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子爵令嬢は自由になりたい【連載版】  作者: と〜や
第十三章 王太子は休養を取る
133/199

130.王太子殿下は子爵令嬢の兄に煽られる

「で、腹は決まったか?」


 最近習慣になりつつある、仕事の後の一杯をフィグと交わしていた時のことだ。


 不意に友の告げた言葉にミゲールは眉根を寄せた。

 その様子を見てフィグはため息をつく。


「あのなあ。……お前が始めたことだろうが」

「……わかっている」


 そう、分かっている。フィグも分かっていてわざと揺さぶってくる。

 期限まで時間はない。無駄に過ごす余裕などないことも、その結果も。

 春までに相手を決めなかった場合、どうなるのか。

 父上は適当にあてがってもらえると思うなと言った。ならば自分の隣は永久に空席となる。次代に繋がねばならない王としては失格だ。

 ……おそらく、父上はレオの立太子も視野に入れている。

 ああ、最初からそうすればよかったのかもしれない。

 そうすれば、彼女を王宮に閉じ込めることも、笑顔を奪うこともなかっただろうから。

 ……全ては自分のわがままだ。


 酒杯の中身を揺らしながらため息をつくと、いきなり鼻をつままれた。かなり痛い。もちろんフィグの仕業だ。


「何をする」

「阿呆なこと考えてそうな顔だったからな。……陛下は何と言ったんだ」

「何度も言わせるな」

「なら、何が答えか、分かってるんだろ」



 ーー来年の春の宴までに妃を見つけよ

 ーー春の宴の時点で婚約していなくても構わん。国内外も問わん。条件は、自分で探すこと

 ーーそれも含めての罰だ。適当に見繕ってもらえるとでも思っていたか?

 ーー本当に欲しいものならなりふり構わずに取りに行け



 父上は罰だと言った。

 あの時、自分の思うように動けていたら、こんなことにはならなかったのかもしれない。

 他の三人と平等に扱えという父の言葉を守ることが、彼女の立場を守ることにつながると思っていたし、事実そうだった。

 だから、それのせいだとは言わない。

 ただ……自分の思いすら押し込めなければならなかった。

 笑み一つ、言葉一つもあげられない。……それがどれだけ彼女を傷つけていたか。


 ……父上、なりふり構わずに取りに行けといまさら言われても、もう遅いのです。


 それも含めての、罰だということなのだろう。

 彼女を得るために、何を犠牲にすればよかった?

 それは、自分の取れる道だっただろうか。


 ……いや、ないな。

 自分の近くにいるだけで、あれほどの危険にさらされていたのだ。

 隣に、唯一にと望めば、彼女自身を失っていたに違いない。

 ……だから、これは正しかったのだ。


「……春までに相手を見つければいいのだろう?」

「だあっ!」


 フィグは空の酒杯をテーブルに叩きつけると、ミゲールを睨む。酒が入ったフィグが暴れるのも叫ぶのももう慣れたものだ。侍従たちも最初は何事かと飛び込んできたが、今では物音一つしない。


「お前なあ……」

「これは俺の問題だ。お前であっても口を挟まれたくない」

「なら言うがな、お前は本当にそれでいいのか? あいつが他の男のものになっても」


 一瞬そのシーンを思い浮かべたミゲールは顔を歪める。

 だが、思いを告げることなく手を離したのは自分だ。

 彼女がそれを望むなら、自分に何が出来る?

 じろりとフィグを睨み付けると、友は眉根を寄せる。


「ならば聞くがよ、王太子サマ。……そんな状態で他の女を抱けるのか?」


 あけすけな物言いにミゲールも負けず劣らず眉間にシワが寄る。


「……お前は知っているだろうが」

「ああ、そりゃ知ってらぁ。娼館に連れてったのは俺だからな。でも養成学校時代だろうが。あれから何年経ったと思ってるんだよ」

「それが何だと言うんだ。抱けるに決まってるだろう」


 手酌でなみなみと注いた酒を一気に飲み干して、フィグは再び酒杯を荒々しくテーブルに置いた。


「……言ったな」

「何がだ」

「本気かどうか、見せてもらおうか。ろくに女を口説くこともできないくせに」

「何だと?」

「事実だろうが。相変わらず堅い話しかしてねぇんだろ」


 それが何を指すのかわからないミゲールではない。あの三人とは恋や愛を超えた、仕事仲間のような関係を保っている。

 だからこそ、彼女らとの時間は貴重なのだ。


「大事なことだ」

「だとしても、愛想一つ振らねえとか、ありえねえぞ。レオ王子を見習えよ」

「俺はあいつとは違う」


 そう嘯くと、フィグはふん、と鼻で笑う。失礼な奴だ。


「三日後の夜。空いてるよな」


 自分のスケジュールは誰よりもフィグが把握している。

 そのフィグが言うのだから空いているのは間違いない。


「何がある?」

「夜会だ」


 夜会など、ここに来て散々出席させられている。わざわざ言うほどのことはないだろうに、フィグの黒い笑みを見ると不安が募る。


「何を企んでいる」

「さあな。それにお前も言ってただろ、息抜きは必要だってな」


 にやにや笑うフィグに、ミゲールは三日後の夜はろくなことにならなさそうだ、とため息を漏らした。

ちょっとしんどいシーンが続くので、トンネル抜けるまで連続更新しますね。


まあ、ヘタレな王太子のお仕置き回みたいなものです。


次回更新は3/7です。


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