところで心配事が増えるだけです」


 ちらりと北の砦が脳裏をよぎったのを無視して、ミゲールは語気を強める。


「いかに女王の秘蔵品と言えども他国の王宮で無体はしないでしょう。大人しく離宮にこもりますよ。仕事も、できるだけ回してください」


 何かやろうとしてます何も手につかないに決まっている。


「……それで良いのか?」

「何のことですか。それよりもレオの方を心配するべきでしょう。……このままなら女王は王太子のすげ替えを要求してくる可能性もある」

「それは、レオだけの問題ではなかろう」


 すげ替え、と自らあっさりと口にしたが、狙われるのはミゲールだ。王太子が政務を遂行できなくなれば、降りるしかない。

 最悪、命を取られることだってある。

 身を隠すのはその対策も入っているのだ。


 しかし。

 ミゲールは不意に口元を手で覆った。自分の口にした言葉にフィグと話したことが脳裏に蘇る。


「……それも、良いかもしれませんね」

「何を」

「兄上、急に何を」


 訝しげなセレシュの声に、目を細める。


「王太子をすげ替えればいい」

「ミゲール、あなた何を……」

「それでは何の牽制にもならん。むしろ北と女王に屈したとしか見えんではないか」

「……そうですね」


 力なく呟くと、妹が不安そうに顔を覗き込んでくる。


「兄上」

「大丈夫だ。……俺は自分の役目をこなすだけだ」


 それだけ言い置いて部屋を出る。四人の視線がずっと突き刺さっていたことも、父王がまだ何か言いたげだったことも、全部無視して。

ひとまずトンネルは抜けたかなと。

まだしばらく王家サイドのターンです。

ミゲール以外も自己主張強いので……すみません



ストックが順調に積み上がって来ましたので、次回更新は3/14の12時です。

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